4.異世界行くならファッションに気を使うべし
おう、私だ。姫野 葉月だ。
今日はな、冒険者としての先輩かつ友人のフローラ姐さんと岩巨人の殲滅に来てるっつうことで夜露死苦ぅ。
⋯⋯んん? なんでヤンキー風に自己紹介とあらすじ語りをしたかって?
いやぁね? 思ったよりも早く仕事が終わったから、無数の岩巨人を積み上げた山の上でカッコつけていたってワケよ。
その数なんと数十万体!! ⋯⋯っていうのは冗談だけど、まぁ50体くらいは倒したのかな?
で、邪魔にならないように一箇所には集めておいたら小山になってたってコト。
岩巨人というだけあって、岩石が巨大な人の形状──筋骨隆々の男性っぽいかな?──をしているワケだけど⋯⋯
通常個体でも体格は3メートルを下らないし、肉体を形成している物質もただの石ころなんかじゃない。
まぁ肉体の形成物質については、岩巨人がどんな地域で誕生したかにもよるらしいけどね。
とにかく、岩巨人という魔物は一般的な認識では硬くてデカくて強力な相手とされいる感じなのよ。
そんな魔物も、この冒険者ヒメノ・ハヅキ様の相手には束になってもなれないのだ。
実はそれが、私がこの世界で「お嬢様」と呼ばれる所以の1つだね。
強い魔物が相手のクエストなら、その分だけお給料も多く貰えるってワケよ。へへっ。
最初はねー、必要最低限の生活が出来れば別にいいかなって思ってたんだけどねー。
やっぱ⋯⋯私みたいな転生者っていうのは文明人だからね。
“必要最低限”を求めていったら、いつの間にか「お嬢様」になっちゃってたわ。
「──ハヅキ。早いわね、流石」
おろっ? フローラさんがもう来た。
こっちから合流しようと思ってたのに⋯⋯早いのはフローラさんの方だよ。
レイピアでの攻撃って突き技か細い刀身で叩くくらいしかないでしょうに、よく硬い岩巨人を倒せたね。
「レイピアで戦うの、大変じゃなかったの?」
「いいえ? 全身に突きを浴びせれば粉々に出来たわ」
「ほえ〜さっすがフローラさん。“緋剣”の異名はダテじゃないねぇ、このこのぉ」
「や、やめてちょうだいよ⋯⋯。あまり得意じゃないわ、その呼ばれ方」
もお〜このコったら、満更でもない顔して。
照れて顔を隠すだなんて可愛いトコもあるんだからホント。
まぁ実際、“緋剣”みたいな異名は実力を認められてこそ付けられる感じだからねぇ。
異名持ちの冒険者自体かなり少ないようだし、それだけフローラさんはすごいんだから。もっと自信をお持ち!
「──で、どうしよっか。一旦ギルドに報告しに帰る? それとも、このまま私の前世に遊び行く?」
「そうねぇ⋯⋯。運動したわけだし、ちょっと涼みたいわね」
「おっけー。それじゃ、遊びに行っちゃおう!」
さてさて、それじゃあゲートを開いてっと⋯⋯。
フローラさんを連れて、ぁレッツラゴー! の、その前に。ちょっとだけ“寄り道”が必要だね。
いつもならゲートをくぐったらそこが異世界なワケだけど、今回は少しだけ違う。
私が使うゲートっていうのは、世界と世界の狭間にある空間を無かったように瞬時に移動できるものだ。
けれど、それには大きな問題がある。
理由は単純で、異なる文明、異なる人種、異なる世界の者がいきなり現れたら皆んなが驚いちゃうから。
鎧を着て剣なんか持ったままその辺をほっつき歩いてたら、お巡りさんに声掛けられちゃうよ。
私自身は別にいいけどね。普段の格好からして前世と大して変わらないから。
しかし、例えば今みたいにフローラさんなんかを連れていくとなると事情がかなり変わってくる。
だから私は、ゲートを通り道とする世界と世界と狭間に「空間」を創造した。⋯⋯創り直したっていうのが正しいかな?
まぁつまりは、異なる世界へ赴くにあたって身支度する場所を用意しているってワケだ。
普段は入る必要が無いから、今回みたいに私が用意しないと出現しないレア空間だね。
「──さてと、それじゃあ」
「ええ、着替えてくるわね」
私とフローラさんが入ったのは、真っ白な正六面体の部屋。
私はここを「葉月空間」と呼んでいるけど⋯⋯。まぁ別に教えなくてもいいよね、恥ずかしいし。
とにかく、この「葉月空間」にはさっき言ったような異世界へ遊びに行くにあたって身支度をする為のアレコレがある。
まぁといっても、右の壁に寄せてあるハンガーラックに掛かった衣類が数十種類くらいしかないんだけど。
他には、部屋中央に置いた小さな円卓に観光ブックやファッション雑誌とか適当な情報誌とかを用意しているくらいかな?
あと一応、テーブルの前に小さなソファも設置してあるね。
これでも客人を招き入れる為の空間だから、ソファは良いのを買っておいたんだ〜。
これに関しては「ハヅキ」の方の私の財力だね。逆に衣服とかは「葉月」の方の私が頑張った感じかな。
⋯⋯あの数の衣服を揃えるのに、一月分のバイト代が吹き飛んじゃったんだよね⋯⋯。
まぁこの「葉月空間」はまだまだ育成途中だからね。利便性向上が今後の課題かなぁ。
「──ハヅキ、こんな感じでどうかしら?」
おっ、フローラさんが着替え終わったようだね。
さてさて、どれどれ。白のシャツと黒のキャミワンピにベージュのコートね。
無難なチョイスに見えるけど、なにせ着ているのがフローラさんだからなぁ。うっとりしゃちゃいそう。
ちょっと物足りない気がするのは、小物が無いからかな?
ネックレスとかイヤリングもそうだし、バッグとか腕時計なんかもファッションの内だからねぇ。
今度から「ハヅキ」の方のマネーパワーでそこらへんも揃えれるだけ揃えとこうかしら。
「んじゃ、行こっか。先に私の用事を済ませてからでもいい?」
「ええ、勿論よ。⋯⋯ところで貴女は着替えないの?」
「うーん、あんまりファッションとか興味ないからさ」
「そう? 折角の美人が勿体ないわよ? 若いんだから楽しみなさい」
お、おだまり⋯⋯! 私だってね、前世に帰る時は気分にもよるけど多少はオシャレしてるつもりだわ!
だけど、フローラさんっていう超絶美人が横を歩いてる中で下手に頑張ると痛々しくなっちゃうの!!
ならいっその事、頑張らない方がいいの!! 悲しくなっちゃうから!!!
「まぁ、それはまた今度ね。行きましょ行きましょ!」
「んもー、分かった分かった。行っちゃおー」
私が手を正面にかざすと、その先の壁に扉が出現する。
あれの向こうが私の前世となる世界に繋がっているワケだ。
いざ、異世界の友人を連れて前世へレッツゴー!!
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