17 ウォータージェット
三鈴AIがペットボトルの水を異世界に送れると言い出した。
「ほんとかよ」
「どうするの?」
「とりあえず、ペットボトルを用意しよう。あとビニールチューブな」
「分かったよ」
俺は冷蔵庫から2リットルのペットボトルを持ってきてビニールチューブを差し込んだ。熱帯魚の水槽用エアーチューブだ。
「これしかない」
「清潔な新品ならいいだろ」
「チューブを突っ込んだだけでいいのか? パッキンは?」
-チューブを次元フィールドで包みますので、問題ありません。
「吸い出せる?」
-次元フィールドをパイプ状にして、形状を変えてポンプにします。
あ、つまり心臓と同じ原理ね。
「賢いわねAI」
「賢いなAI」
「使えるなAI」
-恐れ入ります。
ほんとに賢いな。
三鈴AIは、さっそく水を出して異世界のみんなに振舞ってみせた。
『つ、つめた~いっ』
『おおお、泉のようだな! 便利な魔法だな!』
『これはいい水ですね!』
『うん、おいしい!』
そりゃね。買ってきた天然水だからね。ちゃんと冷蔵庫で冷やしてたし。
『この魔法、いつでも水を出せるのか?』
西園寺が、思いっきり嬉しそうに言った。
「うん、まぁ、量は限度があるけど」
『そうか、そうだろうな。しかし、遠征中にいつでも水を出せるのは非常にありがたい』
なるほど。そういえば、そうだな。森の奥深くでも山の中でも砂漠でも、冷えた天然水が出せるんだ。
『まさに魔法ですね!』
夢見るように美琴が言う。異世界でもおとぎ話の「魔法」があるのかな?
『この水で、水の槍を作って魔物を倒せたりしないかな?』
おお、ファンタジーだな。でも、天然水だから、ちょっと無理だな。魔物が喜ぶくらいだろ。
「さすがにそれは」
-ウォータージェットでしたら可能です。
出来るんかい。しかも、ウォータージェット? 工作機とかで使うあれだよな?
「ああ、そうか! さっきの次元フィールドのポンプで出すのか!」
-はい。そのまま高圧にすれば可能です。ただ、次元フィールドの限界で十メートル程度しか届きません。
『おい、それは本当か? 水の槍が十メートル先まで届くのか?』
西園寺が驚く。
「そうみたいです」
『それは凄い、是非やって見せてくれ』
「どうすればいいんだ?」
-目標を指さして「三鈴ウォータージェット」と叫んでもらえば結構です。
『おもしろ~いっ、三鈴ウォータージェット!』
美琴が言ったとたんにペットボトルの水が吸い出されて、異世界で勢いよく飛びだした。そして水の槍は大木に命中すると、その幹を大きく穿った。
『す、すっご~いっ。ってか、あぶな~いっ』
さすがに撃った美琴もびびったようだ。
『これは使えるぞ!』
『いいですね!』
『弓よりいいかも』
まぁ、射程十メートルだけどな。それでも、魔物との間合いが伸びて有利になることは確かだ。
それから、巫女隊の魔物討伐は「三鈴ウォータージェット」の訓練へと急遽変更された。
「三鈴ウォータージェット」は優秀な武器だった。これを使って、巫女たちはバタバタと魔物を倒していった。なにしろ照準が三鈴AIまかせなのだ。指示さえ出せば自動的に追尾して正確に当ててくれる。つまり、無駄打ちがないのだ!
これなら、射程十メートルでも十分使える。
「びっくりよね」
「ああ、ほんとだな」
「さすがに、ペットボトルは終了だけどな」
うちの天然水は、ケースごと欠品となった。
「これもう、水道をつないじゃったほうがいいんじゃないか?」
「そうね!」
「え~っ? 水道をつないで大丈夫かな? 圧力が掛かるけど」
ちょっと、開発室まで水道のホースを引いたり、水栓をつけたりするのを考えると腰が引ける俺だった。
-問題ありません。常時次元フィールドを展開します。
「そっか。あ、でも巫女たちが困るだろう。常時展開じゃ」
「あっ、そうね」
-巫女を包まない形の次元フィールドに変形すれば、解除は不要です。
「あ、巫女だけ次元フィールドから外すのね!」
「そんなこと出来たのか!」
「凄いな」
エフェクトを変更して次元フィールドを自在に変形できるらしい。そういえばダンス用の3Dモデル使ってたくらいだしな。どんどん使い方学習してるな!
「あれ? そういえば、水が送れるんなら逆に魔石をこっちに送れるんじゃないか?」
-はい、魔石を鏡の前から差し込めば、こちら側に取り込めると思われます。
「なに~っ? ほんとか! それは、凄いぞ!」
「魔石よ! 魔石!」
そっちか荻野!
「魔石を握ったら私も身体強化できるかしら?」
おお、魔法が使えるか!
『あ、ダメです。魔石を直接握るとビリッときます』
「ん? なにそれ?」
『ちょっと摘まむくらいはいいんですが、握らないほうがいいです。ショックをうけます』
と紫雲が警告した。
『そのとおり! 討伐隊で壊れた一鈴の代りに魔石をつかんで倒れた奴がいる』
西園寺がいうのなら本当なんだろう。
「良く分からないけど、危険なのね」
『はい、それで鈴の中に入れていると技術ネギから聞いています』
なるほど。紫雲は意外と技術に詳しいようだ。
「何か謎が隠されてそうね!」
今回の魔物討伐で魔石が大量に手に入ったので、何個か譲ってもらった。古くて使わなくなった一鈴も。
異世界のものでもあるし何かあるといけないのでポリ袋に入れて研究室に持っていくことにした。三鈴AIによると、物質の表面は次元フィールドで無菌状態に出来るらしいが内部は無理らしいので念のための措置だ。
ついでにその辺に転がってる金鉱石やらチタンの牙などのサンプルも貰った。
「ついに物的証拠ゲットだ!」
乙羽が興奮している。これで、研究室に大きな顔ができるものな!
それはともかく、三鈴AIが思いのほか優秀なので巫女隊は十分討伐隊として働けるということがはっきりした。
馬車で帰るときには車内は明るい話題で持ちきりだった。
* * *
その後、俺たちはいつものように開発室で来週に向けて対応を相談していた。
「水道は、ホースの引き回しが大変かしらね?」
「そうだな。やわらかいホースをホムセンで買っておくよ」
毎回ペットボトルを運ぶよりマシだしな。
「あと、できたら浄水器もつけてね」
「おう、その工作は任せとけ。異界の水は不味いとか言われたくないしな!」
工作は乙羽に頼むしかない。
「それにしても、魔物討伐って馬車の移動がネックだと思わない?」
「それは俺も思った。馬車はともかく馬が弱いよな」
「ああ、デリケート過ぎるだろう」
美琴が馬に蹴られそうになったしな。危なくって仕方ない。
「鉄道を作る技術はあるのよね?」
「蒸気機関車は作ったらしいからな?」
「そこそこ、近代化してるってことか」
とりあえず鉄の構造物は作れそうだが。
「それでもチタンの牙には負けたのよね?」
「そこだよな。できれば車をバラして送りたいところだが小さい穴しかないしな」
乙羽はホントに部品まで落として送る気だったっぽいな。
「そうよね」
「さすがに、三鈴AIが車になれたりしないよな?」
ちょっと期待しながら聞いてみた。
-それは、エネルギー的に難しいでしょう。
やっぱりダメか。てか、エネルギーの問題かよ!
「そうか。あれ? 今はどこのエネルギーを使ってるんだ?」
-もちろん、この部屋の電気です。
うちの電気かよ! まぁ、そうだろうな。じゃ、無理だな。そもそもWebカメラに大電力は流せない。
それはともかく、荻野と乙羽は研究室に報告するため、魔物討伐の戦利品を大事そうに抱えて帰っていった。




