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淋しい世界に星が降る。  作者: シュレディンガーの羊
本編。
5/17

04。  帰り道。


帰り道をゆっくり歩いていた時だった。


「外村っ」

「ん?」


いきなり後ろから、そう呼び止められた。

走り寄ってくる一人の男子生徒。


「櫻井?」

「今日、委員会忘れただろっ」

「あ」


確かに今日は美化委員会の日だった。

すっかり忘れていた。


「悪い、櫻井」

「たくよー。マイペースすぎだろ、お前」


むすっとした表情に、思わず笑う。

それに気付いた櫻井がぽつりと呟く。


「今の外村、いいな」

「は?」

「なんか生きてるって感じだ」

「じゃあ、それまで死んでたのかよ」


隣を歩く櫻井をこずく。

いつの間にか、こんな事も何気なく出来るようになった。

この頃、俺の中で何かが変わりつつある。


「外村はすごいな」

「なんでだよ?」

「だって、なんか惹かれるもんがある」


照れもせずに、静かにそう言った櫻井に首を傾げる。


「櫻井?」

「な、なんでもねぇよ」


慌てたように、櫻井が手を振った。

それきり途切れる会話。

思わず、口を開く。


「櫻井、お前さぁ園田が好きなんだろ」

「な、何言ってんだよっ」


顔を真っ赤にして、櫻井が叫ぶ。


「いきなり何だよ、俺は別にっ」

「だっていつも、園田のこと見てんじゃん」

「うっ」

「話してると犬のしっぽが見えるし」

「うぐっ」

「どんだけ好きなんだよって感じ」

「うわぁーっ!」


さっきより大声で叫んで、櫻井が道路にうずくまる。

ちょっとやり過ぎたかな、と思う。


「わりぃ。ちょっと言い過ぎたわ」

「ちょっとじゃねぇよっ」


涙目になりながら、櫻井が俺を見上げる。


「何でお前にばれるんだよ、よりによって」

「……」

「マイペースでどっか抜けてるくせにぃ」

「あ、それ褒め言葉か」

「ちげぇよっ」


櫻井はぐすぐすと鼻を啜って立ち上がる。

恨めしそうな目を見て、精一杯のシリアス顔を作る。


「別に俺、園田と付き合ってねぇよ」

「そんなこと、知ってらぁ」

「なら、何でだよ」

「……何でって何が?」

「元気なくね?」

「俺だっていつも元気な訳じゃないし」


頬を膨らめて、櫻井が拗ねる。


「いつも、無駄に笑顔大安売りなのに」

「無駄に大安売りで悪かったなっ」

「いや、褒めてんだぜ」

「うっせぇ。裏毒舌家め」


櫻井が、べぇーと舌を出す。

子供っぽい仕草だが、不思議と櫻井には似合うと思う。


「俺さぁ」


不意に小さくなる声。

話の移り変わりに、知らず知らず口を閉ざす。


「自分が消えそうになる時がある」

「消える?」

「心ン中に誰かがいないと、自分が何処に立ってるのかわかんなくなんだ」

「それが、園田な訳?」


櫻井は何も言わなかった。

笑うことも、頷くこともしなかった。


「だから、外村は」


途切れた言葉は、迷いを孕んで淋しさに揺れた。


「櫻井」


堪らず、口をはさむ。

そんな顔しないでくれ、続けるはずの台詞はなぜか続かない。

途端に櫻井が、いつもの櫻井に戻った。

曇りない笑顔で、俺の背中を叩く。


「なんでもねぇよ」


心配させまいと、笑う人だと思う。

続くはずだった言葉は、きっともう聞けない。

櫻井はそういう奴なんだ。


「あのさぁ」


なら、俺にできること。


「んー?」

「今度、遊び行こうな」


櫻井は、きょとんとしてから、


「りょーかい」


眩しいほどの笑顔で敬礼のまねをした。




誰かの心に居場所があること。

誰かの大切な地位にいれること。

俺はいつか、誰かの淋しさを埋められる存在になれるだろうか。

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