01 どこの猫だ?
前書き
新作です。1日1話公開予定です。
俺の名前は神岡龍一。都内に住むフリーのプログラマーだ。
三年前に大学を卒業したあと企業には就職せずに個人でアプリの開発を請け負っている。徹夜でプログラムを組んだり説明書を書いたりと結構大変な仕事だが、自宅で自分の時間で仕事ができるのがいい。
今日は、朝から今開発中のWeb会議システムに新しいWebカメラを接続している。
新規格のカメラが出たらそのたびに接続プログラムを作らなければ使うことはできない。それを作るのが今回の俺の仕事だ。
だが、某有名ネットショップから届いたパッケージを開けて、俺はちょっと固まってしまった。
それはデカかった。あまりにもデカかった。
横幅が10cm以上ある。高さに至っては15cmはある。Webカメラとは思えない堂々とした佇まいは立派ではあるが邪魔である。
いやいや、待て待て。Webカメラだぞ? こんなデカいわけはないだろう? これはあれだ、どっきりだ。あるいは過剰包装だ。
と、妄想してみたが、そんなことはない。やっぱり、体格のいいWebカメラだった。
当然、俺は注文した画面を確認した。もちろん注文履歴で確認できる。確認できないようなところから買ったりしない。
で、確認して判明した。これは仕様だ。規格内だ。ちょっと見ないメーカーだけど確かにきっちり書いてあった。俺が勘違いしていただけだ。
常識ってものがあるだろうとは思うけど。
しかし、なんでこんなに大きいのかよくよく見ると、どうもカメラを回転する機構が本体を大きくしている原因らしい。
カメラを回転するにはモーターとか追加の部品が必要だからな。そういえば、天井に着いてる監視カメラはこのサイズだ。
それと、付属の照明も大きさに大きく関与しているらしい。
このWebカメラのレンズの周囲には直径にして約8cmのリング状のLEDランプがついている。このため暗い部屋でも十分な明るさの映像が撮れるのだ。
なるほどね。暗い部屋でWebカメラを使うかどうかは謎だけど。
まぁ、仕様なら仕方ない。ちょっと意外だっただけだ。規格しか気にしてなかったからな。ちょっとデカいけど机の上で安定しているしな! 邪魔だけど。
そんなことを思いながら、俺はおもむろにWebカメラとPCを接続した。
プログラムは既に書き上げてコンパイル済みである。ちゃんと規格どおりなら、普通はすんなり動くはずだ。俺はただの確認作業をするつもりでWebカメラの電源を入れた。
まずは、自撮りというか自分の画像を表示してみる。
動作確認だな。正常に動くかどうかは最初に確認しないと後で返品で面倒なことになる。
立ち上げたアプリはWeb会議システムだが他の人はログインしていないので、映るのは自分の映像だけだ。その筈だった。
「誰だこれ?」
そこには、俺ではない何かが映っていた。しかも、人間ではない。猫だ。いつから俺は猫になった?
* * *
俺は困惑した。
ありえない。
なんで、俺以外が映っている?
いや、俺が猫だと仮定しても、この映像は俺ではない。
いやいや、俺は普通に猫ではない。少なくとも猫ではなかった。
すると、異世界に転生して猫になったのか?
いやいや、ここはちゃんと俺のマンションで、アプリケーションの開発室だ。
どういうこと?
百歩譲って俺が映らなくても良い。いや、良くないけどおかしくはない。いや、おかしいけれど可能性はある。
カメラの故障とか、設定が悪いとか、ありえないけど俺のプログラムにバグがあるとかの理由で変な映像が映る場合はある。だけどそれは、カメラに入ってきた映像の処理の問題であって、画像が乱れるとか暗くなるとか消えるとか歪むとかしか起こり得ない。
でもこの場合は違うのだ。ありえない被写体が映っているのだ。接続の問題のハズはないのだ!
もちろん俺を猫に変換する、「モーフィング」みたいな機能はつけていない!
* * *
いや、ちょっと待て。
俺はフリーズから回復した。
いま俺が作っているのはWeb会議システムだ。だから、どこかの映像が映るのは当たり前といえば当たり前だ。確かにそうだ。何かの間違いでどこかの映像が紛れ込んできた可能性はある。
うん、話としては分かる。ただし、この手にあるLANケーブルがネットにつながっていればの話だ。このWeb会議システムは今、この開発室のLANにはつながってない。俺が抜いたからな。じゃ、映像は何処から来ているというのだ?
ちょっと茫然。
再度フリーズ。
* * *
いやいや、他にも可能性はある。
可能性というものは尽きないものだ。
例えばWifiで接続しているのかもしれない。うん、うっかり俺のスマホにテザリングでつながってるとかな! 結構ある。自動で俺のスマホをアクセスポイントにしてるって訳だ! よくつないでるからな!
まぁ、そんなうっかりさんなら焦ったりはしていない。
う~ん、こうなると、もはや普通の状況とは言えないだろう。
つまり、このWebカメラは密かに何処かと謎の接続しているということになる。
仕様にはない隠された無線LANチップを搭載してるのかもしれない。要するにスパイが使うような偽装した機械が間違って届いてしまったのかもしれない。
さて、どうしたもんだろう。
Webカメラの映像を黙って見つめる俺がいた。
カメラのウィンドウにはこっちを覗き込んでる猫がいた。
シュールな開発室だった。
* * *
とはいえ、問題は解決しなければならない。
いつまで猫を見ていても飽きが来ないからといって仕事を放棄するわけにはいかない。
だれの猫だろう?
って、そんなことはどうでもいい。
大事なのは「だれの猫か」じゃなくて「何処の猫か」だからな。あるいは「何処から来た猫か」でもいいかもしれない。いや、どこぞの知り合いから貰ったかとかそういうことではない。
見ていると、猫はしばらくカメラにじゃれついていたようだが、飽きたのか急に何処かへ行ってしまった。
俺は別の意味で困った。猫がいなくなった画像はただの静止画だ。
どうやらどこかの天井らしい。見たことない天井だ。
ベッドで寝てるわけでもないのに見知らぬ天井を見せられても困る。
* * *
しばらく動かない天井を見ていたら何かを叫ぶような声がした。そして、少しするとぐらぐらと画像が乱れた。
そして安定した画像になったと思ったら、そこには壁に掛けられた古そうな鏡が映し出されていた。
鏡の中には若い女が映っていた。
部屋が暗くてよく見えないのだが寝起きのようで、女の黒髪は乱れている。
誰だ?
今度は、女になったのか?
いかがでしたでしょうか? 応援よろしくお願いします。




