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【メタホラー】閉所恐怖症の時

掲載日:2026/02/04

※恐怖症を発症するかもしれませんので、自己責任でご覧下さい。

 


 息が苦しい。呼吸が浅い。空気が吸えない。

 心臓の鼓動が、速くなっている。

 

 胸が締め付けられる。

 早くここから出たい。


 誰か、ここから出してくれ。


 ────


「夢か……」


 目が覚めると、私はいつも同じ言葉をつぶやく。


 ◆◆◆


「へえ、君は『閉所恐怖症』なのかい? 狭いところにいると発症するやつだろ。狭いといっても、どれくらいの狭さなんだい?」 


 友人が、私にそうたずねた。私は、コーヒーカップを置いて口を開いた。


「実はね、狭さの問題じゃなく、どう認識するかによるって発症するんだよ。心療内科の先生が言っていたんだけどね」


「と、いうと?」


「つまり、ある程度の広さがあっても、閉じた空間で『逃げ場がない』と感じると発症するんだ」


「ふーん。でも、今は症状が落ち着いてるんだろう?」


「まあね。狭いと思うような所に、自分から行かなければいいんだよ」


 ──私たちは喫茶店を出た。


「まあ、たまに夢に見るけどね。狭いところにいる夢を」


 友人と並んで歩きながら、私は言った。


「何かきっかけがあって、そうなったのかい?」


「子供のころに、映画を観ていてね。人間ひとりがやっと入れるくらいの筒の中を、ほふく前進で進んでいく場面があってさ。それを見て、息苦しくなったのが最初なんだよ」


「あ、そういうの、観たことあるな。言われてみれば、閉所恐怖症っぽいシーンだね」


「ま、とにかく、そういう映画を観たり、狭い場所を想像したりしなければいいんだよ」


「そうだな。ところで、夢で思いだしたんだけど……」


 友人が、話題を変えた。


「……時々、昔の夢を見ることがあるんだけど、君はどうだい?」


「うん、私も見るよ。昔の知り合いや、亡くなった祖父母の夢を見ることもあるよ」


「そうだろ? 子供のころの友達とかさ。で、そのとき思うんだ。時間っていうのは、空間以上にへだたりがあるな、ってね」


「妙なことを言うね。どういうこと?」


 私は、友人に聞いた。


「だからさ。ちょっとくらい遠くにいても、会いに行くことはできる。でも、時間というか、過去ってのは、越えられない壁が、背後にあるようなものだな、って思うんだ」


 ──まあ、そういう考え方もできるか。その時はそう思っただけだった。それで話は終わり、私は友人と別れた。


 ◆◆◆


 しばらくしてから、また友人と会い、いつものように他愛のない雑談をしていた。


「この前、君に時間の話をしただろう?」


 友人が言った。


「そうだったかな。それがどうかした?」


「ある学者が言ったことなんだけど。なんでも、『時間』と『空間』は、同じものだというんだ」


「時間と空間が同じ? 一体全体どういうことかな?」


「つまり、空間の広がりがあれば、そこの移動には時間がかかるじゃないか。だから、空間の広がりと時間のそれは同じもの、ってことなんだ」


「そうかな? ピンとこないな」


「それに、空間ってのは伸び縮みするらしい。それに合わせて、時間も伸び縮みするんだ」


 私は、友人と別れ帰路についた。

 この時した雑談の、他は忘れてしまったが、この会話だけは、妙に記憶に残った。

 


 ────


 私は、就寝前に、寝床で考え事をするのが習慣だった。


 友人の言ったことが、どうにも気になっていた。空間と時間の広さは同じものなのだろうか。


『過去とは、背後にそびえる壁のようなものだ』という、友人の言葉を思い出した。


 たしかに、我われ人間は、過去に1秒だって戻ることはできない。いうなら、決して越えられない壁が、背中に密着しているようなものだ。


 では、未来はどうだ? 我われは、みな未来に向かって同じ速さで進んでいる。その速さを飛び越えて進むことは、出来ない。

 宝くじの当たりを予想することはできないし、明日、何が起こるかもわからない。


 ──時間と空間の広さは同じ。



 …………!



 私は気づいてしまった。過去は、私の背後に密着してそびえ立っている。生きるにつれて、背後の壁は厚くなっていく。


 そして未来もまた、私の目の前に密着している壁だ。その向こうをうかがい知ることはできない。上下左右に無限に広がり、手がかりも足がかりもない。


 私は、時間に閉じ込められている。しかも、極めて狭い領域にだ。なんということだ。今までまったく気づかなかったが、あまりにも明らかではないか。


 そう考えているうちに、私の中にイメージが浮かんできた。正面と背後に、無限の広さを持つふたつの壁が、私を密着して挟んでいるイメージが。


 私はそれにあらがうことができない。それどころか、身動きひとつ取れないのだ。それでいて、その壁に触れることすらできない。


 逃げ出すこともできない。どの方向にも、逃げ場がないのだ。



 …………



 苦しい。息が吸えない。

 心臓の鼓動が、速くなっている。

 

 胸が締め付けられる。

 早くここから出たい。


 誰か、ここから出してくれ。


 私を助けてくれ。



 たのむ、誰かここから出してくれ。



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― 新着の感想 ―
未来と過去に挟まれて生きている。そう考えると、閉所恐怖症の方が逃れる場所がどこにもない……。 想像するだけで圧迫感を感じますね。これがメタホラーですか、確かに注意書きをするのも納得の話でした。
 過去は背後に密着すれど未来は拡張するのでそこまで問題はないかな。  それよりも私は世界の閉鎖性が気になります。  この世界の全ての法則は閉じてますし、メタな観点を以て世界を俯瞰すると世界は神の創った…
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