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10 三鈴の力

 魔物「マッドボア」は巫女の紫雲のひと突きで敢え無く息絶えた。

 それも、苦し紛れのひと突きで。


『うそっ』


 何が起こったのか分からないが、紫雲の刀で死んだのは明らかだ。


『や、やるな! 紫雲!』

『どうなってるの?』


 後ろにいて一部始終をみていた朝霧は信じられないものを見た顔だ。


「やったね~っ、紫雲」


 紫雲の三鈴から見ていた荻野も思わず声をかけた。


『先輩凄いです、信じられない!』


 美琴は馬車の窓から見ていた。当然、俺も。


『ええと、私が一番信じられないんだけど?』


 マッドボアを一刀のもとに屠った紫雲が言う。


『きっと、西園寺さんのお手柄です。私は刀を出しただけなので』


『いやいや、我のは浅かった。ほれ、おぬしの刀は奥まで入っているだろ。凄いじゃないか』


 確かにちょっと刺したという程度ではない。刀の刃がマッドボアの頭蓋骨を通り抜けて向こう側まで行っているのだ。紫雲って剛腕だったのか? 確か骨はチタン製だよな?


『こんな突きは、そうそうできないぞ。というか始めてみたぞ』

『ええええええ~っ?』

『ほんとよ~っ』

『凄いです先輩! いつの間に?』

『だから、知らないって!』


 褒められている紫雲は納得いかないようだ。


『ただ、刀をちょっと出しただけなのに』


 思いっきり不思議そうな顔で刀を見る紫雲。


『そうか? ふむ。それも、巫女の力なんじゃないか?』


 首をかしげながら、西園寺が言った。


『そんな話、聞いたことありません』

『いまは、「鏡合わせ」中だしな。特別なのかも』


『そうでしょうか?』

『可能性はあるぞ。ほら、お前の刀にはマッドボアの血が残っていない。それに巫女装束に返り血もない』


 西園寺は、マッドボアから抜いた紫雲の刀をまじまじと見て言った。返り血を浴びた筈の巫女装束もまっさらなままだ。


『ほんとだ。マッドボアは思いっきり血を吹いてたよね?』


 後ろにいた朝霧にも返り血がかかった筈だが、やはり奇麗なままだった。


『凄いです先輩!』


 なんだか分からないところが凄い。てか、何かが起こっていた。

 みんな狐につままれたような顔だ。


『そうだ。ちょっと、牙を切ってみろ』


 西園寺は思いついたようにマッドボアの牙を指さして言う。


『あ、はい。分かりました。では。えいっ』


 紫雲が、軽くマッドボアの牙を切りつけると、牙はスパッと切れてしまった。


『うそっ』

『やはりそうか。おそらく、今の巫女は特別な力を授かっている』

『聞いたことありません』


 驚く紫雲。


『じゃ、わたしもやってみる!』


 そういうと、こんどは朝霧がマッドボアの牙に刀を振った。すると、やはりスパッと切れてしまった。


『すっご~いっ。ってか、怖い!』


 朝霧は刀を見ながらビビっている。確かに凄い切れ味の刀を持っていると思ったら怖いだろう。


「三鈴の力が開花したのか?」


『ん? そういえば、ちょっと気になってたんだが、今日は、巫女たちの声が変だよな? もしかして、三鈴の力と関係があるのか』


 西園寺が不思議そうに言った。


『そういえば、確かに今日は音が変かも。私の耳のせいだと思ってたんだけど』

『私もそう』

『うんそう』


「そうかなぁ。逆にこっちは今のほうがリアルに聞こえるけど」

「そうよね」

「うん、俺もそう思う。あっ」

「どした?」

「エフェクトボタンが押されてる」


 たしかに、エフェクトボタンはオンになっていた。

 二人にアプリの説明をしてた時にオンにしたままだったらしい。けど、何もエフェクトを指定してないから無効のハズだよな?


「これ? これのせい? まさか!」


 いくら何でも、おかしな理屈だし。


「じゃ、切ってみるか。エフェクト、オフ!」

『あ、光が弱くなりました』


 何故か、LED照明もエフェクトに連動していたようだ。


「じゃ、朝霧、もう一度牙を切ってみて」

『分かりました。えいっ』


 キンッ


 チタンの牙は、朝霧の刀を簡単にはじき返した。まぁ、普通はこうだよな。


「当然だよな!」

『『『えええ~っ』』』

『なるほど、やはりこれは三鈴の力だな!』


 西園寺は妙に納得している。

 一方、俺たちは全然納得してない。


 なにこれ、ただのエフェクトなんだけど。単純に映っている映像に特殊効果を与えるだけの機能なんだけど?


「エフェクトかけると強くなる? 魔石の効果なの?」

「どうかな? エフェクトなら、映っている対象に対して効果があるはずだが、ちょっと違う」

「LEDの照明も関係する?」

「いや、それはたまたまだろ?」

「だよな?」


 理由は不明だが、エフェクトボタンによって魔石の効果がオンオフされているように見える。いや、それ以上に特殊な効果が出ているようだ。


 その後、いろいろ試してみたらエフェクトをオンにするとLEDランプが強く光って巫女たちの身体全体がシールドされたような状態になるのが分かった。巫女服が刀で切れなくなったのだ。

 恐らく何かのフィールドに包まれていると思われる。それがバリアのように働いているようだ。


 それから、エフェクトがオンだと何故か巫女の持っている刀が名刀のような切れ味になる。

 小さい力で簡単に硬いチタンの牙を切れるのだ。まぁ、チタンと言っても生体なのでタンパク質で固めている筈だから金属チタンとは違って切れないことはないのだが、それにしても簡単に切れるものではない。実際、異世界の人たちが驚いている。

 名刀というより霊刀のようだ? 実際、西園寺の刀は先ほどの闘いで刃こぼれを起こしていた。普通はこうだ。だが、紫雲や朝霧の刀には全く刃こぼれがなかった。


『さすが神具。いや、神器なのか?』


 西園寺は納得している。


『ほんとうです。こんな力が三鈴にあったなんて! 驚きました!』

『全くです。三鈴凄いです!』

『先輩も凄いです』


 ひとりピントがずれてそうだが、それはいい。


「どゆこと?」

「私が聞きたい」

「中の人が驚いてどうする。でも驚く」


 そういえば、俺たちってペンダントの中の人かも。茫然としているけれど。

 良く分からないエフェクトの効果は、危険な可能性もあるので通常はオフにしておくことにした。


  *  *  *


 興味深い現象を発見したが安易に使うわけにもいかない。魔物討伐の見学は出来たことだし、今日のところはひとまず帰ることにした。

 倒したマッドボアは、そのまま燃やし、残った魔石とチタンの骨を持って帰るという。資源として使えるらしい。


 ただ、俺は街道に落ちている石のほうが少し気になった。


『これですか? 普通の鉱石ですよ?』

「奇麗な鉱石だね。金鉱石みたいだ」

「ははは、愚者の金だろ。黄銅鉱じゃないか?」


 乙羽に突っ込まれた。


「そうよね~っ」

『いえ、金鉱石です。このあたりは露天掘りをしていたので沢山落ちてます』


 美琴が平然と言った。

 なに~っ? 落ちてるだと~っ?


『そうそう、時々拾って加工したりします。柔らかいから便利ですね!』

『私も趣味で金細工してます』

『我は、柔らか過ぎて嫌いだ』


「「「えええええ~っ?」」」


 異世界は黄金がゴロゴロしてるらしい。

 いや、黄金の国で金が沢山あったとしても、貴重品なのは変わらないと思うのだが?

 違うのか異世界?


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