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淋しい世界に星が降る。  作者: シュレディンガーの羊
本編。
2/17

01。  公園。

下校途中の公園で、園田を見つけた。

ブランコに一人で腰掛けた後ろ姿。


「園田」


緩慢に園田が振り返った。

戸惑ったように、俺を見て首を傾げる。


「クラスメートの外村」

「……え、あぁ」

「あ、ごめん。呼び捨ては馴れ馴れしいか」


こうやって、話すのは初めてなんだし。


「いいよ、気にしない。そのかわり私も外村って呼ばせてね」


園田はそう悪戯っぽく笑った。

こんな風に笑う人だったのかと思う。


「こんなとこで、何してんの?」


そう問うと、んーと、考え込むしぐさで言う。


「青春、かな」

「は?」

「そんなことより、少し話さない?」


園田の視線の先は、隣のブランコ。

ここに座れって意味合いだろう。


「俺、腹減ってんだけど」

「飴ならあるよ」


俺の帰りたいと云う願いは、あえなく却下された。

園田は、鞄から飴を取り出して俺に差し出す。


「はい」

「……さんきゅ」


見えないように、小さくため息を零して受け取る。

苺ミルク、食べるのは何年ぶりだろう。

駄目だ、思い出せない。

答をだすのを諦めて、口にほうり込み、ブランコに腰掛ける。


「外村はさぁ」


園田も、飴を口に放り込む。


「生きることって淋しいと、思わない?」

「生きることが?」


コロコロと舌の上で、甘さを転がす。


「そう。生きてるだけで、いつも何処かが空っぽなの」

「生きてる時点で、空っぽな訳ないだろ」

「そうじゃなくて」


んー、と伝わらないのがもどかしいのか、園田は唸って眉間にシワを寄せる。


「その淋しさをいつも無意識に、埋めようとしてるのを自覚した時とか」


言葉を選ぶように、園田がとつとつとそう紡いだ。


「例えば、何で埋めんの?」


思わずそう尋ねる。


「友達とか、勉強とか、恋愛とか、部活とかかな」


でも――と園田は、ふっと表情を崩す。

その表情は、どうしようもない何かを諦めるように見えた。


「それでも、淋しさは埋まらないよ」


そう呟いて、夜空を仰ぐ。

つられて俺も上を見上げた。

何千、何億と云う星々が俺と園田を見下ろす。


「俺は、満天の星空の下が一番淋しい」


言うつもりのなかった台詞が、こぼれ落ちる。

園田が、一瞬だけ目を見開いた。


「じゃあ」


少しだけ震えた声。


「今、淋しい?」


懇願するような頼りない声。


「淋しくないよ。今は」


間髪入れずにそう言い返す。


「どうして?」

「一人じゃないから」

「え?」

「誰かといて淋しいなんて、園田はずるい」

「ずるい……?」


きょとんとした顔から、目を逸らす。

ずるいなんて、俺は駄々をこねた幼稚園児か。

それでも、口を開く。


「沢山の人に囲まれて笑ってる園田が、一人でいる俺にそんなこと言うのは、ずるいだろ。そんなこと言われたら、俺はなんなんだよ」

「あ、ごめん。気に障ったならっ」

「違う」


静かに首を振る。

そんなことが、言いたいんじゃない。


「そんなこと言ったら、園田のこと友達だと思ってる奴らが可哀相だ」

「え?」

「一緒にいても淋しいなんて言うな。あいつら、友達なんだろ?」

「……うん」

「一緒にいて淋しくない奴らを友達って言うんだろ?」

「……うん」


しんみりと、園田が頷く。


「確かに淋しいって思うことあるもけどさ」


生きてることは淋しい。

でも、だから――


「生きてるって思えんじゃねぇの」

「そうかも」


くすりっと園田が笑みを零した。

和らいだ表情に、間違ったことを言ったんじゃないと思う。

一つ深呼吸してから、園田は勢いをつけて、ブランコから飛び降りる。

そして、くるりと俺を振り返った。


「そろそろ、帰ろっか」

「あぁ」


脇に置いた鞄を手にとり立ち上がる。

いつの間にか、飴はもうなかった。

案外、話し込んでいたらしい。


「暗いし、送ってこうか?」

「ん、だいじょぶ。私の家、あそこだし」


園田が指差したのは、公園の向かいに建つ一軒家。

送ると言うより、これぢゃあ見送る距離だ。


「外村、さっき言ったよね」

「何を?」


不意な言葉に、反射的に聞き返す。


「一緒にいて淋しくないなら、友達だって」

「言ったな。まぁ、個人的意見だけど」


なら――園田の目が、まっすぐに俺を捕らえる。


「私達、もう友達だね」


また、明日――笑みを残して走り去る園田を、見送って俺は思わず笑った。




生きてる事は淋しい。

でも、それだけじゃない。

生きてる事は淋しい分、嬉しい。


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