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淋しい世界に星が降る。  作者: シュレディンガーの羊
本編。
8/17

07。  商店街。


隣を歩く塚本が、くすくすと笑う。


「いきなり、何かと思いました」

「なんて言えばいいのか、わかんなかったんだ」


笑われたことで、急に恥ずかしくなって顔が熱くなる。


「一緒に帰ろう、だなんて」

「そんなに笑わなくても、いいじゃんか」

「まったく外村くんは」


ほんの少しだけ、塚本が淋しそうな顔して、それからとても綺麗に笑った。


「でも、頼ってくれて嬉しいです。園田さんの誕生日プレゼント、いい物選びましょう」

「あぁ」


そう明日は、園田の誕生日。

人に贈り物をした経験皆無な俺は、こうして塚本を頼ることにした。


「なんでプレゼント、あげようと思ったんですか?」


塚本が鞄を持ち直す。

俺も少しずれたショルダーバッグをかけ直して、答える。


「俺、園田に会えて変われたから。感謝してるから、それを返したい」


誰かといる幸せをくれた人。

園田のおかげで、クラスでも笑うことが出来る様になった。

もう中学の頃とは違う。


「今、こうして塚本といれるのも、園田がいたからだし」

「……園田さんて、素敵ですよね」


塚本の表情が和らぐ。

愛しそうに目を細めて、微笑む。


「本を読むのが好きでした。いろんな世界を一人でも味わえるから。でも、この頃は園田さんと本の話しするんです。それが楽しくて、もっと読書が好きになりました」

「一人ならわかんなかった?」

「はい」


おどけて尋ねると、弾んだ声音が返ってくる。

塚本も、この頃は園田や松澤、櫻井とよく話す様になった。

前より、明るくなったなとよく思う。


「私、実は外村のこと誤解してました」

「え?」


意外な台詞を、聞き返す。

塚本に誤解を招く様なことを、知らずに口にでもしたのかと、口を押さえる。


「仲間だと思ってたんですよね。一人で平気な人なんだって。だから、園田さん達と話す様になって、すごくショックでした。でも、誤解でした」


塚本が俺を見た。

眼鏡の奥で、黒い瞳が揺れている。


「一人で平気な人なんて、いないかったんです。私も強がってただけで、本当は淋しかったから。だからあの時、手を差し出してくれた外村くんが」

「俺が?」


瞳を覗き返す。

瞬間、塚本が泣きそうに笑った。


「好きです」


息を呑んだ。

予想さえしていなかった台詞に、戸惑う。

わかったのは、冗談ではないこと。

わからないのは、自分が今どんな顔をしているかどうか。


「俺は」

「言わなくでください」


迷い開いた口を、塚本がそっと制した。


「私は弱いから、それを聞いたらきっと泣いてしまいます。路上で女の子を泣かせたら、大変ですよ」


悪戯に塚本は、俺の腕を引っ張る。


「本題、忘れてますって。今日は園田さんへプレゼント買いに来たんですから」

「つ、塚本っ」

「笑ってください」


はっとする。

泣かないために、噛み締められた唇。

目に盛り上がった涙。

瞳の色は、全てを始めから知っていて。

でも、諦めじゃない強い色。

塚本は再度、言った。


「笑ってください。外村くんを困らせたかったわけじゃないんです」


ごめんなさい――涙を堪えて、それでも塚本は目を逸らさなかった。

強い光がある瞳が俺を見る。


「……ありがとう」


それしか言えなかった。

一つ息を吸うと、塚本は勢いよく俺の手を引き、今までで一番綺麗に笑った。


「じゃあ、いきましょっか」


俺は頷いた。何も言えずに。




望んだものの大きさに、目眩がした。

誰かに想ってもらうことの重圧。

俺は今まで知らなかったから。

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