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淋しい世界に星が降る。  作者: シュレディンガーの羊
本編。
11/17

10。  星降る世界。


クリスマス会は、田口の親が経営するレストランで開かれた。

たくさんの人の声が行き交う。

笑い声に、嬉しそうな声。

俺は少し離れた席で、ちびちびとオレンジジュースを飲んでいた。


「外村ぁ、楽しんでる?」


田口がコップを右手に、左手に塚本を引っ張ってやってくる。

塚本は慌てふためきながらも、済まなそうに上目遣いで俺を見上げた。

田口が挑むように、口を開く。


「塚本に告られたんだって?」

「……あぁ」

「でも、返事はしてないんだって?」

「それは、私がっ」


非難の滲んだ言葉に、塚本が首を振る。

田口はそれを一瞥してから、俺を睨んだ。


「せっかく外村は変わったのに、また逃げてどうするの」


それは、非難ではなかった。

俺を肯定した、認めてくれている言葉だったと気づく。


「塚本」


小さな決意が芽吹く。

静かに名前を呼んで、向き直って頭を下げる。


「ごめん」


塚本はやっぱり、綺麗に笑った。


「はい」

「でも、塚本のことは大切なんだ」

「私も外村くんが大切です」

「はい。それでよし」


田口がふっと表情を崩した。


「さぁ、すっきりしたね。行くよ、塚本。今日はとことん付き合ってあげる」


田口はまた塚本を引きずっていく。

塚本が思い出したように、振り返り口を開いた。


「外村くんも頑張ってくださいっ」


小さなガッツポーズ。

俺も苦笑して、それを返した。


「モテんな」


冷静な声に振り返れば、朝比奈がコーラを片手に立っている。


「あいつも告ったぜ」


顎で示されたのは、櫻井だった。

今は、みんなに囲まれてモノマネをやっている。


「お前も、欲しいもんは手ぇ伸ばさねぇと駄目だろ」

「……欲しいもん」

「俺はこれでも、お前に感謝してるぜ」


じゃ――朝比奈と入れ代わりにして、松澤がゆっくりと歩いてくる。


「俺、外村はいい奴だって思う」


いきなりに、放たれた台詞を素直に聞く。


「クラス全員の名前、覚えてんだろ?俺、名前呼ばれた時、嬉しかった」

「俺も嬉しかった」


自然に零れたのは、あの日と同じ。


「外村は人のこと考えられる奴じゃんか。なのに、いつも一人で線引いてる。それが、悔しかった、外村は」


園田と似てる――松澤がちょっと困った風に笑う。


「いつだって、淋しそうな所」

「松澤といる時は、淋しくない。みんなといて変われたと思うんだ」

「だからこそだって。外村、もう沈黙は止めろよ。お前は俺達に沢山言葉くれただろ」


切れた言葉のかわりに、松澤は俺の後ろを指差す。

つられて視線を、スライドさせた。

松澤が背中越しに言う。


「自分にも言ってやれよ、大丈夫って」


園田がいた。

心が波打つ。

言葉が溢れ出る。


「園田をあの日、見つけられて良かった。会えて良かった」


園田の瞳に光が灯る。

瞬きと共に、涙が盛り上がっていくのが見えた。


「俺は、もう淋しくない」


迷いなく紡げる。

言える。

俺はもう、大丈夫だ。


「俺はもう一人じゃない。園田のおかげだ」


涙が頬を滑り落ちていく。

泣いてるのは、園田だけじゃなかった。

俺も泣いていた。


「ありがとう」


震える声に園田が笑って言った。

「ありがとう、外村」




もう、きっとあの夢は見ない。

もし見たとしても、大丈夫。

俺はこう言えるから。

「俺は一人じゃない」

星は煌めいて、俺の答を祝福してくれる。

淋しいから、生きてる。

嬉しいから、生きてる。

一人じゃないから、生きていける。

一応はこのお話で完結です。

だた、時々ちまちまと番外編を書きていきます。

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