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06 古よりの神事

 次の日の朝、俺はそわそわしながらゼミ仲間が来るのを待っていた。


 とりあえず、異世界の女とデートの約束をしているわけだし、前回と同様にWebカメラをセットした。ディスプレイと並べて置いてみると、やっぱりちょっとデカい。

 まぁ、俺の作業机はお手製で、普通より広いので余裕はあるのだが。


 アプリの開発でPCやディスプレイを複数台置くことがある。このため俺の机は余分にスペースをとってある。普通の机のさらに奥に、同じ高さの棚を追加してあるのだ。

 おかげで部屋が狭くなってはいるんだが。


 Web会議システムのセッティングをしていると、ゼミ仲間が到着した。


「意外と、奇麗にしているのね」


 荻野の第一声はそれかよ。


「ゼミの時は隣のやつが散らかしてただけだからな!」


「そうだったか?」

「お前だよ乙羽」

「そうだったわね」

「わり~わり~っ」


 この二人といると、学生の頃に戻ってしまうな。


  *  *  *


 Web会議システムのセッティングも終わり、いよいよアプリを立ち上げる。


「いよいよね」

「記録してるよな?」

「大丈夫だ。解像度も最大にした」

「了解!」


 おもむろにアプリを起動した。


 Webカメラは俺のほうを向いている。そして、ウィンドウには俺の顔が映……ってない。


 おっ?


 そこには見覚えのある映像が映っていた。

 そう、あの巫女、確か「美琴」を筆頭に、巫女仲間や神社の神職と思われる人たちが、ずらっと並んで座っていた。


 なにごと?


『龍一さん! お待ちしてました!』


 いきなり、大きな声で呼ばれてしまった。


 こっちをすがるような目でみる美琴さん。

 ちょっと怖い。どこか、ちょっと責めてるような気がした。


 いや、初めてじゃないんだし、そんなに大声ださなくてもいいだろうと思う。

 まぁ、こっちは一発でつながって驚いてるけど、もしかして待ってた?

 俺の横では「うそっ」と小さく言って口を押えている荻野がいる。


 で、驚いたのは異世界の様子だ。

 神職たちがいるのは、どうも拝殿の舞台のようだ。拝殿の奥から舞台を見下ろすような映像になっている。つまり、鏡のネックレスは首から外して祭壇に置いてあるらしい。

 その舞台の上で、みんなひれ伏しているのだ。


「あれ? 昨日はつながらなかったのに」


『昨日ですか? 昨日は、神楽を舞っていませんが?』


 美琴は当然という顔で言った。


「あ、なるほど」


 つまり、神楽を舞わないとつながらないんだ。

 荻野が「そういうことね!」と納得している。

 ん? 最初つながったときは神楽を舞う前じゃなかったか?

 微妙に相互の認識に違いがあるような気がする。

 もしかして、前回は美琴さんが夢を見てつないでしまったとか?


『こちらは、当神社の宮司です』


 美琴は隣にいる紫の袴をはいた神職を紹介した。


『宮司の、菅野卓(すがのすぐる)でございます』


 紫の袴の男は改めて深くお辞儀をした。どう見ても、普通に日本人の所作だ。

 見ていたら、直らない。ん? これ、もしかして俺が言わないと全員お辞儀したまま?


「あ、すみません。楽にしてください」


『ありがとうございます』


 俺の言葉に、宮司の菅野さんをはじめ一同はやっと頭をあげた。

 危ない危ない。そういう形式的な話はどうしても気が付かない。


『この「鏡合わせの儀」は久方ぶりですので、双方分からないことばかりと存じますが、しばし我らの話をお聞きください』


 宮司は真顔で厳かに言った。

 「鏡合わせの儀」か。巫女もそんなこと言ってたな。


『そもそも、「鏡合わせ」はこの天ヶ崎神社におきまして「神降ろし」に並ぶ大切な神事となっております』


 宮司はそう説明を始めた。

 「神降ろし」は儀式としては地球でも聞いたことがある。


『我らは、二千年の(いにしえ)より「鏡合わせ」により、異界との交流を続けております』


 『異界』って、こっちの地球のことだよな。


『異界と通じることにより言葉をはじめ様々な恩恵を受けてまいりました』


 なるほど。シルクロードとか長崎の出島とかそんな扱いなのか。


『ですが、最後の「鏡合わせ」の後、しばらく途絶えておりました。それで我々としましては再開を長らく待ち望んでいた次第です』


 そういえば、そんな話だった。


「ひさびさなのですね?」


『はい、百年ほど空いていると聞いております』


 百年前なら、この宮司もいなかった筈だな。

 「神降ろし」も気になるが、これはマジで面白いかもしれない。二千年間もどうやって続いてきたのか、何故地球では知られていないのか、研究者魂が揺す振られる。あ、俺、研究者じゃなかった。


「凄いことになってきたわね」

「俺、なんか論文書ける気がする」


 一部、気の早い奴がいるが、確かに単なる文化交流どころの話ではない。

 異世界の宮司は「交換留学」くらいのつもりなのかもしれないが、異世界と「交換留学」できること自体が異常なのだ。それに参加できるだけでも奇跡と言える。まぁ、身体は行けないから会話だけだけどね。


 それから少し宮司と話をして、とりあえず彼らのいう「鏡合わせ」を、当面続けることになった。

 もちろんそれは異世界の希望なんだけど、こっちの特に院生二人の希望でもあった。これが本当に異世界との接続なら大変な発見だし、研究対象として申し分ないというわけだ。まぁ、俺は単なる好奇心だけだ。仕事じゃないからな。あと友達だしな。


 それに、やること自体が大したことではない。

 「鏡合わせ」とは、要するに異世界の巫女たちが、こちらと情報交換するということだ。もちろん宮司やネギたちもサポートするが、基本は巫女が担当する。

 こっちの担当としては、俺と院生の二人くらいしかいないのだが同じく三人態勢でちょうど都合がいい。あと、研究室も協力してくれるとは思う。


 とはいえ、俺は仕事があるし院生たちも研究室の仕事があるから週末とかしか付き合えない。それでもいいと宮司はいう。


 「鏡合わせ」でつながる相手は昔から誰になるかは分からない。うまく文化交流できるかどうかは運任せらしい。そういう意味では、今の地球のメンバーは大歓迎とのこと。


『異界の研究者がおいでになると聞いて喜んでおります。少し光明が見えた気がします』


 光明? 俺は宮司の言い方が気になった。

 詳しく聞いてみると、異世界は今ちょっと困った状況になっているらしい。主に懸案事項が二つあるという。


 一つは、「星降り」。これはどうも隕石群龍来のことらしい。さすがに自然災害は簡単にはお手伝いできそうもない。

 そして、もう一つはというと「魔物の脅威」とのことだった。


 なんだって~っ?


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