27 魔動車計画
街の門に据え付けられた魔動機関砲の威力は絶大だった。
ただ、製作を担当した乙羽は満足してはいなかった。
「弾倉の弾数は30発にすべきだな」
実際の魔物との初戦を見たあとの乙羽の素直な感想だ。
確かにあの数の魔物を相手するには20発では少なすぎる。できれば、魔動機関砲を2台並べたいところだが、銃眼の大きさもあり難しい。とりあえず、弾倉の弾数を増やすことにした。ただ、あまり増やすと今度は重すぎて運用に支障が出る。
「いくらでも撃てるわけじゃないよな?」
「そうだな。今日は大丈夫だったが銃身の熱を考えると百発程度が限界だろう」
「冷却方法を考えるか?」
「どうだろうな? それより命中率を上げるほうがいいだろう。単発で撃てば弾は減らせるからな」
「命中率を?」
「魔動機関砲は射程も長いから、スコープが欲しいところだ」
確かに、まだちゃんと狙って撃っているというわけではないからな。
「ああ、照準器を付けるのね」
「ライフルスコープか?」
「いや、動きが早いからドットサイトかな。けど、さすがに大きすぎて異世界へは送れない」
乙羽が残念がる。Webカメラの異世界との穴は直径1cmくらいしかない。
-設計図と部品があればなんとかなりますよ?
三鈴AIが反応した。そうだった。強い味方がいたじゃないか!
「そうか! じゃぁ、ドットサイトを搭載しよう!」
そして乙羽と三鈴AIはノリノリでドットサイトを作ったのだが、思わぬ結果に驚いた。
* * *
めでたく優秀なドットサイトが取り付けられた魔動機関砲だが、ドットサイトを使っても使わなくても命中率が変わらなかったのだ。
下手なのではない、優秀だったのだ。
「どゆこと?」
「討伐隊が優秀なんじゃない? なんてことないよね?」
「まぁ、討伐隊が優秀なのは否定しないけど、他にも何か理由があるだろうな」
乙羽はドットサイトを作っただけあって、この結果に納得いかないようだ。
「そうよね」
「討伐隊って、そういえば一鈴を持ってたな?」
「うん? 一鈴の身体強化のせいだって?」
「集中力があがるとかの効果があるんじゃないか?」
「そうね。私たちも試してようかしら?」
「そうだな」
ちょっと不安だが。
「もし、一鈴に身体強化以外の効果があるなら納得はできる」
「身体強化以外?」
「うん、そもそも、三鈴で異世界と接続してるんだぞ」
たしかに乙羽が言うのも一理ある。っていうか、三鈴の力は解明されたわけではない。
「確かに、世界をつなぐなんて凄い能力よね。意味不明だけど」
「だよな?」
「あれって、三鈴だけでやってるのかな」
異世界との接続は三鈴だけの力と言えるんだろうか?
「なんでだ?」
「だって、神楽を舞って、やっとつないでる感じだろ?」
「確かに」
「謎が深すぎるわね」
謎は深まったが、討伐隊が落ち着いて撃てば弾数は押さえられそうなことはわかった。
* * *
『お陰様で街を襲う魔物に対処することができます』
魔動機関砲について報告を受けた菅野宮司は本当にほっとした顔で言った。魔物の増加は喫緊の課題だったからな。
『さらに、森の中に分け入っての討伐も進むことでしょう』
確かに、この軽量の魔動機関砲を持った討伐隊なら森の中でも無双できそうだ。
「ただ、移動が馬車ですからね。ここが弱いところです」
『確かにそうですね。討伐隊の行動も馬車で半日の距離が限界です。蒸気機関車があった頃でしたら違ったのですが』
宮司は昔を懐かしむように言った。まだ、最近まで動いていたんだろうか?
確かに機関車に魔動機関砲を装備すれば無敵だったかもしれない。レールは残っていることだし。
ん? トロッコみたいなものでも用意したら使えるか?
「あれ? そういえば魔石で電気が使い放題になったんだよな?」
俺は乙羽に向かって言った。
「あっ? もしかして電車作れって言ってるか?」
「いや、だってそれしかないだろ?」
トロッコにモーター積んだら電車だよな? いや、魔動車?
「まぁ、そうだけど。モーターが……あ~、銀線のコイルで問題ないな。強力なモーターになる。鉄もあるしいけそうだな」
乙羽がぶつぶつと独り言を始めた。
最近、銀線を使ったコイルで成功したもんな。技術的にはかなり近い。
「いけそうね」
「モーターは乙羽に任せるとして、車体はどうする?」
「機関車作れるんだから普通に作れるんじゃない?」
「そうだけど、最近の製鉄事情とかどうなってるんだろ?」
どこで製鉄していたかは知らないが、魔物が増えて隣街との交易が激減しているというからな。期待はできない。
「あ、じゃぁ魔物の骨を使ったら? 丈夫なチタンの骨があるんでしょ?」
「え~っ? あれ使えるのかな? 車の車体だよ?」
確か、魔物の討伐で出たチタン骨は外壁の脇に集められたまま放置されてたような。
『それなら、なんとかなると思います』
これは、風雲寺ネギだ。
『要は、馬車の車体を作ればよろしいのでしょう?』
技術ネギは魔物の骨で馬車を作ったことがあるような口ぶりだ。
「チタンの骨なら、軽くて丈夫な車体になるわね!」
「そうだな。ついでにタイヤも用意して土の上でも走れるようにしよう!」
「いいわね! それなら森の中まで行ける!」
「軽量なら水陸両用車はどうだ?」
「いいんじゃない?」
ちょっと、悪ノリが始まっている。
それはともかく、マッドボアの上位種やブラックベアの巨大な骨をそのまま使えるんだろうか? いや、背骨だからバラバラになる? 牙とか肋骨なら使えるかも?
「お前ら、好き勝手言い過ぎ!」
独り言から復活した乙羽がいた。
-面白そうですね!
なぜか三鈴AIが俺たちの味方をした。
「三鈴AIがこう言ってるが」
「三鈴AIがやる気出してる」
「あ~っ、ならいけるんじゃないか?」
「いけるんかい!」
三鈴AIの参加により何でもアリな魔動車製作が決定された。
この魔動車計画だが、森の魔物討伐もさることながら疎遠になっている近隣都市との交流も復活させることができるかも知れない。このため街からも大いに期待されることとなった。
街の交易が復活しないと異世界の文明は将来的に衰退を免れないためだ。そもそも魔物討伐の真の目的はこの「交易の復活」なのだから期待されるのも当然の話だ。
こうして魔動車製作は街をあげての開発案件となったのである。
* * *
そんな魔動車開発に沸く異世界だったが、菅野宮司はもう一つの案件を思い出していた。「星降り」である。
『こちらの世界では、初夏の一時期に隕石群が襲来するのです』
三鈴の改良や魔動機関砲の開発、さらには魔動車といった案件をつぎつぎにこなす俺たちをみて、菅野宮司は期待する目で話し始めた。
『これは自然現象ですので、さすがにご相談と言っても難しい案件であることは分かっております。それに毎年のことですので、私どもも対策はしております』
菅野宮司の話だと、異世界では地球の流星からは想像もできないほどの隕石が降るようだ。地球での流星は彗星の残したゴミの跡を地球が通過するだけなので単なる風物詩でしかない。しかし、菅野宮司の話を聞く限りでは、そんな程度では収まらないらしい。
『全ての街は、地下に避難場所を作っております。星降りの1カ月間は、この避難場所で眠ることにしているのです』
隕石は避難するほどの規模なのか! それが一カ月も続くのか!
もちろん隕石群なので降ってくる時間帯は決まっていて夜の間だけのようだ。この時間帯に地下へ避難していれば人的被害は免れるというわけだ。
ただし、地上の作物や構造物はそうはいかない。
それでも、毎年の被害程度ならなんとかみんなで対処してきたのだという。
『ただ、昨年の星降りの時の空の色が気になっています。千年に一度、そのような空の色になったあと例年の何倍もの星降りになるという言い伝えがあるのです』
去年の星降りの後に、おかしな空の色になったということらしい。それは、隕石に含まれている成分が原因なのかもしれない。隕石群との特定の遭遇パターンでもあるんだろうか?
相手が小惑星帯であるなら少しずつ軌道が変わるのは普通だ。それに特定のパターンがあるのかもしれない。
地球では隕石が地上まで到達するのはほんの数パーセントと言われている。ほとんどは空中で分解して宇宙塵となって降り注ぐのだ。ただ、その量が増えると空の色が変わるという。そんな現象なのかもしれない。
しかし、ただでさえ大変な隕石群なのに、さらに極大化するなんて恐ろしい話だ。
『ただ、既に伝説化している話ですので、今年そうなるかどうかは定かではありません。もし何かお知恵があればと思った次第です』
そうは言っても、地球とは事情が違いすぎる。あまり参考になるようなことはないだろうと思った。




