01.出会い
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まだ日も登り切っていない薄暗い早朝に、一人の若い男がいかにも寒そうに身を縮めて、ひっそりと静かな通りを足早に歩いていた。
芝が引き詰めれた広い庭を持つ家並みには、緑が程良く植えられていて空気も澄んでいる。白と柔らかい様々な色合いを基調とした真新しい家々が並ぶ、郊外と思わしきこの場所は至って庶民的な風景である。
そんな郊外と思わしき場所の気候は少し肌寒いとは言えるものの、彼ほど身を縮めて早足で走るというまではさほど寒くはない。
ついこの前まで、毎年やって来る夏の暑さに音を上げていた地上の住民達であったから、今の気候は随分と過ごしやすい時期と言えよう。
しかしながら、彼がまとう衣類というのは色あせて擦り切れた黒の外套で、地面すれすれを裾がかすって所々泥がこびりついているものである。真冬の寒さのように外套で身をくるむその姿は、随分と滑稽に見える。普通の人間が纏わない不気味な雰囲気を発する彼を警戒して、家の玄関に繋がれた大きな茶色の犬が彼に向かって低いうなり声を上げて、すぐ脇を通る彼を吠えたてた。
そんな犬から逃げるように足の速度を上げた彼は、やや焦ったかように白い塗料が塗られた柵がある家の角を左に曲がった。
そのまま通りを同じ速さで突っ切るかと思ったが、彼はしばし歩いてからピタリと足を止め、目の前に置かれた物体を凝視している。
突如として止まったことで、あわや顔面から地面へと激突しそうになっていたが、彼はなんとか踏ん張り硬直したままだ。
彼が凝視するその物体は、通りのど真ん中にでんと置かれていて、大きな手さげかごからもそもそと物体が身動きしていた。
真新しい白の布地に包まれた淡い黄色の産着を着るソレが、きょろりと愛らしい茶色の瞳を彼に向けていた。
彼は、鬱陶しいほど疎らに伸びた藍色の髪の隙間から、美しい金色の瞳をこれでもかというほど見開いている。
赤子は泣きも笑いもせず、じっと彼を見つめている。
静かな沈黙が二人を包んでいた。
しかし、辺りに存在する家々から住人達が行動を起こす音が聞こえてくると、しばし放心状態になっていた彼がハッと我に返って瞬きを繰り返した。
ガチャリとどこからか扉を開ける音が聞こえた時、彼はビクッと大袈裟に身体を震わせて駆け出した。
人は、思わぬ混乱状態に陥った際、本人も不思議に思うほどの謎の行動に出る。
つまり、彼は走り出した際に…一体何を考えての行動かは謎だが、赤子が入った手さげかごをぞんざいに手に取って駆け出したのだ。
駆け出した彼は、朝日が昇るとともに霧が欠き消えるかのように赤子を手に、静かにその姿を消したのだった。
――夏の終わりを告げるある日。
一人の男性が生まれて間もない赤子を拾った。
それは必然にも似た運命の始まり。