07 魔物の脅威
「魔物だって、魔物! いよいよ異世界っぽくなってきたわね!」
なぜか荻野がノリノリだ。
「もしかして、魔法もあるかもよ?」
乙羽も好きそう。ってか、さすがに地球とつながってる異世界で魔法はないんじゃないか? 物理学専攻だよな乙羽?
『ありますよ?』
あるんかい!
今は『鏡合わせの儀式』は終わり、ここには担当の巫女たちと数名の神職だけが残っていた。これからが、「鏡合わせ」の本番なんだが、いきなり爆弾投げ込まれた感じだ。
巫女の美琴が事もなげに言ってのけた。
『魔法といっても、魔石を使った身体強化です。私たちは強化魔法と呼んでいます』
なんですと?
「魔法あるって」
「あと、魔石もな」
荻野も乙羽も小さく言ったが、たぶんそれ聞こえてるぞ。
『私たちはあまり使いませんが、討伐ネギが主に使います。討伐ネギとは魔物討伐専門のネギです』
な、なに~っ?
「神社の神職が魔物の討伐をするんですか?」
『はい、もちろんです。魔物を祓うのは神職の務めです』
美琴はきっぱりと言った。あ、なるほど。お祓いって、そう言えばそうだった。
『そちらでは違うんですか?』
美琴は怪訝な顔をした。
「いえ、こちらでも、お祓いが仕事です」
魔物が違ってますけど。
『ですよね!』
カルチャーギャップが凄まじい。
『こちらが強化魔法を生み出す神具、一鈴です。中に魔石が入っています』
美琴は袂から小さな鈴をだして見せた。
本当なのか?
「魔石って言ったら、魔物からとるあれよね?」
「いやいや、鉱石の一種かもよ?」
「やっぱり、魔物関係か?」
そんな俺たちの反応を不思議そうに見る巫女。
『あ、はい。魔物からとれる石が魔石ですが』
「まんまよね」
「まんまだな」
「マジか」
『魔石が珍しいですか?』
「うん、とっても珍しい。こっちにはないからな」
思わずちょっと地球側で盛り上がってしまった。だって魔石だぞ?
『やっぱり、そうなんですね』
どうも、そういう話は一応は伝わっていたようだ。
『これは、技術ネギが魔石を使って作った神具なんです』
単なる小さな鈴に見えるが、これが本当に魔物討伐に役立つんだろうか? 魔石を使うって魔道具ってことだよな? 技術ネギは魔石の専門家あるいは魔法の専門家らしい。
『この一鈴を持っていると身体が思うように動くようになります』
確かに身体強化魔法のようだ。
「思うように動く?」
『はい。もちろん普段から鍛えていますが、一鈴があると自分の思った以上に鋭い技や力を発揮できるようになります』
ほう。たしかに、どんなに鍛錬しても集中力を欠いたりしてうまく動けないこともある。それが「一鈴」を持つだけで最高のパフォーマンスを生むようになるならありがたいだろう。
『そのため、討伐ネギには男だけでなく女も多く参加しております。最近ではむしろ女の仕事です』
ああ、なるほど。耐久力は男よりあるもんな。神具「一鈴」で能力が強化されるのなら逆に男より適しているかもしれない。
そんな風に美琴が説明していると、後ろにいた青い袴をつけた神職が前に出てきた。腰には、なんと刀を挿している。
『我は討伐ネギの西園寺要だ。西園寺討伐隊を率いている。よろしく頼む』
きりりとした印象の女だ。西園寺討伐隊というと魔物討伐隊の隊長ってことか。
「きた~っ」
荻野が何故か大喜び。
「よろしくお願いします!」
『う、うむ。よろしく』
ちょっと引いてる西園寺。西園寺を引かせる荻野もなかなかだな。
「刀、刀を見せてください」
ついでに、図々しくお願いする荻野。
『い、いや。さすがに拝殿で抜刀は無理だ。後で、魔物討伐を見学したらどうか?』
「はい、分かりました! 是非お願いします」
荻野、そういうやつだったのか。
「さすがに巫女たちは、お祓いはしないよな?」
乙羽がなんとなく聞いた。まぁ、神社のお祓いと言ったら宮司とかネギだもんな?
『巫女たちも、討伐ネギを支援することはあります。刀も持っています』
持ってるんだ。
『巫女には、弓の得意な奴もいるしな!』
ああ、遠距離攻撃の弓はあるだろうな。って、ほんとに日本と近い文化だな。
『でも、魔物討伐に巫女は役に立ちません』
美琴は残念そうに言った。
『そんなことはないぞ。巫女が支援にいるときは、不思議とケガをしない。感謝している』
『ありがとうございます』
そうなのか? まぁ、異界と「鏡合わせ」したりする能力者の「巫女」だからな。そんな巫女がいれば何らかの効果があってもおかしくない。神通力が使えるとか言われても信じてしまうかも。
『では、午後は魔物討伐に行くとしよう』
討伐ネギの西園寺自ら付き合ってくれるようだ。
マジか。まぁ、これで本当に魔物とか見たら、いよいよ異世界を信じるしかなくなるな。
「いいですね!」
「よっしゃ~っ」
乙羽お前もか!
「では、よろしくお願いします」
こうして、午後は魔物討伐に立ち会うことになった。
アプリを落としてしまうと再び神楽を舞う必要がありそうなので、アプリはそのままとしてウィンドウを閉じるだけにした。
そもそも、どうやってログインしてるのか不明だし。いや、たぶんログインすらしていないんだろう。だって、俺が映るはずのウィンドウに異世界が映ってるわけだし。
* * *
「じゃ、とりあえず昼飯だ!」
「あ、その前に研究室に報告だけ入れとく」
「そうか。よろしく」
「あ、俺さぁ、ちょっとアキバ行ってくるわ。Webカメラ買ってくる」
いきなり乙羽がそんなことを言い出した。
「いいわね!」
「なんだ? お前も直接参加する気か?」
「いや、つながるかどうか分からないけどな! 出来れば直接見たいし」
まぁ、確かに1つのディスプレイに三人が寄ってたかって覗くのはちょっとアレだ。
「私も私も」
「同じ機種を用意すればいいんだろ?」
いや、そんなこと聞かれても知らないし。
「あ~っ、別の機種でもいけそうだけど、まぁ、同じでいいだろ」
たぶん、この部屋だったらいける気がする。
俺がそう思うのは、実はこのマンションの敷地は元は神社の境内だったと聞いたからだ。まぁ、毎回つながる相手は変わるっていうから、神社に関係ないのかもしれないが、何らかの条件が成立している筈だ。
「それ、資金はどうするんだ?」
「研究費でいいだろ」
「大丈夫か?」
「そりゃ~っ、一大発見につながりそうだし大丈夫だろ」
「知らないぞ」
「私も知らない」
「裏切者め~っ」
冗談はともかく、午後の「魔物討伐」に向けてそれぞれが動くのだった。




