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09 初めてのお祓い

 五重塔の横を通って社務所の裏手にまわると二頭立ての馬車が待っていた。それはどことなく見覚えのある馬車だった。

 前回の「鏡合わせ」は百年前だったというから、それは明治日本とつながったってことだよな? 明治の雰囲気があったとしても不思議はないか。


 巫女たちは慣れた様子で馬車に乗り込んだ。

 天ヶ崎神社は高台にあるわけではなく馬車はよく利用するようだ。

 巫女たちが乗るとすぐに馬車は走り出した。


「高台にあったら大変だったね」

「まぁ、日本の高台は古墳が多いからな」


「古墳?」

「うん、古墳の上に神社を作ってることが多いんだよ」

「そうらしいわね」


「うちの田舎は古墳が沢山あって、子供のころはよく古墳の神社に遊びに行った」

「へぇ~っ、豪族とか沢山いたのか?」

「たぶんな?」


「あんなに土を盛り上げるのって、権力を示すためだとしても相当な労力だったわよねきっと」

「当時の人口であれだけのものを作る意味があったのかな?」


「あ~それな。俺は別の意味があると思ってる」

「へぇ~、どんな?」


「うちの辺りは、いわゆる扇状地なんだけど。龍神伝説が残ってるような場所なんだよ」

「龍神伝説?」

「そう。つまり川の氾濫を治めるために龍神を祭ってたんだと思う」


「へぇ~っ。暴れ龍なんだ」

「扇状地だもんな」

「うん。そんな場所に豪族が墓を作るとしたらどうすると思う?」


「ああ、高台にするよね?」

「そうそう。流されたり埋まってしまうからな」

「なるほど~っ」

「ああ、あるかもな~っ」

「ま、俺が想像してるだけだけど」


 勝手な想像だけど、昔からある構造物はそれぞれ意味があると思う。大変な労力を使ってまでした意味を探り出すのは価値がある筈だ。特に何かが始まるきっかけとなった出来事には。


 そんな話をしていたら、街並みを見せようと美琴は三鈴を馬車の窓から覗かせてくれた。

 神社は思いっきり和風だが、神社の外の街の様子は和風というより和洋折衷だった。正しくは、それにさらに異国の文化が混じったような感じで、ちょっと言いにくい。

 日本の文明開化の頃は似たようなものなのか?


 通りの先には街を囲う石造りの立派な外壁が見えていた。


『魔物から街を守る防護壁です』


 なるほど。魔物が多いのなら必要だよな。


「すいぶん高い壁ですね」


 確かに、六メートル以上はあるだろうか。ほぼ二階だな。


『本当はもっと高くしたかったらしい。でも簡単ではないからな」


 厳しい顔で西園寺が言う。そんなに高く飛び上がる魔物がいるんだろうか?


  *  *  *


 街の門を抜けると、周りには更地が広がっていた。

 街自体は深い森の中にあるようだが、街の周囲だけは木々を伐採しているようだ。

 聞いてみたら、魔物を外壁の上から矢で撃ち倒すためだという。

 これで堀があれば完璧だろう。


『堀か。堀はいいな! 今度、宮司に提案してみよう』


 掘を作れば外壁を高くしたのと同じことになるからな! たぶん。


 森の中へと続く街道は下草に覆われてはいるが、馬車三台ほどの広さがある立派なものだった。

 ただ、ちょっと気になるものが、そこにはあった。


「街道の脇にある黒い筋はなんですか?」


 気になって聞いてみた。


『ああ、あれは鉄道の線路です。今はもう使っていませんが』


 おお、さすがに明治の日本と交流してただけはあるな! ってことは、結構近代化してるのか?


『ですが、蒸気機関車がまともに走れなかったようです』


 残念そうに言う美琴。


「蒸気機関車を作れなかったんですか?」


『ええと、詳しくは知りません。ただ、魔物に襲われてしまったようです』


 ああ、そっちか。そういう意味でハードル高いんだ。


『高速の鉄道で魔物を置き去りにする予定だったのだ』


 西園寺が悔しそうに言う。


『魔物に対抗するために高速な鉄道を導入した。しかし魔物が強すぎた。魔物の角はチタン製なんだ』


 えっ? チタン製? それ、ロボットじゃないくて?


「ち、チタン製? 本当に?」


 思わず乙羽が乗り出した。


『そうだ、魔物は牙も骨もチタンだ。軽くて強い。だから速い」


 ああ、なるほど。そりゃ、蒸気機関車が負けるかもな! 普通の動物だってトップスピードの速いものはいくらでもいる。まして、魔物の骨がチタン製じゃ勝てないか!


「リン酸チタンなのか? そんなものが可能なのか? たぶん、真っ白な牙かな?」


 乙羽はぶつぶつと独り言を始めた。


『はい。白くて半透明の牙です。すぐに見られます』


 そういうことか。魔物とは凄い進化をしたもんだ。骨がカルシウムからチタンになったら、全く別物になるだろう。


 異世界の魔物、ヤバい!


  *  *  *


『この辺りでいいだろう』


 森に入って街道を少し走ったところで、西園寺は馬車を止めた。

 街道の周りは森というより林という雰囲気だった。元は緑の濃い森だったようだが、今は下草も少なく木がまばらに生えていた。

 まぁ、人間の手が入っているわけではないなら、それでも森と言うべきだろうが、やせた土地になってしまったんだろうか?


『この辺りなら、あまり強い魔物はいませんね。街道沿いですし』


 紫雲が、ちょっと声を震わせて言った。

 もちろん、腰には刀を差している。こうしてみると巫女さんも凛々しいな。


『わたしたちも行きましょう』


 西園寺、紫雲に続いて朝霧も馬車を降りた。


「あれ? 美琴は?」

『わ、私は、新人なので馬車に残ります。討伐に参加したこともありませんし』


 そういって、馬車から降りる気配がない。


『降りなくてもいいが、魔物が来たら馬車につかまってろよ』

『あ、はい』


 馬は馬車から外した。馬ってデリケートな動物だしな。たぶん、驚いて暴れるのだろう。


  *  *  *


 馬車を背に、しばらく待っていると、遠くから地面をたたくような音が聞こえて来た。


『来たぞ! 抜刀!』


 西園寺をはじめ、巫女たちも刀を抜いた。


『マッドボアだ! 木を盾にしろ』


 それは、ものすごい速さで林を駆け抜けていった。


『大丈夫、一匹だけだ。我に任せろ!』

『りょ、了解』

『分かりました』


 西園寺は、木の影から魔物が飛び出したところを狙うようだ。

 やはり猪の魔物なんだろうが、速いうえに大きかった。

 猪突猛進っと言っても程度ってもんがあるだろ! それは、まるでレースカーのようだった。


「なんてスピードだ。しかも、デカい」

「ホントよね。牛くらいある?」

「あれなら、木をなぎ倒せるんじゃないか?」


『はい、そう聞いています』


 美琴がまじめに応えた。マジかよ。


『来たっ!』


 こんどは、まっすぐ西園寺を襲ってきた。さっきは、様子見だったのか?

 西園寺は太い木の影から飛び出した。

 そして振りかぶった刀をマッドボアめがけて斜めに降り下ろした。

 ガキッと金属音がする。

 長く伸びたチタンの牙が火花を散らし、マッドボアは馬車の横を走り抜けていった。


『また戻ってくるぞ!』

『は、はい』

『ま、負けません』


 いや、君たち、もう負けてるっぽいぞ、腰が。って、巫女だもんな。


『左だ!』


 こんどは、回りこんだマッドボアが左斜め前から襲ってきた。

 西園寺は別の木の影に入り待ち構える。

 巫女二人は、西園寺の影に入った。

 やはり速い。来ると認識したときには、もう目の前だ。


『とぉ~っ』


 今度はマッドボアが飛び上がったので西園寺は水平切りで対応した。


 ギンッ

 いやな金属音がした。またも牙に当たったようだ。


『いやぁ~~~っ』


 ズバッ


 西園寺の後ろで刀を構えていた紫雲だが、西園寺のすぐ後ろなので刀は大きく振れない。思わず刀を突き出したようだ。


『あれ?』


 マッドボアは、紫雲の刀の先で息絶えていた。


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