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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

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婚約破棄された公爵令嬢は全てを奪われた――はずだったが、隣国皇太子に拾われて真実を暴いた結果、全員まとめて破滅させました

作者: 結城斎太郎
掲載日:2026/03/25

「リリアーナ・フォン・エルグランデ。貴様との婚約は、ここで破棄する」

 王城の大広間に響いたその言葉は、あまりにも唐突で、あまりにも一方的だった。

 第一王子ルイスの隣には、涙ぐむ一人の少女が立っている。柔らかな金髪、守ってあげたくなるような佇まい――“聖女”エミリア。

 その姿を見た瞬間、リリアーナはすべてを理解した。

(ああ……なるほど。そういうこと)

 だが彼女は決して取り乱さなかった。背筋を伸ばし、気品ある微笑みを浮かべる。

「理由を、お聞かせ願えますか?」

 静かな問いに、ルイスは鼻で笑った。

「とぼけるな。お前はエミリアをいじめ、命まで狙ったそうじゃないか」

「……証拠は?」

「証人はいる」

 エミリアが一歩前に出て、震える声で言う。

「わ、わたし……階段から突き落とされそうになって……っ」

 周囲からざわめきが起こる。

(見事な演技ね)

 リリアーナは内心で冷静に分析していた。

 その証言は事実ではない。だが、彼女は知っている――この場では真実など意味を持たない。

 すでに“結論”は決まっているのだ。

「もういい。これ以上の弁明は不要だ」

 ルイスは冷たく言い放つ。

「リリアーナ、お前は公爵令嬢の身でありながら嫉妬に狂った。王家の名誉を汚した罪は重い。本来なら処刑だが……情けで国外追放にしてやる」

 会場がどよめく。

 だがリリアーナは――笑った。

「……そうですか」

 そのあまりにも落ち着いた反応に、ルイスが眉をひそめる。

「何がおかしい」

「いえ。ただ――」

 彼女はゆっくりと視線を巡らせる。

「皆様、よくご覧くださいませ。これがこの国の“正義”です」

 その言葉は、静かだが鋭かった。

 だが誰も声を上げない。

 公爵家でさえ、彼女を庇わない。

(父も、切り捨てたのね)

 理解した瞬間、胸の奥で何かが静かに崩れた。

 それでも彼女は涙を流さない。

 ただ、優雅に一礼する。

「承知いたしました。王命に従い、この国を去ります」

 そうして彼女は、すべてを失った。

 ――はずだった。

 数日後。

 王都を離れた馬車の中、リリアーナは一人静かに座っていた。

 護衛も最小限。まるで厄介払いだ。

(これで終わり……かしら)

 ふと、そんな考えが浮かぶ。

 だがその瞬間――

「その終わり方は、あまりに退屈だな」

 低く整った声が響いた。

 馬車が止まる。

 扉が開かれ、現れたのは一人の青年。

 黒髪に金の瞳、圧倒的な威圧感と気品。

「……どなたですか?」

「名乗るほどの者ではないが――強いて言うなら」

 彼は微笑む。

「隣国の皇太子、アレクシスだ」

 空気が凍りついた。

「……冗談にしては趣味が悪いですね」

「本当だとしたら?」

 彼の背後には精鋭の騎士たち。

 嘘ではない。

(なぜ、こんなところに……)

 アレクシスはリリアーナをまっすぐ見つめた。

「君、冤罪だろう」

 その一言で、彼女の思考が止まる。

「……なぜ、そう思われるのですか」

「目だ」

 即答だった。

「人を害する者の目ではない。それに――」

 彼は楽しげに言う。

「調べれば、いくらでも矛盾が出てくる」

 リリアーナは初めて、わずかに驚いた表情を見せた。

「……それを、わざわざ私に?」

「興味がある」

 アレクシスは一歩近づく。

「君は優秀だ。捨てるには惜しい」

 そして、静かに手を差し出した。

「どうだ。私と来るか?」

 それは救いの手であり――同時に、選択だった。

 リリアーナは少しだけ目を伏せる。

(すべてを奪われたまま終わる? それとも――)

 顔を上げた時、その瞳にはもう迷いはなかった。

「……条件があります」

「ほう?」

「私の無実を証明し、この国に“相応の代償”を支払わせること」

 アレクシスは笑った。

「いいだろう」

 その笑みは、獲物を見つけた獣のようだった。

「――むしろ、望むところだ」

 こうして。

 すべてを失ったはずの公爵令嬢は――

 最悪の敵と、最強の味方を得た。

(待っていなさい……)

 リリアーナの瞳に、初めて感情が灯る。

(必ず、全部取り返す)

 それは、静かな復讐の誓いだった。



❆ ❆ ❆ ❆



 隣国。

 その宮殿は、王国とは比べ物にならないほど洗練されていた。

「気に入ったか?」

 アレクシスが問いかける。

「ええ。……とても合理的で、無駄がない」

「君らしい評価だな」

 彼は満足そうに笑った。

 リリアーナはすでに彼の側近のような立場になっていた。

 情報収集、分析、策略。

 彼女の才能はすぐに開花した。

「やはり、聖女エミリアには裏があります」

 資料を広げながら言う。

「ほう?」

「彼女が現れてから、不自然な事故が増えている。しかも、すべて彼女に有利に働いている」

 アレクシスは頷く。

「つまり?」

「仕組まれている、ということです」

 さらに調査を進めると――真実はあっさりと姿を現した。

 エミリアは“聖女”ではなかった。

 むしろその逆。

 毒を使い、幻惑を使い、人心を操る――暗部の人間。

 王子ルイスすら、利用されていたのだ。

「愚かだな」

 アレクシスが吐き捨てる。

「愛だと思い込まされているだけだ」

 リリアーナは静かに言った。

「では、そろそろ終わらせましょう」

 数ヶ月後。

 王国では盛大な式典が開かれていた。

 聖女エミリアと王子ルイスの婚約発表。

 だがその最中――

「お久しぶりです、殿下」

 静かな声が響いた。

 会場が凍りつく。

 そこに立っていたのは――

「リリアーナ……!?」

 かつて追放したはずの女。

 しかも、その隣には。

「隣国皇太子、アレクシスだ」

 ざわめきが爆発する。

「本日は、少々面白い余興を用意した」

 彼は指を鳴らす。

 すると、拘束された数人の男が連れてこられた。

「この者たちは、聖女の“協力者”だ」

「な、何を――!」

 エミリアの顔が青ざめる。

「証言も、証拠も揃っている」

 次々と暴かれる真実。

 毒、偽証、暗殺未遂。

 すべてが明るみに出る。

「違う……! 私は聖女よ!!」

 叫ぶエミリア。

 だがその声は、もう誰にも届かない。

 ルイスは震えていた。

「……嘘、だろ……?」

「嘘ではありません」

 リリアーナが一歩前に出る。

「殿下。あなたが捨てたのは、“真実”でした」

 その言葉は、容赦なく突き刺さる。

 ルイスは崩れ落ちた。

 裁きは早かった。

 エミリアは処刑。

 関係者も次々と粛清。

 王国は混乱に陥る。

 そして――

「改めて言おう」

 アレクシスがリリアーナに向き直る。

「私の隣に来い」

「……それは」

「契約ではない」

 彼は真剣な眼差しで言う。

「個人的な願いだ」

 リリアーナは一瞬、驚いたように目を見開く。

 だがすぐに、柔らかく微笑んだ。

「……では、お受けします」

 その答えに、アレクシスは満足そうに笑った。

 数年後。

 隣国はかつてない繁栄を迎えていた。

 その中心にいるのは――

「陛下、こちらの案件ですが」

「ああ、君に任せる」

 国を支える皇太子と、その最良のパートナー。

 かつてすべてを奪われた公爵令嬢は――

 今や、誰よりも高い場所に立っていた。

 そして。

 遠く離れた王国では、今もなお混乱が続いている。

 王子は失脚し、国力は衰退。

 誰もが、あの日の選択を悔やんでいた。

 だが――

 もう遅い。

 リリアーナは静かに呟く。

「ざまぁ、ですわ」

 その声は、どこまでも優雅で――冷酷だった。



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