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中:レベル8の神獣、武芸者と出会うこと

 ミミは、「少し思うところがあって」、前の神獣のところを離れて彷徨っていたらしい。聖女という職業を活かして、所属する神獣を探してぴょこぴょこ移動していたときに、たまたま、おれと出会ったとか。

「幸運です。私、たぬきが大好きなので。僭越ながら、ガチ勢を名乗らせていただいております」

 たぬきガチ勢、どこで名乗るの?

「おれもラッキーだ。チュートリアルかと思ってごめんね」

「いえいえ。タイミング的にそう思われても仕方ないですよ。そもそも黄昏の大地は、あんまりちゃんとしたチュートリアルが、ないんですよね。他の職業だと、初心者用の神獣を紹介されてそこでしばらく活動してから、所属先を選ぶ人が多いですよ」

 習うより慣れろ形式で、プレイヤー同士はなるべく助け合っているらしい。ミミは2日目に会って以来、「農民」の職業を選択していた。たすき掛をした和服のような姿で、青い髪はひとつに結いあげられている。生地の色は茶色で、たすきと前掛けの色は黒だ。おれとオソロ、らしい。ものは言いようだ。

「あ。もう使用回数ないや」

「でも最初に比べたらかなり長く、使えるようになりましたね」

 レベルをひとつあげたら、おれは「祝福」というものが使えるようになった。なんかちょっときらっとして、地面のひび割れが直ったり、折れた木がくっついたり、人の怪我が治ったりする。地面を直さないと草や木が植えられなくて、地面を直すアイテムは入手が難しそうだったので早速詰んだ、と思ったので助かった。ひび割れの直った地面に、「農民」のミミが鍬を入れると、やっと種や苗が植えられるのだ。

 ログインボーナスを貯めつつ、小さなイベントをこなして、ちょっとずつあちこちを直している。ミミが手持ちのアイテムを使ってくれたところも多い。荒れた土地は広く、手を入れたい場所はたくさんあるので、なかなか景色は変わらない。

 やることをやり切って、ログアウト前にふたりで、広場と呼んでいる聖堂前の空地であたりを見回すのが、なんとなくの日課だ。

「うーん、道のりは長い」

「そうですねえ」

「でも昨日よりは、素敵になったよね」

「はい、のんびり行きましょう」

 今日はじゃがいもの芽が出たとか、一区画土地を直し終わったとか、レアなアイテムが日課で出たとか、おれとミミは良かったことを報告し、顔を合わせて笑い合う。たぬきな神獣、レベル8、けっこう、頑張ってると思う。


 =====


 ある日、おれとミミが広場と呼んでいた空間に、ぽつりと影があった。ひとりの男が、胡坐を組んで座っている。銀色のぴかぴかの鎧に、青いマント、そして無雑作に地面に置かれた、大きなハルバード。すごくレベルが高そうな人だった。レベル差があると、相手の情報はほとんど見られないんだけど、うーん、名前も分からんとは。

 彼はここの所属者ではなくて侵入者なので、領地からオートでちくちくとダメージを与えられている、はずなんだけど、ほぼほぼ無効化しているようだった。

 ミミが、「聖女」に職業を変えた。「アーチャー」と「杖術士」の職業もミミが持っているのを知っている。戦闘に向くそれらを選ばなかったのは、たぶん戦っても勝てないと判断したからで、そうであるならば逃げやすいのが聖女だからだろう。

「こんにちは」

 広場の手前で立ち止まってとりあえず呼び掛けると、彼は微笑んで挨拶を返してきた。とりあえず、やばいやつではなさそう、かな? ふわふわの茶髪が揺れて、緑の目がやんわりと緩む。いけめぇん。

「ずいぶんと可愛いのが、でてきたなあ。君がここの神獣なの?」

「うん、おれはぽん。こっちはミミ」

「そっか。名前もかわいいね」

「ありがとう」

「貴方はなぜここに? 何か、御用でしょうか?」

 えへへ、と笑うおれを背後にかばいながら、ミミが厳しい調子で問う。両手をあげて、彼はまた微笑んだ。

「害意はない。用というか、しばらくここにいさせてもらえないかな、なんて思ってるんだけど」

「いいよ」

「いいの?!」

「うん、いいよ」

 自分から申し出たのに、彼はもう一度、いいの? と戸惑ったように念を押してきた。おれは彼の侵入者になっていたステータスを、「来訪者」に変更する。これで、ちくちくされないはずだ。

「ありがとう。俺が言うのもなんだけど、ちょっと不用心じゃないかな」

 所属していないものが侵入者として攻撃される設定なのは、決められた手順を踏めば、領地の共有財産を略奪したり、所属員や土地に攻撃したりすることが可能だからだ。でも。

「とられて困るもの、まだない」

 土地やおれたちを攻撃しても、レベル差で経験値も微々たるものだろうから、やるだけ徒労だ。愉快犯的に無茶苦茶をやる人にも思えない。

「なるほど」

 俺も、無人の村かと思って入ってきたしなあ、と呟く。まだね、いろいろ手がまわっていませんのでね。

「でも、良い場所になる予定なんだよ」

「そっか」

 やりとりを静かに見守っていたミミが、職業を「農民」に変えた。見慣れた、いざ大地を耕さん、というかっこうになる。

「君も、いいの?」

「ぽんさまがお許しになられたなら否やはないです。いいですか? これから毎夜、ぽんさまの御優しさ、麗しさ、可愛らしさ、そのご厚意に五千万回謝意を述べてから眠ってくださいね」

「え、っと」

「ごめんね、たぬき過激派の聖女なんだ」

「なるほ、ど?」

 名乗ること、あったね。たぬき過激派。


 =====


 彼は宣言通り、害意はなく、だいたいいつもの場所に座っていた。律儀で、顔を合わせると必ず挨拶をしてくれて、居させてくれる御礼にと、柿の木をくれた。けっこうレベルをあげないと手に入らないアイテムだ。

「うれしい、おれ、柿好きだ! どこに植えようか」

「よかったですねえ」

 ミミとふたりで場所をああでもないこうでもないと検討して、結局、領地の門のよこに植えた。門はまだ壊れてるんだけど。一定の期間で実るらしいので、楽しみ。大喜びしているおれたちをなんと思ったのか、それからも使えそうなものや手に入ったものを、おすそ分けしてくれる。いい人だ。

「ずっとそこにいていいの?」

「うん、まあね」

 おれたちがちょこちょこ土地を直して作物を植えているのを見て、何か楽しいのだろうか。ばりばりに戦いに行きそうなかっこうだけれど。

 いちどログインのタイミングが重なったとき、ものすごい勢いで日課を終えているのを見た。そして終えたら、ログアウトするでもなく、ぼーっと座っている。いい人だけど、ちょっと変な人だ。

「ギャー!!!」

「わ、あの声は」

 ある日、領地の柵をどう直すかミミと話していると、恐ろしい声が響き渡った。これは、「怪鳥襲撃」というイベントだ。週に1回くらい、ランダムでやってきてキャラクターを攻撃し土地を荒らす。退治できればアイテムをゲットできるんだけど。

「レベル28です」

「わーん、この前より強いじゃん」

 ミミの偵察に、おれは泣いた。前回おれたちは、レベル11にこてんぱんにやられている。痛かった。毛をむしられた。ミミは戦闘職をそこまでレベルアップしていないし、そもそも大勢で倒す前提だもんな。いまのおれたちには辛い。

「無理! 避難しよ! あんまり荒らさないで帰っておくれよ!」

 この鳥は、聖堂には入って来られない。泣き言をぴぃぴぃ言いながら、聖堂にこもろうとしたところで、おれはいま領地にはもうひとりプレイヤーがいることに気付いた。

「ミミ、先に行って待ってて」

「ぽんさま!?」

 肉球で急ブレーキを掛け、華麗にターンをして、おれは広場へ走った。想像通り、そこには最近すっかり見慣れた姿が座り込んでいる。

「ぎんぴかさん!」

「ぎんぴかさん!?」

 あ、鎧のこと? と、彼は自分の胸をさすった。だって、そういえば、名前聞いてなかったんだもの、しかたない。

「逃げて逃げて、怪鳥が来るよ!」

「ああ、土地を荒らすやつだね。いっしょうけんめい手入れしていた土地なのに、戦わないの?」

「おれとミミじゃ、倒せないから、しかたないよ。そこはあぶないから、聖堂に行こう」

「俺を聖堂に入れていいの?」

 聖堂は大切な場所で、基本的には所属するものたちにしか開かれていない。でもべつに、来訪者が入れないわけじゃない。

「いいよ、おいでよ」

「俺がここにいたら、俺を標的にするんじゃないかな」

「そう! あの鳥、すごい凶暴だよ! まずキャラを狙ってくる」

「俺が標的にされたら、土地の被害は少しましだと思うけど」

「でも、ぎんぴかさんが、痛いでしょ。うち回復アイテムとかあんまないし」

 確かに鳥は人・土地の順に狙ってくる。だから前回は応戦してみた。けど全然だめだったわけで……こんな押し問答している場合じゃないんだけどなあ。ミミも聖堂のまえで、はらはらとこちらを伺って時々早くというように手招きをしている。

 ギャーギャーという鳴き声と一緒に、ばさばさという羽の音まで聞こえてきた。もう大分近づいてきている。

「おれは先週、尻尾の毛とあたまの毛を毟られたんだよ! ぎんぴかさんも、茶色のふわふわの毛だから、毟られちゃうよ!」

「毛を……」

 しばらく黙って、それから彼はおれの頭をなでて、微笑んだ。

「それは、痛かったねえ」

「うん」

 だから、と言いかけたおれのことばを制止して、ぎんぴかさんはゆっくりと立ち上がった。

「鳥のレベルいくつか分かる?」

「28!」

「じゃあ、大丈夫。隠れててね」

 ぎんぴかさんは、ハルバードをひとつふたつ振って、広場の真ん中へ進んでいく。紫の羽と長い黒の嘴を持つ鳥が、空中でホバリングしていた。

「はわわわわわ」

 やばい、レベル違うとビジュ違う。強そうすぎ。おれは鳥の隙を見て聖堂に駆け込むことも出来ず、言われた通り小さな茂みに体を寄せた。

 ぎんぴかさんが、ジャンプした。同時に何か呪文を唱えている。風が巻き起こり、鳥の羽を捩じ上げた。体制を崩した鳥の首を、ぎんぴかさんが、すぱーんと刎ねた。

「ま、まじ? 一撃?」

 どんだけ強いの。地響きを立てて鳥が落ち、砂埃が舞う。エフェクトがかかって、山盛りのアイテムに変わった。

「すご。ぎんぴかさん、怪我は?」

 ないよな、と思いながら聞くと、案の定、平気平気と返ってくる。

「あと俺ね、ぎんぴかじゃなくってKっていうんだ」

「そうなんだ。けーくんって呼んでいい?」

「いいよ。君のことは、なんて呼べばいいかな?」

「呼び捨てでいいよ!」

「ありがと。ねえ、ぽこ、俺もここの住人になってもいい?」

「いいよ!」

 いいんだ、とけーくんが笑う。ぴこん、と申請が来た。おれはもちろん、やったーってなって承認を押した。第2村人だ。駆け寄ってきたミミには、勝手に飛び出したことから相談なしに決めたことまで少し怒られて、ついでに拗ねられて、しばらくのあいだ尻尾をもしゃもしゃされた。

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