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淋しい世界に星が降る。  作者: シュレディンガーの羊
本編。
6/17

05。  中庭。


昼休みの中庭で朝比奈を見つけた。


「何でこんな所で、鼻血出して寝てんの?」


仰向けに寝ているのを、見下ろして尋ねてみる。


「……誰、お前」

「同じクラスの外村」


数秒、記憶を漁ったのか朝比奈は黙り込み、眉間にシワを寄せる。


「知らねぇ」

「そう、残念」


肩を竦めて、隣に座る。

朝比奈は一瞬、驚きを表し、それから俺を鬱陶しげに見た。


「何、お前」

「だから、外村だって」

「そうじゃねぇよ」


足を使って、朝比奈が体を起こす。


「俺に何か用でもあんのかって、聞いてんだよ」

「特に」

「じゃあ、何で隣、座んだよ」


そう言われて、あぁと思う。

松澤もあの日俺の向かいに座った時、こんな気持ちだったんだ。


「話したいなと思って」

「はぁ?」

「朝比奈と話した事、なかったし」

「……お前、ナメてんのか」


正直に言うと、睨まれた。

自嘲するように、朝比奈は嗤った。


「俺、不良なんだぜ?関わったら、ろくなことになんねぇんだよ」

「俺が朝比奈と話そうとするのに、それがなんか関係あんの?」


そう言い切った俺に朝比奈が絶句する。

そんな中、5限目の始まりを告げるチャイムが鳴った。


「ほら、これで俺も不良」

「……勝手にしろ」


おどけてみせると、舌打ちされた。


「それって喧嘩?」


固まり始めた鼻血の跡を、指差す。

途端に面倒臭いと云う顔をされた。


「喧嘩しちゃ悪いか」

「別に」

「どいつもこいつも」


悪態をついて、朝比奈が口を開く。


「好奇心とか、正義感で首突っ込みやがる。俺の事なんてどうでもいいくせに」

「ねぇ、喧嘩してて楽しい?」

「はぁ?」


我ながら、脈絡ない質問だと思う。

でも、聞きたくなった。


「だって、殴られたら痛いし、殴ったら痛いじゃん」

いいことなんてあんの?――まっすぐ視線を合わせて、問いを重ねる。

朝比奈は、目を逸らしてから呟いた。


「そんなこと、考えたことすらねぇや」

「なんで?」

「聞かれたことねぇからよ」


ふっと、朝比奈が表情を緩める。


「ただ」

「ただ?」


途中で口をつぐんだ朝比奈を促す。


「喧嘩してる間は、みんな忘れられんだよな。頭ン中、真っ白にできる。空っぽにでもしてねぇと、いつか窒息して死んじまう。まっすぐに生きれるほど、こっちは人間できてねぇんだよ」


早口に朝比奈はそう吐き捨てた。

わかるような気もしたし、わからないような気もした。


「でも、淋しくない?」

「はぁ?」


心底わからないと云う顔に、ぽつりぽつりと言葉を零す。


「最近まで俺、淋しさなんてしょうがないと思ってた。でも、この頃は違うって思えてきた」


無意識に空を見上げて、あの日は綺麗な月夜だったなと思う。


「一人じゃ、わからなかった事が確かにあるんだ。淋しくても、誰かが隣にいると嬉しくなる。笑い合えたら、楽しい」


だから――朝比奈に向き直って言う。

目の中の光が揺れる。


「俺、朝比奈の笑った顔が見たい」


勢いに乗せられて、俺はついそう口に出していた。

朝比奈はぽかんするし、俺は自分が言った事に慌て、恥ずかしくて死にそうになる。

人生初、「穴があったら、入りたい」と言った人に激しく共感した。


「だから、えっと、なんて言うか」

「ばっかじゃねぇの」


しどろもどろになる俺を、自失から立ち直った朝比奈はスパッと切る。


「何をキモい事、言ってんだ。寝言は寝て言え」


アホ――朝比奈は立ち上がり、そのまま歩いて行く。

呼び止めようにも、何を言えばいいか分からない。

パニックを起こした頭で、何か気のきいた台詞をいわなくては。と、朝比奈が足を止める。


「あ、朝比奈?」

「でも、天才よりはバカとアホの方が、ちったぁマシだ」


振り返らない背中を見つめて、少しだけ赤い耳に気づく。

自然に笑い声が零れた。


「笑うなっ」

「朝比奈、素直じゃねぇ」


5時間目のチャイムに被せて、俺はきゃらきゃらと笑った。




淋しい時、頭を空にするより、誰かと笑い飛ばした方が、きっと強く生きていける。

俺は強く生きていきたい。

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