7.バイト終わりにはドラゴンのステーキ
「──おはようございます! 姫野 葉月と申します! 短い間ですが、今日からよろしくお願いします!」
「はい、よろしくお願いします。姫野さんは別のスーパーでのバイト経験があるんですって?」
「はい! レジ打ちと品出しの速度には自信があります!」
はいどうも、姫野 葉月です。
今日はスーパーでの短期バイトで資金を稼ごうと思います。
これまで色んなバイトをやってきたけど、私にはスーパーやコンビニとかの接客業が合うみたい。
まぁ飲食系もやったことあるんだけどねー、焼肉とか回転寿司とか。あれはねー、大変よくない。
仕事終わりに食べちゃうんだもん! 美味しそうだから!
まかないとか割引してくれたりで、とにかく食べちゃうの!
しかもさ、友だちにも食べて欲しいから持ち帰りしよう! って感じで、その日の稼ぎをその日に使っちゃうペースで⋯⋯
あーっ、もう。今日は朝ごはん食べそびれちゃったから、この話はやめにしよう。
とにかく、無駄使いを避けるには飲食店でのバイトはよした方がいいよのね。
「姫野さん。そのパン類は向こうの棚だから、品出ししてきてくれる?」
「はーい!」
わっせわっせ、えっちらおっちらっ⋯⋯と。
んおっ、あのメロンパン、賞味期限が古い方なのに棚の奥にいっちゃってる。鮮度管理 鮮度管理っ。
んん? このチョコスティックパンはこっちの売り場じゃないね。元に戻してっと。
あれ、これって新規の商品かな? おいしそー、今度買ってみようかな。
『──3番レジ開放お願いしまーす。3番レジお願いしまーす』
あ、はーい。姫野が動きまーす。
いらっしゃいませーっ、こちらのレジどうぞーっ!
ピッピッピッ、と。焼き豆腐、すき焼きのタレ、しらたき、牛肉1パック、長ネギ⋯⋯
「お兄さん、今日はすき焼きですか?」
「ん? あぁ、そんな気分になったんで⋯⋯」
「いいですよねー、すき焼き。あっ、袋はお付けしますか?」
「あ、お願いしますー」
がってん承知の助〜。
豆腐とすき焼きのタレを横にして土台を作って、牛肉としらたきの順で袋に詰めて⋯⋯長ネギはズボッとこう!
いいなーすき焼き。お腹減った。すき焼き食べたい。
「ありがとうございましたー! 次にお待ちの方どうぞー!」
いつの間にかお客さんの列が出来てるね。ばっちこーい!
そんなこんなで5時間働き、本日のバイトは終了。
スーパーの制服を脱いでから、店長さんに挨拶っ。
「──お疲れさまです! お先に上がりまーす!」
「はい、お疲れ様です。次は明後日火曜日のお昼12時からお願いします」
「分かりましたー! では失礼しまーす! お疲れさまでーす!!」
ふぃ〜、もう13時か。めっちゃお腹減ったから帰ろう。
人目につかないよう適当な場所を探して⋯⋯ゲートを開いて異世界の我が家に帰還っ。
財布置きーの、戸棚開けーの、インスタント食品漁りーの、気分のものが無いーの、戸棚閉めーの。
ううむ⋯⋯。何か食べようと思って見てみたけど、食べたいものが無いや。どうしよっかな。
ここ最近はパックご飯やファミレスやインスタント食品と、前世のモノでかなり贅沢しちゃったからなぁ。
折角の空腹だし、今日のところはハヅキお嬢様として村のご飯屋さんにでも足を伸ばすとしようかな。
流石にスウェットのままじゃお嬢様として格好つかないね、ちょっと着替えよっか。
こういう時に私が着るのは、グリーンのセーラーカラーワンピースだね。チェック柄の。
上品だけど派手過ぎない雰囲気のやつでさ、実はかなり気に入ってるんだよねぇ。
それじゃ、ショルダーのかごバッグに異世界用のお財布と、前世で買った折りたたみのフリル日傘を入れてっと。
お昼を食べに出発──の、その前に。玄関(めっちゃ広い)の姿見の前でクルンっ。
むふふん、まさにお嬢様って感じっ。ご機嫌うるわしゅう、ヒメノ・ハヅキ。本日も素敵ですわよ〜。
なんちゃってね。ほんじゃあ、麦わら帽子を被ってぼちぼち出発っ。
「──おぉ、これはこれは。お出かけですかな、お嬢様」
「村長さん。そうなの、お昼を食べに村のお店までね〜」
屋敷の鉄門を魔法で開いてすぐ、村長さんと出会した。
私の屋敷は村から少し離れていて、小高い丘の上に建っているのだけれど⋯⋯。
ガンダスさん、今年で70歳になるっていうのにまだまだ元気だね。いち村民として健康を祈ってるよ〜。
「村長さんこそオシャレして、これからどこかお出かけ?」
「ええ。この近辺にある村や里の長老達が集って行われる定例会議がありましてね。まぁ、それぞれの村の情報を共有する事で各々が今後の方針を⋯⋯と。失礼、今から昼食でしたな」
「いいよう、別に。でも気遣いありがと。今度聞かせてね〜」
「左様で。では、これにて」
ほーい、ばいばーい。
長老同士での定例会議かー、なんか大変そうだねぇ。
気が向いたら今度行ってみようかな? どこかの村が困っているなら、このハヅキお嬢様にお任せよ。
財力もそこそこあるから金銭的な支援も可能だし、魔物による農作物被害でも腕っぷしでなんとかしちゃうぜ!
魔法もまぁ色々扱えるつもりだし、割となんでも解決出来るだろうからなぁ。今度ホントに行ってみよっと。
「──あっ! ハヅキお嬢様だー! やっほー!!」
「わーい! ハヅキお嬢様だー! 今日もステキ〜!!」
「ふふふ。くるしゅうない くるしゅうないっ」
大きく手を振る村の子どもたちに、私も手を振って返す。
元気だねぇ、子どもっていうのは。また街に行ったらお土産のお菓子とか買ってきてあげよう。
「おぉ、お嬢。こりゃどうも」
「バカお前、そんな汚ぇナリで挨拶すんなって。お嬢、ご無礼をお許しくだせぇ」
「あぁ? オメーだって汚ぇじゃねーか!」
「なにぃ? オメーよかマシだ!」
「おだまりヤローどもっ! このハヅキお嬢の前で喧嘩しないの!」
「「へへえーーっ」」
ふふっ。この畑で仕事してるおじさんたち面白くて好き〜。
土で顔が汚れてるくらい気にしないのに。男は仕事とお前にどれだけ真剣であるかで選べってお父さんも言ってたし。
まぁ私には男なんて無縁な話だけどねー、恋愛とか全く興味無いし。生涯独り身を貫くつもりだよ。
でもまぁ? タメか少し年上で? 私に真剣で? 顔が良くて背も高いなら? 人生の半分くらい捧げてもよくってよ?
「じゃあなお嬢ーっ」
「また飯食わせてくれやーっ」
「おーっす。近々またウチに招待するよーーっ」
おじさんたちと別れ、村への道をゆったりと歩く。
しっかし、随分と村の人たちと気楽な関係になれたなぁ。
最初はみんな謙遜気味で⋯⋯というか謙遜されていたんだけどね、今ではああして受け入れてくれてるよ。
まぁ急に村に現れた奴がね、“あの丘の上にお屋敷を建てる”なんて言い出したら普通びっくりするよね〜。
私も距離を縮められるよう手作りのお菓子を配ってみたり、壁を無くす為にお食事会とか開いてみたりしたなぁ。
今度またお食事会やるなら、ど派手なBBQとかやってみようかな? こっちの世界でも材料は揃えられそうだし。
「──ハヅキ様!」
「ハヅキ嬢!」
「お嬢様!」
「ハヅキお嬢様!」
「お嬢!」
村に入ってからというもの、道行く全員が私を呼ぶ。
やーやー皆の衆、今日も元気でやっとるかー? 私は元気でやっとるぞーっと。
ふう、人気者はつれーぜ。お目当てのお店にたどり着くのに時間かかっちゃった。
強面のおっちゃんがやってるお店なんだけどね、前世での水曜日のタイミングにはドラゴン肉のステーキを出すんよ〜。
これがまっった美味しいのなんの! 鶏肉みたいでふっくらジューシー! 1皿400gくらいで食べ応えもバツグン!
味付けはシンプルに塩と胡椒だけなんだけど、火入れが絶妙でもう最高! 付け合せの玉ねぎとポテトも美味しい!
そしてなにより! 私が前世で買ってきたお米を完璧に炊いてくれるの! めっちゃ必死に懇願した!!
「──今日も来たよー、いつものお願いするぜー」
「ハヅキ嬢、また来たのか。飽きねぇな本当」
「それだけ料理人の腕が良いってことだよう、んー??」
「分かった分かった。もしかしたら来るかもと思って、貸し切りにして大量に作ってあるぜ」
ドカン! と、テーブルに山盛りのステーキが置かれる。
その傍らにはもちろん、日本の昔話でも見ないような特盛の白米!
さっすが店主。こんなのをかっ食らう姿、みんなには見せられないよ。貸し切りにしてくれてありがと。
今度またドラゴン討伐してくるから、その時はよろしくお願いね。
⋯⋯さ、て、と。もう辛抱できない! カロリーなんかどうでもいい! バイト終わりの至福の時間へ! いざ!!
「──きゃああーーっ!!」
私がステーキにかぶりつこうとした瞬間、店の外から悲鳴が聞こえた。
何かあったぽい。声色の感じからして、悲鳴を上げた本人に被害は無さそうだけど⋯⋯。
ひとまず、ここで私は一言大声で叫びたい。
いまぁぁぁあ!!?
うーん⋯⋯
この主人公食ってばっかじゃね?




