6.夜食with狼娘
ちらっ。ちららっ。
こちらエージェント姫野 葉月、ただいま深夜の空腹を満たべく自宅で秘密の任務中。
昼間にフローラさんとファミレスでたくさん食べたけど⋯⋯やっぱりこの時間はお腹が減るね。
最近、夜食しすぎかなぁ。お腹周りがふにっとしてる幻覚を見るようになっちゃったわ。
かといって、じゃあ夜食はやめにしよう! とはならないんだけど⋯⋯。まぁそれはいいとして。
なぜにアテクシがこげなコソドロみたぁに足音忍ばせてるかちゅうと、夜食しようとしてるんがバレたくないからやねん。
「──ハヅキ、なにしてんのアンタ?」
「へうっ!! フィーナ起きてたの!?」
身を屈めながら入ったリビングで、コンソメポテチ(BIG)をかっ食らうフィーナと遭遇した。
仕事終わりに遊びに来たから、そのままお泊まりって話になったんだけど⋯⋯。
貴女、私が作ったハンバーグ(シーズニングは市販のやつ)を美味しい美味しいって平らげたじゃない?
いやホント、ばりぼりばりじゃないんよ。それは私が食べようとしてたポテチなんだわ。
って、うすしお(BIG)のゴミがあるのはなんで? まさかそれも食べたの!?
このっ、小娘っ! くらえ! 葉月ちゃん流カンフーほっぺつねり!!
「ほあちゃあああーー!!」
「むぐう!? ふぁいふぅるの!!」
「なにするの、はコッチの台詞じゃい!!」
たてたてよこよこまーるかいてちょん! どうだ参ったか!
ンまったくもう、このコったらホントに食いしん坊なんだからもう⋯⋯。
2袋も食べちゃうなんて、それだけ気に入ったのね? ならまぁいいよ、許したげる。
というかそもそも、そのお菓子はお客さんに振る舞う用のものだしね。
1ヵ月分のお給料の内、前世の食糧を買い溜めするのに使うのは4万円。全額を私1人が消費するワケないじゃない。
もちろん自分のご飯代も含まれてはいるけれど、ほとんどはおもてなし用のお菓子やお茶代に使うよ。
だ、け、ど! 無断で食べるのはメッ! せめて事前許可を取りなさいな。
食べちゃダメだなんて私どうせ言わないから。ハヅキお嬢様は寛大でしてよ?
「ねー、もっかいハンバーグつくってよー」
「えーっ、やだよう。代わりに何か出すからそれで我慢して」
「ハンバーグより美味しいもの?」
「Maybe」
「めいびー?」
コテンと首を傾げるフィーナを椅子に座らせて、私はキッチン上の戸棚を開けた。
そこにあるのは常備している葉月セレクトのカップ麺たち。
ええっと。お蕎麦が4つ、うどんが6つ、焼きそばが3つで、カップラーメンはシーフードと醤油が3つずつか。
他にも、いくつかの袋麺とかパスタやうどんの乾麺なんかも置いてあるね。
一人暮らしには多すぎな気もするけど、まぁ備えあれば憂いなしって言うからね。
実際、大食いフィーナの胃袋が相手なら、これくらいあって安心な具合だし。
「う〜ん、塩ラーメンにしよっかな。フィーナ、ちょっとお湯を沸かしておいてくれない?」
「お湯を⋯⋯? どれくらい沸かす?」
「たっぷり目でいいよ。どうせたくさん食べたいでしょ?」
「うん、分かった! ──あれ、ハヅキ。向こうの世界に行くの?」
「ちょっとね。お鍋とかはあっちの棚に入ってるよ、んじゃ」
フィーナに言い残して、ゲートを開いて前世へGO。
しばらくしてから自宅に戻ると、フィーナがウチで1番大きな鍋でお湯を煮立たせていた。
いや、まぁ目安を適当に伝えた私も私だけれど、どれくらい食べる気だったのよ。
寸胴だよ? ウチで1番大きな鍋。たしか12ℓのやつなんだけど⋯⋯。
この屋敷には私の友人がよく来るから、なんか大きな調理器具あった方がいいかなって買っておいたやつ。
結局今まで一度も使ってなかったのに、まさか夜食を作るのに使うことになるなんて。このコ、本気なの⋯⋯?
「あっ。ハヅキ、そのガサガサの白い袋。もしかして“こんびに”に行ってきたの?」
「ん? あぁ、そうそう。袋麺はトッピングが肝心だからね」
台所に買ってきたものを並べて、夜食錬成いざスタート。
1袋5食入の塩ラーメンを⋯⋯まぁどうせなら全部いっちゃおうかな。フィーナがいれば大丈夫だろうし。
トッピングとして買ってたのは、1パック4個入りの卵とウインナー1袋ともやし1袋。これも全部入れちゃおう。
えーっと、それじゃあ⋯⋯。お鍋にもやし1袋と塩ラーメン全部入れてと。
ぐつぐつぐつ。麺がある程度ほぐれたら、ちょっと早いけど粉末スープも入れちゃう。
んで、もやしと麺を煮込みつつ頃合をみて卵も4個投入っ。
ウインナー1袋もパパっと入れて⋯⋯。おっ、フィーナが器とお箸を用意してくれてる。
1つでいいよー。私の分はその器に取り分けるから、フィーナはお鍋から直で食べちゃいなー。
⋯⋯ふふふ、「いいの!?」だって。ホントに子どもみたいでカワイイんだからフィーナは。
まぁ実際、年齢としては私と同じだけど、あの子の種族である影狼の中ではまだ子どもらしいけどね。
彼女と知り合った時は、ここまで私に甘えてくれるようになるなんて思ってもいなかったなぁ。
過酷な境遇を乗り越えてきた子みたいでね。他人になかなか心を開かないような──
っと、ラーメンが頃合いだね。思い出を振り返るのはまたの機会にしましょう。
「出来たよー。葉月特性の塩ラーメン、食べてみーや!」
「へえ〜! なんか不思議な見た目! でもハヅキのご飯って絶対美味しいから好き!」
「やだぁん、ママ嬉しくなっちゃうわ。たんとお食べ〜」
「はーい! いただきまーーす!!」
はーい、私もいただきまーす。
ソバッ ソババババッ ムグ⋯⋯。うひょう、背徳と罪悪感のお味♡ 袋麺ってやっぱ塩が最強だよねぇ。
個人的に、もやしを入れるならお湯の規定の量よりちょっと少なめにすると塩気が程よくなって好き〜。
「おいしーね、コレ」
「おいしーねぇ」
僅かな会話を挟んで、また麺をすする。
フィーナ、お箸の使い方を完璧にマスターしたみたいだね。
麺をすするっていうのもね、最初は抵抗があったようだけど今じゃもう慣れたっぽい。
「「⋯⋯⋯⋯。」」
ズルズルズル。麺をすする音だけがリビングに響く。
これでいいの、これがいいの。大きな声で「おいしい!」ってなるんじゃなくて、こう黙々と食べるのが夜食ってものよ。
もやしパクっ、ウインナーパリっ、麺ズルっ、麺ズルっ、もやしパクっ、麺ズルっ、スープゴクっ。
んあああーっ。健康寿命くんの叫び声がどもからともなく聞こえてくるうーっ。
ゴメンね健康寿命くん。私、不健康くんの方が高カロリーでお手軽で好きになっちゃった⋯⋯♡
「ぷはぁ! コレ美味しかった!!」
「えっ、はっや」
わ、すごい。スープも全部飲み干してる。
やっぱりこのコの胃袋はとんでもないなぁ。どこに入っていってるだろう?
というか胃袋のキャパもそうだけど、ホントに麺類の食べ方に慣れきっているね。
お箸の使い方だけじゃない。「すする」って食べ方を完全に習得しているよ。
私も日本人だし、今までお味噌汁とかラーメンとか当たり前にすすって食べてきたけど⋯⋯
なんで“食事を音を立てて行う”っていうのが下品とされていることに結びつかなかったんだろう?
フィーナに初めてうどんを振る舞って一緒に食べた時、お手本としてすすってみせたらドン引きされたんだよねー。
異世界に転生して以来の指折りのカルチャーショックとして覚えているなぁ。
そういう食文化で私が生きてきたとはいえ、よく受け入れてくれたものだよ。
「んじゃ、ごちそうさま。これで明日の仕事も頑張れるっ。お鍋洗っとくね〜」
「ん、ありがと。適当に干しといてくれればいいよ」
「分かった〜」
さてと、麺が伸びちゃう前に食べ切ろう。
ふーっ、ふーっ、ズルズル⋯⋯。あっ、玉子あった! 半熟気味でうま〜。
「──ところで、さっきなんでコソコソ歩いてたの? 自分ちなのに」
「ん⋯⋯? あ、いや、ちょっと⋯⋯。私の前世で流行している動きでね、あはは⋯⋯」
「そうなの? やっぱ面白いね、ハヅキの住んでたとこって」
あ、危うくむせるところだった⋯⋯。
そうだ。しれっと私も食べてるけど、そもそも夜食してるのバレたくないんだった。
でもまぁフィーナならバカにしてくることも無いでしょう。
というか、インスタントラーメン1食程度なら夜食に入んないっしょ! うんうん!
⋯⋯コンビニでフライドチキンとフルーツサンド買い食いしてきたのは内緒なんだけど。
で、でも私も冒険者だし? 動く時は動くアクティブお嬢様だからこれくらい食べないとねぇ〜。
「──お鍋ここに干しとくねー。じゃあ、おやすみー」
「お、サンキュ-。おやすみ〜」
寝室に戻るフィーナを見送り、塩ラーメンと向き合う。
急に静かになっちゃった。こうして1人でご飯を食べていると、この世界に転生した当初の頃を思い出すよ。
アテなし、知人なし、一文無しだったな。別に寂しくなんてなかったけどね。
──私には「世界を行き来する力」があったから。
「⋯⋯ふふふ」
さってと、食べちゃお食べちゃおっと。
明日はまた「葉月空間」の育成に励んでみようかなー。




