05 研究室
翌日、目が覚めて思った。
これは、俺一人で抱えないほうがいいと。
いくら何でもおかしい。
こういうときは自分一人だけで考えちゃダメだ。誰かに相談しよう。うん、それがいい。
考えた挙句、俺は卒業した大学の研究室に連絡してみることにした。
* * *
その日の昼下がり、俺は久しぶりに母校を訪ねていた。
懐かしい校門を抜けると左手には十字架のある講堂兼礼拝堂が見える。そういえば、定刻になると礼拝を知らせる放送が流れたりしたもんだ。
大学に入学したときは理系の学部に礼拝堂はミスマッチじゃないかと思っていた。でも、嘘か誠か実際には理系の教授にこそクリスチャンが多いのだという。まぁ、聞いた話なんだけど。
そんな風に学生時代の事を思い出しながら、俺は古巣の研究室のドアをノックした。
とりあえず教授に聞いてもらえば何とかなるかもしれない。
そう思ってドアを叩いたんだが、研究室が異常に騒がしいことに気が付いた。俺が学生だったころは、もっと静かだったはずなんだが。何かあったんだろうか?
俺は多くの学生や研究者が詰めている広い研究室ではなく教授個人の部屋のほうに案内された。
「ごめん、最近ちょっとした発見をしてしまってね。とりあえず、発表は終わったんだがインタビューとか雑誌の取材とかいろいろあってね」
椎名健一物理学教授は、やや疲れ気味の顔で俺にそう言った。
「ちょっとした発見じゃないけどね。大発見よ!」
四年の時にゼミで一緒だった院生の萩野葉子が横から訂正した。
「有名どころの科学雑誌にも論文が載ったしな!」
乙羽浪尾がドヤ顔で言った。彼も俺と同じゼミ仲間だ。こんなに自信たっぷりな奴だったか? まぁ、いいか。
どうも、タイミングが良くなかったようだ。それは仕方ない。そんな状況でも、俺の話を聞いてくれると言ってくれたのだ。ありがたい。
もっとも会って話したのは教授と荻野と乙羽の三人だけで、他の多くの研究者たちは、それどころではないようだった。
* * *
「どうしようもないね」
ところが、これが俺の話を聞いたあとの教授の感想だった。
「そ、そんな~っ」
「だって君、再現性がないじゃないか」
教授はそう言って俺が持ってきたWebカメラを手に難しい顔をしている。
「壊れたのかね? どうやっても異世界につながらないじゃないか。これでは、どうしようもないよ」
そう、実はもう何度も再現実験をしたのだ。
けれど、どうしても異世界に接続しなかった。昨日は簡単につながったのに。
それでも記録動画を見せた時はちょっと大騒ぎになった。
さすがに会話だけでも信憑性がある。
それで、再度実験をしてみたのだが、やっぱりダメだった。さすがに、こうなると熱気は急速に冷めていった。
機械の調子が悪いのか? 壊れたのか? あるいは異世界が休みなのか?
って、そんなわけあるか!
「異世界側にも都合があるのかも知れません」
「うん、確かにね。じゃ、こんど都合のいい日にまた来てくれ給え」
教授は、ちょっと残念そうに言った。興味はあるようだ。
仕方ない。今日のところは素直に帰ることにしよう。
* * *
「でも、あの言葉は絶対変よね!」
帰り際に萩野が俺を気遣うように言った。
「そうそう。自動言語翻訳でも全く解読できなかったんだからな」
乙羽も真面目な顔でそう言ってくれた。
さすが俺のゼミ仲間だな。
「地球以外に神社があるかどうかは知らないけどね」
「日本語も話してたしな」
「お前ら、信じてないだろ」
「そ、そんなことないわよ」
「お前がこんな凝った嘘つける訳ないからな」
そっちかよ。
まぁ、日本語を話す異世界人なんて俺でもおかしいと思うよ、さすがに。
「とにかく、何か新しい展開があったら教えて? 絶対、力になるから」
「面白そうだしな!」
それを聞いて荻野は乙羽をちょっと睨んだ。
「いや、本当なら世紀の発見だし」
「それは確かに、そうよね」
それから、ちょっと考えてから言った。
「私ね、今新しいテーマを探してるのよ」
「俺もそう。一区切りついたところだからな」
なるほど。そういう意味でも興味ある話題なわけだ。
「まぁ、ちょっと内容的にぶっ飛んでるけどな」
「だよな!」
「確かにね」
ただ、やっぱり気にはなるようだ。そして結局は明日二人とも俺のところへ来てみることになった。研究テーマになるかどうかはともかく、確認だけはちゃんとしておこうという話になったのだ。もちろん、教授の了解ももらった。
明日は『異世界の女』と約束があるからな!
とっても微妙だけどデートではある!




