02 神楽舞
これは、いわゆるライブ配信なんだろうか?
編集された映像ではなく、何の加工もされていないライブ配信というのがある。
まぁ、あまりライブ配信とか見ないので詳しくはないのだが、ネットに上がってる動画でこんな感じのものを見たことがある。
見ていると女は手早く白い衣に朱色の袴を身に着けた。たぶん、いわゆる巫女装束のようなものだと思う。ただ、ちょっと見たことがない様式ではあるが。
もしかすると、単なるコスプレなのかもしれない。そうすると、コスプレ着替えを生配信してるのか? ちょっときわどいライブ配信だなと思う。
女は、かるく髪を梳かすと直ぐに化粧を始めた。
なるほど、確かに奇麗になっていく女を見るなんて経験はあまり無いかもしれない。それをライブ配信しているんだろうか? こういう需要もあるのかな?
「巫女の一日」とかいう配信に違いない。
鏡に映った映像を見ていて気がついたが、どうもWebカメラは巫女がつけているネックレスに仕掛けてあるようだ。見た目は鏡のペンダントのように見えるが手鏡のようなものかもしれない。
この小さい鏡に高性能なカメラが仕込んであるに違いない。
俺がネックレスに気を取られているうちに、女の化粧は終わっていた。
『うん!』
女は満足そうに頷くと椅子から立ち上がった。
だが、俺が見ている映像はネックレスに仕込んだものだから女が動くと激しくブレる。アプリには一応手振れ機能はあるのだが、激しく動かれたらお手上げだ。
半端でなくブレてる。下手なライブ配信だな! 有料だったら、切ってるぞ!
* * *
ブレにブレる映像だったが、部屋から出ると勢いよく廊下を走りぬけた。かなり急いでるらしい。その勢いのままに、女は玄関から明るい庭へと飛び出した。
ちらっと神社の拝殿らしきものが映っているから、やはり女は巫女で間違いないようだ。
その後、女は迷いなく拝殿らしき建物に入っていった。
そして、着いたところには既に何人かの巫女や神職たちが並んで座っていた。
『遅くなりました』
『早く並んで』
小さく注意される。
『はい』
女が座った列の前には頭飾りをつけた巫女たちが並んでいた。
着飾っているということは、これから神楽舞が始まるんだろうか? 拝殿の外には群衆が集まっているのか、小さくざわめきも聞こえる。
少しすると、神職が立ち上がって儀式が始まった。
続いて、頭飾りをつけた巫女が立ち上がり音楽が鳴り始めて神楽舞が始まった。
神楽舞というと神楽殿で舞うのかと思っていたが、この神社の場合は拝殿で舞うらしい。拝殿に舞台があった。
『今日はうまくいく気がする』
『絶対大丈夫よ』
並んだ巫女と、こそこそと話す声がする。
『静かに』
誰かに注意された。
カメラの持ち主の巫女は動こうとしない。
ここだと先の巫女たちの舞が、あまりよく見えないのが残念だ。拝殿の様子が詳しく見えれば神社の名前も分かりそうなものなんだが。
このまま見ていても仕方ない。特に新しい情報もないし、ちょっと飽きたのでアプリを立ち上げたまま、俺は珈琲を淹れることにして開発室を離れた。
* * *
ところが、戻ってみると画面は大騒ぎになっていた。
頭飾りを付けていた巫女の一人が倒れていた。周りで巫女たちが慌てて看病している。
『先輩が「鏡合わせ」に失敗するなんて信じられない!』
『仕方ないでしょ! 簡単じゃないのよ!』
『でも倒れるなんて!』
『いいから、そっち持って』
なんだか、よくわからない話が聞こえた。「鏡合わせ」ってなんだ?「合わせ鏡」なら知ってるが、たぶん違うよな。
っていうか、神楽舞で巫女が倒れるのか?
『ちょっと待って! あんたの三鈴、光ってるよ!』
『えええええええっ!』
返事したのはWebカメラの持ち主だったらしく、思いっきり画像がブレた。
っていうか、さすがに見てて酔いそう。
俺は思わずウィンドウを閉じていた。
* * *
さて、どうしたもんだろう。
絶対どこかのWi-Fiを経由して誰かの配信映像を受信してるんだよな?
でも、よく考えるとライブ配信している画像としては変だった。
この内容なら配信停止してるだろうし。そもそも、コメント欄もない生映像だし。
やっぱり、怪しい機関が関係してるWebカメラを買ってしまったんだろうか?
俺が作ってるアプリがおかしくないのは分かっている。とすれば、やっぱりWebカメラに何か仕掛けがあるとしか思えない。
そこで録画していた映像をチェックしてみることにした。映像を細かくチェックすれば何かわかるかもしれない。
そして俺は驚くべきことを知ってしまった。
映像は確かに見たまま残っていた。だが、群衆の声の音量を上げてみたら、それは……聞きなれた日本語ではなかった。いや、文法的には日本語っぽいのだが意味の分からない単語が入ってくるのだ。
これは、どこかの方言なのか? 最近はご当地グルメなどの番組のせいでいろんな地方の言葉を聞く機会も増えたのだが、ちょっと思い当たらなかった。
もうちょっとで、場所を特定できそうなのに歯がゆかった。




