03。 電話。
「もしもし」
――こんばんは。と、外村くんですか?
「……えーと、塚本だよな?」
――は、はいっ
「間違ってなくて良かった」
――連絡網なんですけど、いいですか?
「いいよ、大丈夫」
――明日、必ず懇談会の出欠の紙を持って来て欲しいとのことでした
「りょーかい。次は中谷に回せばいいのか」
――そ、そうですね
「わかった、じゃあ」
――あ、待って下さいっ
「ん?」
――外村くん、この頃明るくなりましたねっ
「そうかな?」
――だって園田さんや松澤くんと、よく話すようになりました。前は、いつも一人でいたのに
「別に誰かといるのは嫌いじゃないよ」
――そうなんですか……
「塚本、どうしたの?」
――外村くんは、自分にはこれしかないって物ありませんか?
「これしかないって物?」
――私には、勉強です。頑張る分だけ結果が出るから。でも、時々疲れちゃうんですよね。頑張る事によって、逆にすごく泣きたくなるんです
「……」
――ごめんなさい、わからないですよね
「それだけじゃないよ」
――え?
「塚本は勉強だけじゃないよ」
――でも、私、勉強以外で取り柄なんてないし。勉強だって、この頃は上手くいかなくてっ
「でも、優しいじゃん」
――やさしい?
「いつも花瓶の水変えしてくれてる」
――し、知ってたんですかっ!
「あぁ、知ってた。だから、そんな自分の中にある物から逃げるようなこと言うなよ」
――あ、明日
「明日?」
――オススメの本、教えて下さい。私、外村くんと仲良くなりたいです
「塚本」
――その、できれば園田さんや松澤くんとも
「そっか」
――はい、私もう逃げません
「あぁ」
――だから、明日、忘れないでくださいね
「わかったよ、またな」
――はい、また
受話器を置いて、一息つく。
そして、呟く。
「オススメの本か」
そんな本、有りすぎて決められない。
思わず零れた笑みを噛み殺して、俺は本棚に向かった。
俺らは淋しさだけじゃない。
いろんなモノを抱えて、生きてる。