03 天ヶ崎神社
地域は特定できなかったが、あれは絶対に神社の神楽舞だ。
どう見ても巫女さんだった。なら、近所の神社かもしれない。
近所にしては群衆の言葉が理解できなかったが、うまく録音できてないだけかもしれない。録音の品質の問題で、別の言語のように聞こえた可能性もある。よく電車の中で誰かが話しているのを上の空で聞いていると、別の言語のように聞こえたりする。ちょうどそれと同じ現象なのかもしれない。
なんにしても、もっと情報が必要だ。
下手すると、何かの事件に巻きこまれている可能性がある。怪しい機関に踊らされているとしたら大変だ。早く安全を確認すべきなのは確かだ。
俺は、さらなる情報を得るために恐る恐る再度ウィンドウを開いてみた。
問題なく映像が映った。
そこでは、先ほど倒れた女の装束を脱がそうとしていた。
Webカメラの女は映ってない。映ってるのは倒れた女だけだ。
ちょっとまて、これ別の意味でやばいじゃん。これ、問題映像なんじゃないか?
切断切断。
* * *
ちょっと焦った。偶然とはいえ、そのまま問題映像を見てたら後で何を言われるか分からない。
一時間ほど待った。
これが普通のライブ配信だったとしたらネットで大騒ぎになってる筈だ。
俺はネットを検索してみた。だが、それらしいことは出てこなかった。
つまり、一般には流れていない映像だということだ。
まぁいい。さすがにもうヤバい場面は終わっただろう。
まぁ、どうしても見せたいなら見てもいいが。いやいや、1時間待ったんだからヤバい場面は終わってるよな? さすがにライブ配信は終了してるに違いない。
もしかすると、全てなかったことになってるかもしれない。もうつながらないかもしれない。
ってことで、再度オープン!
はい。つながりました。
それも、最初にみた壁の鏡が映ってました。最初に見た女と共に。
思わず声を出してしまった。
「あっ」
『誰っ?』
もしかして、こっちの声が届いた?
えっ? これ双方向なの?
Web会議なら双方向であってるけど。ライブ配信じゃないの?
『あなたは、どなたですか?』
これ、俺に言ってるよな?
何故かビデオチャットが始まっているんだけど?
鏡に映ってる女の胸に下がっているペンダントに俺の映像が映っている。
小さいけどたぶん俺だ。
『どなたでしょうか?』
真っすぐこっちを見て言っている。
怪しい回線がつながったとしても、嘘をついてはいけないよな。
俺は正直に答えることにした。
「や、やあ。こんにちは!」
とりあえず、笑顔で挨拶をしてみたら、いきなり後ろで『きゃ~っ』とか声がして大騒ぎが始まった。
『つながってる! つながってる~っ!』
え? なにが? ライブ配信のこと。チャットのこと?
びっくりしてるの、こっちなんだけど?
『あ、あの。私の言っていることが、分かりますか?』
ひとしきり後ろの女たちと騒いだ後、女はこっちに振り向いて言った。
ちょっと頬が紅潮している?
「はい。わかります」
また後ろで「きゃ~」とか言っているのが聞こえる。なんなんだ?
とりあえず、ちゃんと声が聞こえてるならチャットで間違いないだろう。
『はっ、始めまして。私は、巫女の篠崎美琴と申します』
巫女の美琴さんか。
「俺は神岡龍一。プログラマーです」
思わず余計なことも言ってしまう俺。いや、相手が職業言ってるし俺も言うのがマナーというものだよな?
『はい?』
『魔法使いですか?』なんでだよ。
いや、プログラムは呪文っぽいけど魔法じゃありません。
「いや、コンピューターのプログラマーで」
『コンってなんでしょう?』
コン?
ちょっと狐みたいで可愛かったのはおいといて、今どきの子でコンピューターを知らない奴いるのか?
「ああ、スマホとかのアプリを作るひと」
『すまほってなんでしょう?』
女は困った顔で聞いてきた。当然、俺も困った。
「ええっ?」
『えっ?』
会話が成り立っていない。スマホを知らない現代っ子らしい。
「ごめん。とりあえず、何処とつながっているのか知りたいんだけど、そこはどこの神社ですか?」
『こちらは天ヶ崎神社です』
そんな神社あったかな? 日本に神社は沢山あるからな?
「天ヶ崎神社って何県にあるの?」
女はちょっと困った顔をした。
『何県とはなんでしょう?』
「えっ?」
『えっ?』
やっぱり会話が成立していない。
って、どういうこと?
もしかして俺、からかわれている?
ちゃんと日本語で会話してるのに内容が通じてない?
文法が同じでも単語が共通でなければ会話は成立しない。
それに近い感じだ。
その後、俺は彼女としばらく話してみた。
そして分かったことは更に俺を混乱させた。




