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21 三鈴ファイヤー

『後は、討伐隊がなんとかする』


 西園寺がそう言うが、西門の外の空き地は大量のマッドボアの死体と吹き出した血で凄いことになっていた。


『火炎魔法とかあれば、焼き払えるのにね』


 美琴がぽそっと言った。


-恐らく可能です。


「なに~っ?」


 てか、恐らくってなんだ?


-ただし、少々時間がかかります。電解液と金鉱石を貰えますか? それから直流電源も別途お願いします。


 三鈴AIが火炎魔法を考えてくれてるようだ。


「電解液と金鉱石と直流電源? 何に使うんだ?」


-水を電気分解します。


 なるほど、水道の水を電気分解するのか。水素と酸素でバーナーを作るのか?


「三鈴AIが乙羽の工作を見習ってる!」

「まさか。でも、電解液はどうする?」

「電気分解なら炭酸ナトリウムでいいだろ」

「そうか、なら用意する」


 どうするのか分からないが、とりあえずキッチンに走って重曹を熱分解して炭酸ナトリウム水溶液を作りボトルに入れチューブでつないでみた。金鉱石は近くにあるものでいいだろう。


「電気分解するなら強力な電源が必要だな。別電源はあるか?』


 乙羽が言うので、部屋に転がっている実験用のスイッチング電源を使うことにした。さすがに強力な電源じゃないが、WebカメラのACアダプタよりはましだ。

 電気分解で生成するガスの量はクーロンの法則で決まる。なるべく大きい電源がいいのだが。


「これでいいか?」


 とりあえず言われた通りセッティングした。金鉱石は空き地で拾ってもらった。


-結構です。しばらくお待ちください。


 見てると電気分解を始めた。

 そして、バーナーらしき火を出したと思ったら、金鉱石を溶かして金属製の物体を作り始めた。

 次元フィールドを変形させて型を作り、溶けた金属を流し込んでいる。まるで粘土工作だが、もちろん手はない。一応、エフェクト選択画面に3Dモデルが表示されている。

 ただ、思ったより凝った作りの装置になりそうだ。


「あっ、専用の電気分解装置を作ってるのか!」


 乙羽には分かったらしい。

 今は理科実験レベルなので小さな火力だが、もっと効率のいい電気分解装置を作っているらしい。

 しかし、地球と異世界の境界を工作機械のように使うなんて思いもしなかった。


「なんか、AI工作機に見えて来た」

「俺も負けてられないな!」

「わたし、実験器具作ってもらおうかしら」

「頼もしいな!」


-完成しました!


 いつの間にか電解液のチューブの先に、超小型電気分解装置が取り付けられていた。

 でも、電気分解で出来たガスは理想的な爆発物でもある。いわゆる爆鳴気だが、この装置、安全だよな?


「さすがに水素と酸素は分離してるようだし大丈夫だろ」

「そうか。ってことは、火力も調整できるわけだ」

「そうだな、弱い蝋燭みたいな炎から、ロケットの炎まで。あるいは爆弾も」


 乙羽は水素の燃焼にも詳しいようだ。


「まぁ、大量には作れないけど」

「そうだな。電源が弱いからな」


 家庭電源だからな。

 完成した装置の詳細も気になるところだが、既に三鈴AIは電気分解を開始していてガスを異世界に溜め込んでいるようだ。


『火炎魔法、できたんですか?』


 こちらの会話を聞いていた美琴が半信半疑という顔で聞いてきた。


「ああ、そうらしい」


『分かりました! 名前はなんでしょう?』

「えっ? いや、好きに決めてもらえばいいけど?」


「三鈴ファイヤーでいんじゃない?」


 荻野が提案した。


「そうだな。水素だと紫色の炎だから、ちょっと雰囲気が違うかもしれないけど」


 水素は最高3000度の高温で燃焼する。ファンタジー的な炎を想像するととんでもないことになる。火炎放射器を凌駕する強力な炎なのだ。

 水素の唯一の欠点は炎が見えにくい点だ。アルコールランプも見えにくいが、さらに水素は見えにくい。見えたとしても薄い紫の炎なのだ。


「いや、ナトリウムを含む電解液があるからオレンジ色に見えるかもよ?」

「そうか、炎色反応か。ならちょうどいいか」


 ネーミングセンスを疑われるのも嫌だしな。


「じゃ、『三鈴ファイヤー』で」

「あまり強力じゃないしね」


 荻野は威力的な意味で名前をつけたらしい。確かに発生したガスの量は大したことはない。


『わかりました! じゃ、マッドボアを焼いてみます!』

「了解!」


-ハイドロジェン、充填120%!


 なにそれ?


『三鈴ファイヤー!』


 美琴は巨体マッドボアに向けて腕をかざして発射した。

 三鈴ファイヤーは美琴の指の少し先から槍のように細く伸びていった。


 三鈴ファイヤーの火は、手元ではオレンジ色だが目標に近づくにつれて紫色の槍になって突き刺さった。ちょっとかっこいい。射程は数メートル程度だが、まるでライトサーベルのように見えた。まぁ、本物の炎なのでチャンバラはできない。


「いや、できるかもよ」

「なに?」

「だって、次元フィールドで包んでるだろあれ」


 確かに細長い筒の中に炎が走っているように見える。つまり、炎がもやもやしていないのだ。

 次元フィールドの特性が良く分かっていないので、ライトサーベルになるかどうかは不明。


 そんな三鈴ファイヤーだが、魔物の反応が凄かった。すごい勢いで燃え上がったのだ。


『す、すっご~いっ!』


 撃ち終わった美琴が驚いている。

 あれっ? これ、思った以上に強力なんだけど?

 三鈴ファイヤーの炎でマッドボアの身体は、あたかもそれ自体が燃料であるかのように燃えあがり、あっという間にチタンの骨と魔石になってしまった。


「驚いたわね」

「なんか、異常な燃え方だったな」

「ああ、三鈴ファイヤーは点火しただけだよな? あとは勝手に燃えたように見えたぞ」


 実際、三鈴ファイヤーが消えてからのほうが燃え上がったように見えたのだ。


「魔物って燃えやすいのかな?」

「もしくは3000度の高熱が何か影響したのかも?」


 乙羽も自信なさそうに言った。


「まぁ、使えるかな」

「武器としては微妙だけどね」

「連射できないからな」

「そこが決定的ね」

「何とかならないか?」

「無理言うな!」


 さすがの乙羽でも無理か!

 それでも、魔物を焼く用途には十分使えるだろう。


 実際、マッドボアの死体は三鈴ファイヤーで全て焼却できた。

 そのマッドボアを焼いている巫女隊を、西園寺がじっと見ていたのが、ちょっと気になった。


 それと、魔物の生体サンプルも採取することが出来た。これは、もちろん研究室に届ける予定だ。


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