01。 公園。
下校途中の公園で、園田を見つけた。
ブランコに一人で腰掛けた後ろ姿。
「園田」
緩慢に園田が振り返った。
戸惑ったように、俺を見て首を傾げる。
「クラスメートの外村」
「……え、あぁ」
「あ、ごめん。呼び捨ては馴れ馴れしいか」
こうやって、話すのは初めてなんだし。
「いいよ、気にしない。そのかわり私も外村って呼ばせてね」
園田はそう悪戯っぽく笑った。
こんな風に笑う人だったのかと思う。
「こんなとこで、何してんの?」
そう問うと、んーと、考え込むしぐさで言う。
「青春、かな」
「は?」
「そんなことより、少し話さない?」
園田の視線の先は、隣のブランコ。
ここに座れって意味合いだろう。
「俺、腹減ってんだけど」
「飴ならあるよ」
俺の帰りたいと云う願いは、あえなく却下された。
園田は、鞄から飴を取り出して俺に差し出す。
「はい」
「……さんきゅ」
見えないように、小さくため息を零して受け取る。
苺ミルク、食べるのは何年ぶりだろう。
駄目だ、思い出せない。
答をだすのを諦めて、口にほうり込み、ブランコに腰掛ける。
「外村はさぁ」
園田も、飴を口に放り込む。
「生きることって淋しいと、思わない?」
「生きることが?」
コロコロと舌の上で、甘さを転がす。
「そう。生きてるだけで、いつも何処かが空っぽなの」
「生きてる時点で、空っぽな訳ないだろ」
「そうじゃなくて」
んー、と伝わらないのがもどかしいのか、園田は唸って眉間にシワを寄せる。
「その淋しさをいつも無意識に、埋めようとしてるのを自覚した時とか」
言葉を選ぶように、園田がとつとつとそう紡いだ。
「例えば、何で埋めんの?」
思わずそう尋ねる。
「友達とか、勉強とか、恋愛とか、部活とかかな」
でも――と園田は、ふっと表情を崩す。
その表情は、どうしようもない何かを諦めるように見えた。
「それでも、淋しさは埋まらないよ」
そう呟いて、夜空を仰ぐ。
つられて俺も上を見上げた。
何千、何億と云う星々が俺と園田を見下ろす。
「俺は、満天の星空の下が一番淋しい」
言うつもりのなかった台詞が、こぼれ落ちる。
園田が、一瞬だけ目を見開いた。
「じゃあ」
少しだけ震えた声。
「今、淋しい?」
懇願するような頼りない声。
「淋しくないよ。今は」
間髪入れずにそう言い返す。
「どうして?」
「一人じゃないから」
「え?」
「誰かといて淋しいなんて、園田はずるい」
「ずるい……?」
きょとんとした顔から、目を逸らす。
ずるいなんて、俺は駄々をこねた幼稚園児か。
それでも、口を開く。
「沢山の人に囲まれて笑ってる園田が、一人でいる俺にそんなこと言うのは、ずるいだろ。そんなこと言われたら、俺はなんなんだよ」
「あ、ごめん。気に障ったならっ」
「違う」
静かに首を振る。
そんなことが、言いたいんじゃない。
「そんなこと言ったら、園田のこと友達だと思ってる奴らが可哀相だ」
「え?」
「一緒にいても淋しいなんて言うな。あいつら、友達なんだろ?」
「……うん」
「一緒にいて淋しくない奴らを友達って言うんだろ?」
「……うん」
しんみりと、園田が頷く。
「確かに淋しいって思うことあるもけどさ」
生きてることは淋しい。
でも、だから――
「生きてるって思えんじゃねぇの」
「そうかも」
くすりっと園田が笑みを零した。
和らいだ表情に、間違ったことを言ったんじゃないと思う。
一つ深呼吸してから、園田は勢いをつけて、ブランコから飛び降りる。
そして、くるりと俺を振り返った。
「そろそろ、帰ろっか」
「あぁ」
脇に置いた鞄を手にとり立ち上がる。
いつの間にか、飴はもうなかった。
案外、話し込んでいたらしい。
「暗いし、送ってこうか?」
「ん、だいじょぶ。私の家、あそこだし」
園田が指差したのは、公園の向かいに建つ一軒家。
送ると言うより、これぢゃあ見送る距離だ。
「外村、さっき言ったよね」
「何を?」
不意な言葉に、反射的に聞き返す。
「一緒にいて淋しくないなら、友達だって」
「言ったな。まぁ、個人的意見だけど」
なら――園田の目が、まっすぐに俺を捕らえる。
「私達、もう友達だね」
また、明日――笑みを残して走り去る園田を、見送って俺は思わず笑った。
生きてる事は淋しい。
でも、それだけじゃない。
生きてる事は淋しい分、嬉しい。




