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甘い香りは実らない

作者: 人外好きのせいでねじれた心の持ち主

 リア充爆発しろ!


 公然と二人の世界を築き上げるカップルをねたんで、発せられる言葉。恋人がいることがステータスで、それを自慢されたときに言いたい言葉。そして、同時に自分はモテないのだという劣等感を含む言葉でもある。

 異性(時には同性のこともあるが)との付き合いを楽しむ者は、そうでない者も同じになればいいと言う。あるいは、恋人を見つける努力をしていないからだと言うかもしれない。無論、いわゆる非リアの人達はそういった努力をすればいいのだ。だが、言われっぱなしは悔しいから、だいたい論争になる。貶められれば、相手も貶めたくなるのはしかたない。

 けれど私は、なんともつまらない争いだと思う。いわゆるリア充と非リアの言い合いなど、“彼”の嘆きに比べれば小さい話だ。私たちの身近なところにいるというのに、“彼”、いや、“彼ら”の切実な問題は大抵気にもとめられないのだ。


 彼らは、実らない恋をしている。そう言うと、諦めるのは早いと笑う人も出るかもしれない。本人の問題だ、努力すればいいじゃないかと言う人もあるかもしれない。でもそうじゃないと、私は断言出来る。

 彼らはよくある恋愛物のように、想いを秘めたまま黙っているのではない。モテる努力をしていないのでもない。むしろ積極的に、相手を惹き付ける努力をしている。容姿は目立たず、探さないと見つからないが、彼らは何より体臭に気を配っている。その甘くかぐわしい香りは、関係のない私たちでさえ引き寄せられてしまうほどだ。

 それなのに、彼らの想いは決して相手に届くことはない。恋が実を結び、子を成すこともない。非リアと揶揄される人々でさえ、手段さえ選ばなければ子孫を残すという生命の使命を一つ果たせるというのに。“彼”は、彼ら自身の努力では決して報われない業を背負ってしまったのだ。

 いや、「想いが届かない」と言うのは間違いではないが、少し違うかもしれない。彼らが想いを伝えるべき相手が、この国に存在しないのだ。この国にいる限り、報われることのない恋の努力。そして、それを背負わせたのは他でもない私たち。


 小さく控えめに色づいて、甘い香りで魅了する花、金木犀(きんもくせい)。彼らはこの国の外より連れて来られた存在だ。そのときに、ただ雄株のみが日本にやってきた。たとえどんなに甘い香りで虫を惹き付け花粉を運んでもらおうとも、受け取るべき雌株は存在しない。故に、彼らの恋は実らない。自力で動けない彼らが、自身の努力だけで逢瀬を遂げようなど、無理な話なのだ。

 こうなったのは他でもない、私たち人間の仕業だ。実を付けて勝手に増えることがないというのは、ただ人間の都合でしかない。神か何かのごとく理不尽に、業を背負わせ自分だけ楽しむ。なんとも傲慢な存在だと、彼らに同情したくなる。

 全くの異国に連れて来られ、秋にはいつものように香りで惹き付けてみせる。けれど想い人は存在せず、努力もただ虚無へ帰る。自分で大陸へ渡る手段のない彼らに、これ以上なすすべはない。こんな恋愛小説は、はなから成立しないではないか。自分以外の者に支配された、残酷な運命――いや、そもそもそう思われないのだからなお悪い。

 それでいて、小さな花は謙虚だと褒めそやされ、甘い香りは恋路として語られるのだから、彼らはたまったものじゃないだろう。事実、甘い香りは彼らの恋の証だ。だが、全く関係のない私たちを甘い気分にさせたところで、嬉しくないに決まっている。だから、あの言葉を是非とも彼らに譲ってあげたいと思う。


 リア充爆発しろ、ってね。

 この時期、キンモクセイの香りで思い出すのは、「キンモクセイは雌雄異株なのに日本には雄株しかない」ということ。

下手な恋愛小説より酷い話だなあと思っていたんですが、「キンモクセイ」で検索しても恋愛物ばかりだったのでかっとなって書いた。後悔はしていない。

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