表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
淋しい世界に星が降る。  作者: シュレディンガーの羊
本編。
3/17

02。  図書室。

向かいの席に、誰かが座った。

今日の図書室は空いている。

放課後、図書室に来て本を読むような人間は、1人でいる時間を大切にする人間だ。

少なくとも俺はそうだと思う。

その考えを打ち破る物好きの顔を、拝んでやろうと本の文面から視線を上げる。

次の瞬間、目が合った。


「よっ」


そして片手をあげて、挨拶された。


「松澤……?」

「当たりぃ」

「俺になんか用?」

「いんや、別に」

「なら、本探しに来たのか」

「それも、ハズレ」


だいたい本は漫画しか興味ない――と、松澤は漫画コーナーを顎で示した。

果たして漫画は本にカウントされるのか、少し謎だ。


「暇つぶしに来た」


じゃあ、どうして話したこともないクラスメートの向かいに座る?

喉まで出かかった問いを、すんでで飲み込む。

松澤は確かバスケ部だ。

来週は大会があるとか言っていたはず。


「松澤、サボりか?」


松澤は一瞬、理解不能の表情の後、苦笑した。


「ストレートに言うなぁ」

「カーブに言えばいいのか」


むすっと言い返すと、ぶはっと吹き出された。


「外村って、案外面白いのな」


けらけらと笑った顔が、少し曇って見えた。

いつもの笑顔なんて知らないけれど。


「なんか駄目なんだよな」

「何が?」


脈絡のない台詞に思わず眉を潜める。


「世界が狭い気がすんだよな」

「世界が狭い?」

「そ。なんもねぇって感じ」


自嘲気味に松澤がまた笑う。

そう言えば、昨日の園田もこんなこと言っていた。


「淋しいってことか?」

「……淋しいかぁ」

「園田が似たような事、言ってた」

「あれ?お前、園田と仲良いっけか?」

「昨日が、ファーストコンタクト」

「ぶっ。やっぱ、お前面白いわ」


それは面白くない奴だと、今まで思われてたと云う事だろうか。

まぁ、思われようとは思わないけれど。


「狭くはないと思う」

「ん?」


首を傾げた松澤に、だから――と口を開く。


「だって、俺と今日初めて話しただろ。まだ、初めての事なんて世界に沢山あるよ」


きょとんとした顔に、畳み掛ける。


「狭いなんて、世界を知らない言い訳だ。もし、本当に狭いなら広げてけばいいだろ」

「広げる、か」


噛み締める様に松澤が、俺の台詞を反芻する。

そして、考えるしぐさを見せて、黙り込んだ。


「あ、悪かった。カーブに言うべきだった」


失言した気がして、慌てて口を押さえる。

今日、初めて話したのに踏み込んだことを言い過ぎた。

人と関わるのは、いつだって難しい。

一生懸命になるほど、空回りしている気になるから。


「えっと、だから」

「ありがとな」

「へ?」


意外な言葉に、驚く。

松澤が笑った。


「世界って狭いけど、広いのな。オレ、今日はじめて外村のこと面白い奴って認識したし」


それに――松澤がまっすぐと俺を見る。


「一緒に笑いてぇって思った」

「松澤」

「ま、そーいうことで」


松澤が席を立つ。


「ん?何処行くんだ?」

「部活行く。サボりは止めだ」

「それがいいな」

「まぁ、顧問から雷落ちるのは確実だけどなぁ」


そうけらけら笑って、松澤はじゃ、と手を挙げた。


「また明日な」

「あぁ、また明日」


自然とそう返した自分に、少し驚いて思わず笑った。

あぁ、なんだ。

こんなにも簡単なことだったんだ。

人と関わることも、そう悪いことじゃない。




俺の世界は、これからきっと広げられる。

自分以外の誰かのおかげで

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ