28 魔動車完成
「星降り」という異世界の天災の話はともかく、魔動車計画は滞りなく進んでいた。
魔動機関砲の配備によって街が魔物に襲われる危険が減ったことも計画を後押しすることになった。
さらに、魔物討伐の成果の一つ「チタン骨」が魔動車の素材になり、もう一つの成果の「魔石」も魔動車のエネルギー源になるということで魔動車開発において非常に好都合だった。魔物の増加が、そのまま対抗措置の増強につながるという構図になるからだ。
実際、最初の魔動車のフレームには大型のマッドボアの骨格がそのまま使われることになった。
* * *
ということで、魔動車はあっという間に完成し早々にお披露目となった。
拝殿前の広場に鎮座した真っ白い魔動車に巫女隊、討伐隊を始め多くの神職が群がっている。ちょっとした儀式もあったようだ。
チタン骨を多用しているからといって真っ白にしなくてもいいとは思うが、塗り直すのも面倒ということらしく、白が基本の車体になっている。
車体の外形は元の魔物の形をそのまま使ったせいもあって流線型に近い。魔物の外皮を変え、車輪を付けただけにも見える。ただし上下を反転して船の竜骨のように使っている。これは水陸両用に対応するためだ。
「電車というか、普通に車ね。スーパーカーっぽいし」
荻野の言う通りだ。今風なスマートなボディだ。馬車からのギャップが凄い。これなら滑るように走れそうだ。
そういえばこれってサスペンションとかどうなっているんだろう? レールの上を走るだけならともかく、タイヤでも走るんだよな?
『サスペンションですか? 魔物の背骨は中にワイヤーを通して締めていますので、適当な弾力があります。馬車もそうやって衝撃を減らしています』
風雲寺ネギが当たり前のように言った。
どうも、これが異世界での標準仕様らしい。確かに車体全体でバネのようにしなればサスペンションとして働くだろう。てか、車体そのものがサスペンションだ。魔物そのものに近いとも言える。うまいこと考えるなと思った。
この魔動車、基本は電車のように鉄輪でレールを走るが、鉄輪とは別に発泡樹脂で作ったタイヤの付いた車もついていてジャッキで下ろすようになっている。もちろん電動だ。このあたりの機構は乙羽が担当した。インホイールモーターを採用していて車軸がないために、こんな構造が可能だったという。
そして、この魔動車でもっとも目を引く装備があった。
車体の中央の屋根が開き、そこに魔動機関砲が据えてあった。
屋根はチタン骨製でシャッターのように開き、機関砲がリフトアップする構造になっている。また、魔動機関砲があるため、この分だけ普通の車に比べると大型になっている。
『すご~いっ』
『これは頼もしいな!』
『走りながら撃っちゃう? 撃っちゃう?』
せり出した機関砲を眺めて奇声を発する巫女たちだが、君たちのほうが火力は上だからな!
それでも見た目がちょっとかっこいいのか、完成した魔動車の周りに人だかりが出来ていた。
* * *
いつまで見ていても仕方がないので、さっそく試乗してみることになった。
試乗といっても馬車しか経験のない異世界の人たちである。まずは車の運転そのものに慣れてもらう必要がある。
昔は蒸気機関車があったということもあり、馬がなくて動くこと自体は驚くことではない筈なのだが、何の音もなくすうっと動き始めるのを見たときは驚きの声があがった。
『おおおおおお~~~~~~~っ』
『何故だか動いてる、動いてる~っ』
まぁ、昔の新幹線が音もなく動きだしたときの感動に近いかもしれない。
もちろん、魔動車に乗り込んでいるのは巫女隊と西園寺討伐隊である。
まず、社務所の裏手にある馬車寄せの広場でゆっくりと走行を始めた。
運転手は巫女隊の紫雲である。1号車は無敵の巫女隊に配属されるからだ。
助手席には技術ネギの風雲寺がいて動かし方を教えている。
『か、簡単に動きますね!』
『ちゃんと、ハンドルを握って。少し左に回そう』
『は、はい』
なかなかの腕である。
しばらく走らせた後、いよいよ街の外へと向かうことになった。本気で走らせるなら街の外だというわけだ。というか、街中では危なくて仕方ない。車の運転もそうだが、住民が慣れていない。
街の門へ向かう道では住民たちが珍しそうに眺めていた。最近、巫女隊や討伐隊が派手に活動していることもあり、住民の関心も高いようだ。
運転していない巫女たちは開いている屋根から住民に手を振っていた。
* * *
『じゃ、ここからはもう少し速くしてみよう』
なんとか無事街の門を抜け空き地に出た魔動車は、風雲寺の指示で一気に加速した。
『おおお、押し付けられる!』
アクセルを踏んだ紫雲自身が驚いている。
『うそ~~~~っ』
後ろの美琴も車体につかまりながら面白がっている。
『全くもう、やり過ぎです~っ』
紫雲はそうは言うが、まだ最高速ではない。もちろん馬車に慣れた人からすると十分早いのだが、まだ低回転なので加速が凄いというだけである。
さらにアクセルを踏み込んだ魔動車は外壁の周りに散らばるチタン骨を横目に急速に速度を上げていった。
『じゃ、本気で行きます』
紫雲はシフトレバーを上げ、さらに加速した。
外壁も、魔物の骨も飛ぶように消えてゆく。
『うっそ~~~~~~~っ』
『きゃ~~~~~~~っ』
『なになになに~~っ?』
みんな、アクセルとカーブの度に身体が押し付けられたり引っ張られたりして大騒ぎしている。確かに馬車じゃこんなことは起こらない。しかし、これから魔動車を使っていくなら、この慣性力や遠心力の感覚を覚えておく必要がある。遊び半分でもいいから十分慣れてほしいところだ。
『こ、これは驚いた!』
西園寺も魔動車の魔動機関砲にしがみついて叫んでいる。
もちろん、魔動機関砲はレール走行中に撃つことを想定している。さすがに、地面を走行中に撃っても命中率は低いだろうからな。
『た、隊長。これを我々も使うんでしょうか?』
『無論だ! この魔動車に乗って魔物を討つのだ! 十分慣れておけ!』
『分かりました!』
『マジですか!』
『む、無理かも~っ』
柚子と西島が車体にしがみ付いて弱音を吐く。
『お前ら、次の周は運転してもらうからな!』
西園寺は街を一周したら、巫女隊に代わって討伐隊で運転するつもりらしい。今はまだ一台しかないが、討伐隊用の魔動車も直ぐに配備される予定だからだ。
『は、はい』
『え~ッっ』
『吐きそう』
さすがに、街を2周した後は、みんなくたくたになっていた。午前中は、このくらいにして昼食のため撤収することにした。
もちろん、午後はレールを使って森の中に分け入る予定だ。




