08。 教室。
弁当の蓋を閉じながら、俺はため息を零した。
弁当の中身は、まだ残っている。
「どした?なんか元気ないじゃん」
紙パックの苺オレを、飲むのを中断して櫻井が軽い調子で尋ねてくる。
昼休み。
この頃は、櫻井がよく寄ってくる様になった。
「元気もなくなる。冬って嫌いなんだ」
「えー、俺は好きだけどなぁ」
「一人もんには、淋しい季節だよな」
ぽつりと零れた台詞に、振り返る。
そこには、紙パックのミルクティーを片手に朝比奈が立っていた。
「どうせ俺は独身ですよーだ。経験豊富な朝比奈くんはいいですよねー」
櫻井が朝比奈に舌を出す。
「別に彼女いねぇし」
「えー、その顔で」
「それは、褒めてんのか」
呆れ顔の朝比奈に、俺は感嘆の息を零す。
「朝比奈と櫻井、いつの間にか仲良くなったな」
フレンドリーな櫻井も、流石に不良の朝比奈とは仲良くなかったはずだ。
朝比奈も以前なら、誰かと群れるなんてなかった。
驚く俺に、今度は朝比奈が盛大にため息を吐く。
櫻井がキョトンとして、俺を指す。
「外村のおかげしょ」
「は?」
「だって、外村と朝比奈が話してるの見て、こいつイイ奴そうって」
「お前のお節介も、悪いだけじゃないってこと」
ふいっと顔を背けた朝比奈と、ニコッと笑う櫻井を見比べる。
「俺たちを繋いでくれたの、外村だよ」
ありがと――呟かれた言葉。
さっきまで気にしていた冬の寒さが、もうよくわからない。
「外村、顔赤ーい」
「照れてんのか」
2人が、揃って意地悪な声をハモらせる。
「うるせー」
俺は耳が熱くなるのを感じながら、もう1度、弁当箱を開ける。
今年の冬は、きっと食わなきゃついていけない。
「あ、卵焼き食いたい」
横から伸びてきた手を叩く。
「駄目」
俺は、今笑ってる。
笑えてる。
俺はもう大丈夫かもしれない。
人の笑顔に囲まれている今。
大切にしたい時間、大切にしたい人達、大切にしたい自分の気持ち。
それに気づけた今が、一番大切。