10。 星降る世界。
クリスマス会は、田口の親が経営するレストランで開かれた。
たくさんの人の声が行き交う。
笑い声に、嬉しそうな声。
俺は少し離れた席で、ちびちびとオレンジジュースを飲んでいた。
「外村ぁ、楽しんでる?」
田口がコップを右手に、左手に塚本を引っ張ってやってくる。
塚本は慌てふためきながらも、済まなそうに上目遣いで俺を見上げた。
田口が挑むように、口を開く。
「塚本に告られたんだって?」
「……あぁ」
「でも、返事はしてないんだって?」
「それは、私がっ」
非難の滲んだ言葉に、塚本が首を振る。
田口はそれを一瞥してから、俺を睨んだ。
「せっかく外村は変わったのに、また逃げてどうするの」
それは、非難ではなかった。
俺を肯定した、認めてくれている言葉だったと気づく。
「塚本」
小さな決意が芽吹く。
静かに名前を呼んで、向き直って頭を下げる。
「ごめん」
塚本はやっぱり、綺麗に笑った。
「はい」
「でも、塚本のことは大切なんだ」
「私も外村くんが大切です」
「はい。それでよし」
田口がふっと表情を崩した。
「さぁ、すっきりしたね。行くよ、塚本。今日はとことん付き合ってあげる」
田口はまた塚本を引きずっていく。
塚本が思い出したように、振り返り口を開いた。
「外村くんも頑張ってくださいっ」
小さなガッツポーズ。
俺も苦笑して、それを返した。
「モテんな」
冷静な声に振り返れば、朝比奈がコーラを片手に立っている。
「あいつも告ったぜ」
顎で示されたのは、櫻井だった。
今は、みんなに囲まれてモノマネをやっている。
「お前も、欲しいもんは手ぇ伸ばさねぇと駄目だろ」
「……欲しいもん」
「俺はこれでも、お前に感謝してるぜ」
じゃ――朝比奈と入れ代わりにして、松澤がゆっくりと歩いてくる。
「俺、外村はいい奴だって思う」
いきなりに、放たれた台詞を素直に聞く。
「クラス全員の名前、覚えてんだろ?俺、名前呼ばれた時、嬉しかった」
「俺も嬉しかった」
自然に零れたのは、あの日と同じ。
「外村は人のこと考えられる奴じゃんか。なのに、いつも一人で線引いてる。それが、悔しかった、外村は」
園田と似てる――松澤がちょっと困った風に笑う。
「いつだって、淋しそうな所」
「松澤といる時は、淋しくない。みんなといて変われたと思うんだ」
「だからこそだって。外村、もう沈黙は止めろよ。お前は俺達に沢山言葉くれただろ」
切れた言葉のかわりに、松澤は俺の後ろを指差す。
つられて視線を、スライドさせた。
松澤が背中越しに言う。
「自分にも言ってやれよ、大丈夫って」
園田がいた。
心が波打つ。
言葉が溢れ出る。
「園田をあの日、見つけられて良かった。会えて良かった」
園田の瞳に光が灯る。
瞬きと共に、涙が盛り上がっていくのが見えた。
「俺は、もう淋しくない」
迷いなく紡げる。
言える。
俺はもう、大丈夫だ。
「俺はもう一人じゃない。園田のおかげだ」
涙が頬を滑り落ちていく。
泣いてるのは、園田だけじゃなかった。
俺も泣いていた。
「ありがとう」
震える声に園田が笑って言った。
「ありがとう、外村」
もう、きっとあの夢は見ない。
もし見たとしても、大丈夫。
俺はこう言えるから。
「俺は一人じゃない」
星は煌めいて、俺の答を祝福してくれる。
淋しいから、生きてる。
嬉しいから、生きてる。
一人じゃないから、生きていける。
一応はこのお話で完結です。
だた、時々ちまちまと番外編を書きていきます。