其の参 雀
帝の家臣となった燕は、上司に宮内を案内してもらっていた。
しかし、この宮殿の広いこと。
明日はきっと迷子だな、と燕は思った。
森では、気に紐をくくって目印にしていたが、この中は外から見たら同じような部屋ばかりなのだ。
と、上司がある部屋の前で立ち止まって、何やら中の者に許可を得ていた。
「今日から此処で寝起きしろ。渡り廊下の先は男の部屋だから、行かない方が身の為だ。」
「は、はい」
上司はそれだけ言うと、元きた方へ去って行った。
燕はどうしようか考えた後、とりあえずそっと部屋に入った。
「失礼します.....」
そう言って入ると、部屋にいるほぼ全員が燕の方を向いた。いるのは女だけだ。
燕はどきっとして、そこに固まってしまった。
そんな自分に近付いてきたのは、一番綺麗な着物を着た女だった。
「あなた、名前はなんというの?」
「つ、燕.....です...」
燕が俯いて言った。
上目で見ると、その女は笑んでいた。
「そう。私は帝の妹の雀。よろしくね。」
「よ、宜しくお願いします....」
燕は自分でも驚く程無口になっている気がした。
緊張してうまく話せない。
「あなた、見た所巫女出身ね?少し汚れているけど......」
少しどころではない、と燕は思った。
袖や裾は破け、白い着物には茶色い染みが沢山。
帝は今の燕の何を持って家臣になれとなど言ったのだろう。
「それに痩せているわ。体を洗っていらっしゃい。その間に、新しい洋服と、ご飯を用意させるから。」
「....あのっ」
「何かしら?」
「巫女の服は、捨てないでください。自分で縫って洗います。」
燕が始めて雀の目を見て話したからだろうか、雀はしばし驚いた顔をしていたが、承諾してくれた。
体を洗って、新しい着物に着替えて鏡を見ると、まるで自分では無いように燕には思えた。
その後の食事で、燕は掻き込むように飯を食べた。
腹が減って倒れたのだから、仕方ない。
それから数時間後、部屋の女達は、先程までは怖かったのにとても優しく燕に接した。
このまま仲良くなれば、鷹の事を容易く聞き出せるかもしれないと、そう燕は思った。
鷹が出てきたら、すぐに此処を辞めて、昔のように静かに暮らすのだ、と燕は自分に言い聞かせた。