07。 商店街。
隣を歩く塚本が、くすくすと笑う。
「いきなり、何かと思いました」
「なんて言えばいいのか、わかんなかったんだ」
笑われたことで、急に恥ずかしくなって顔が熱くなる。
「一緒に帰ろう、だなんて」
「そんなに笑わなくても、いいじゃんか」
「まったく外村くんは」
ほんの少しだけ、塚本が淋しそうな顔して、それからとても綺麗に笑った。
「でも、頼ってくれて嬉しいです。園田さんの誕生日プレゼント、いい物選びましょう」
「あぁ」
そう明日は、園田の誕生日。
人に贈り物をした経験皆無な俺は、こうして塚本を頼ることにした。
「なんでプレゼント、あげようと思ったんですか?」
塚本が鞄を持ち直す。
俺も少しずれたショルダーバッグをかけ直して、答える。
「俺、園田に会えて変われたから。感謝してるから、それを返したい」
誰かといる幸せをくれた人。
園田のおかげで、クラスでも笑うことが出来る様になった。
もう中学の頃とは違う。
「今、こうして塚本といれるのも、園田がいたからだし」
「……園田さんて、素敵ですよね」
塚本の表情が和らぐ。
愛しそうに目を細めて、微笑む。
「本を読むのが好きでした。いろんな世界を一人でも味わえるから。でも、この頃は園田さんと本の話しするんです。それが楽しくて、もっと読書が好きになりました」
「一人ならわかんなかった?」
「はい」
おどけて尋ねると、弾んだ声音が返ってくる。
塚本も、この頃は園田や松澤、櫻井とよく話す様になった。
前より、明るくなったなとよく思う。
「私、実は外村のこと誤解してました」
「え?」
意外な台詞を、聞き返す。
塚本に誤解を招く様なことを、知らずに口にでもしたのかと、口を押さえる。
「仲間だと思ってたんですよね。一人で平気な人なんだって。だから、園田さん達と話す様になって、すごくショックでした。でも、誤解でした」
塚本が俺を見た。
眼鏡の奥で、黒い瞳が揺れている。
「一人で平気な人なんて、いないかったんです。私も強がってただけで、本当は淋しかったから。だからあの時、手を差し出してくれた外村くんが」
「俺が?」
瞳を覗き返す。
瞬間、塚本が泣きそうに笑った。
「好きです」
息を呑んだ。
予想さえしていなかった台詞に、戸惑う。
わかったのは、冗談ではないこと。
わからないのは、自分が今どんな顔をしているかどうか。
「俺は」
「言わなくでください」
迷い開いた口を、塚本がそっと制した。
「私は弱いから、それを聞いたらきっと泣いてしまいます。路上で女の子を泣かせたら、大変ですよ」
悪戯に塚本は、俺の腕を引っ張る。
「本題、忘れてますって。今日は園田さんへプレゼント買いに来たんですから」
「つ、塚本っ」
「笑ってください」
はっとする。
泣かないために、噛み締められた唇。
目に盛り上がった涙。
瞳の色は、全てを始めから知っていて。
でも、諦めじゃない強い色。
塚本は再度、言った。
「笑ってください。外村くんを困らせたかったわけじゃないんです」
ごめんなさい――涙を堪えて、それでも塚本は目を逸らさなかった。
強い光がある瞳が俺を見る。
「……ありがとう」
それしか言えなかった。
一つ息を吸うと、塚本は勢いよく俺の手を引き、今までで一番綺麗に笑った。
「じゃあ、いきましょっか」
俺は頷いた。何も言えずに。
望んだものの大きさに、目眩がした。
誰かに想ってもらうことの重圧。
俺は今まで知らなかったから。