其の伍 彼岸花
一方その頃、雀はというと
愛する兄を盗られた事に腹を立て、燕を妬んでいた。
『兄様はどうしてあんな娘の相手ばかりするの...兄様は私が好きなのに...あの小汚い娘が色目を使ったに決まってるわ!だって兄様は子供の時何度も何度も私に好きだと、愛していると言ってくれた...何度も何度も何度も何度も何度も!それなのに兄様が好き好んであんな娘の相手をする訳ない!兄様を奪うなんて許さない!許さない許さない許さない許さない!許さない!!』
「絶対に許さない...!あんな小娘、私の手で消してやるわ...!」
口から漏れたのは、他の者からすれば恐ろしいとしか思えないものだった。
にも関わらず、雀に近付く者がひとり。
「その願い、叶えて差し上げましょう。」
「...?」
雀が見上げると、いかにも怪しげな、それでいて美しい顔立ちをした男がいた。
「貴女様のお考えと、私の考えとは全く別物で御座います。しかし、目的は似ている...」
男は雀の手を取った。
「貴女様は、燕をこらしめたい。私は、鷹というある寺の住職である男からから全てを奪いたい。」
「鷹...?」
聞き慣れない名に、雀は首を傾げた。
「全てをお話するのは、ここでは少し聞く耳が多すぎます。今夜また、貴女様の御部屋へ向かいます。もう一度、その時にお会いしましょう。」
「...分かったわ。但し、逃げたら貴方もどうなるか分からないわよ」
「おお、怖い怖い」
冗談めかして言った口元には、笑みが浮かんでいた。
男は雀を見たまま一歩後ろに下がり、そのまま何も無かったように行ってしまった。
何かは分からないけれど、あの女に制裁を加えられるならなんだっていいわ。
私から兄様を奪ったあの女を消せるなら...!
そんな事を考える雀は笑っていた。
この上なく妖艶に、美しく。
まるで、秋に咲く彼岸花の様に真っ赤な唇を歪めて、
妖しく、美しく、そして気高く。