12.寿司屋の蛇口の使い方
ハローエブリワン、マイネームイズハヅキ・ヒメノ。
アイアムベリーキュートアンドスーパーリッチガール。
トゥデイイズフレンズトオスシヤサンニキテルデゴザンス。
ってなわけで、今日は友達と回転寿司に来ているよ。
さっきまでホームセンターで、異世界の我が家に置く冷蔵庫を色々探してたんだけど⋯⋯
まぁまぁ、今日はあくまでSI・TA・MIっ。いくつかの目星は付けておいたけど、本番はまた今度にするよ。
後々になって、ホームセンターより家電量販店に行った方がもっと豊富に選べるって気が付いたのもあるし。
クエストもバイトも無い日に、じっくり見て回るとしよう。
さてさて、まぁその話はそこら辺に置いとくとして──
「番号24番でお待ちのお客様ー、7番テーブルへどうぞー」
「おっ、きたきた。行くよ〜」
スクッと立ち上がり、後ろの2人を手招きする。
落ち着かない様子のフローラさんとフィーナの背をグイグイ押しながら、店員さんの案内に着いて行く。
ふふ、「回転寿司」って言葉からはこの光景の想像が付かなかったみたいだね〜。
「ハヅキ⋯⋯お寿司が⋯⋯回っているわよ⋯⋯」
「これが回転寿司⋯⋯!!」
うひゃーっひゃっひゃっ。その反応その反応。
ワタクシ、お二人のそのようなお顔が見たかったんですの。
次々と流れていくお皿に乗ったお寿司、それを見開いた目で追う2人っ。いやあ、連れて来た甲斐があった。
まだまだこっちの世界は未知で沢山なんだから、慣れた気になってもらっちゃあ困るってもんよ!
「ちょ、ちょっと奥の方に座ってもいい⋯⋯? 間近で見てみたい⋯⋯」
「わ、私も先に座っていいかしら」
「いいよう いいよう。じっくり見物したまえっ」
右奥にフィーナ、左奥にフローラさん、その隣に私の並びで着席。
流れるお寿司だけじゃなくて、注文の為のタッチパネルとか食べ終わったお皿を片付ける投入口にも興味津々みたい。
パネルで注文すると商品が新幹線に乗ってくるのだ! って言いたいとこだけど⋯⋯驚かせたいから今はガマン。
ん? ああ、それはワサビっていう辛い薬味で、そっちのはガリっていう甘酸っぱい食べ物の容器だよ〜。
うん? どっちも無料だよ? ⋯⋯あ〜、まぁ全部食べても罰則みたいなのは無いけど、少し下品というか卑しいかも。
そもそも、どっちもいっぱい食べるようなものでもないよ。まぁ好みにもよるけどね〜。
「──あ、そうだ。ちょっとお手洗い行ってくる。異世界に忘れ物しちゃってさ、一瞬だけ取りに戻るわ。
先に食べてていいよ。食べ終わったお皿はそこの隙間に落としちゃってね」
「えっ、ちょっと、私達を残して戻るの⋯⋯? 正直、貴女が居ないとかなり心細いのだけれど⋯⋯」
「大丈夫 大丈夫、本当に一瞬だから。ポイントカードがさ、そういえばこのお店使えたなって。
三人で食べたら結構ポイント貰えそうだし、折角なら貯めておきたいからね〜。すぐに取って戻るよ」
不安げなフローラさんを安心させ、足早にトイレへ向かう。
ポイントカード、初めから前世用のお財布に入れておくべきだったなぁ。
かさばるのが嫌だからって、キャッシュカードと現金以外をお財布に入れないのは流石にあれか。
まぁね〜、クレカはがっつりとした個人情報が必要で作れないし、交通系電子マネーも私にとっては必要は無い。
なんてったって、自分の能力を使えば世界中どこへでも行けるからね。持ってるだけ無意味だよ。
そんな感じでお財布にはほぼ現金しか入れてないのに、ポイントカードだけ入れておくのもなんかダサいよね〜。
⋯⋯なんて今までは思ってたけどね、やっぱり貰えるもんはポイントだろうが貰っておきたいや。
まぁこっちでの私は一般庶民だからねぇ、節約は大事だよ。
そんなこんなでトイレにイン、異世界の我が家へ一時帰宅。
ガサゴソガサゴソ。⋯⋯あれ、どこやったっけ。寝室の引き出し? う〜ん無い、ほなここと違うかぁ。
もしや、異世界用のお財布に間違えて入れちゃってるとかかな? ⋯⋯ありゃ、これも違う。
いやあ、見当たらない。もしかすると、上着のポケットの中とか?? も〜、一瞬で戻るとか言っちゃったのに⋯⋯。
んあ、あったあった。ボトムスの尻ポケットに入ってたわ。
よし、さっさと戻ろう。もう二人で食べ始めてる頃かな?
今日は予算ホクホクだからね。むふふ、カニとか大トロとか豪勢にいっちゃおうかな〜。
ああ、お腹空いた。早く席に戻って注文を──
「⋯⋯ぅぁぁぎゃぁぁああーー!!」
えっ!? フィーナの悲鳴!?
もーちょっと、なになになに!? 何があったの!!
「お客様ァ!!」
「大丈夫、大丈夫ですから! 少し操作を誤っただけで⋯⋯」
「あづぁぁ⋯⋯!!」
席に戻ると、そこには奇妙な混乱が広がっていた。
フィーナを心配する男店員さん、彼を宥めるフローラさん、そして赤くなった右手をお冷に突っ込むフィーナ──。
うん、どういうこと? さっきの「お客様ァ」には、“なにしてんねん”みたいなニュアンスを感じたけど⋯⋯
ええい、騒ぎのせいで周囲の視線が集まっちゃってるなぁ。
こうなったら仕方ない。あんましこういう手は用いたくないけど⋯⋯えいっ、認識改変! 『何も無かった』!
「──さてと、」
「え? あら⋯⋯?」
何事もなく立ち去る店員さんに、キョトン顔を浮かべるフローラさん。
そういえば、この能力を見せるのは初めての筈だったかな?
元から持っていた転移ゲートの召喚能力とは別に、この魔法は異世界に転生したあとに開発したんよ〜。
便利っちゃあ便利だけど、私個人としては優秀すぎてもはや邪道の領域だからあまり好きじゃないんだよね。
まぁ今回みたいなケースは、対応が面倒だから特別だけど♡
「──それで、なにがどうしてああなったんよう?」
「え、ええ⋯⋯。それがね? そこのそれで手を洗おうとしたら、出てきたのが熱湯らしくて⋯⋯」
「うう、熱かった。痛いよう⋯⋯」
手を洗おうとしたら熱湯⋯⋯??
えっ、もしかして⋯⋯ブフッw それって⋯⋯ww
コホン。いや、これは私が悪い。前もってちゃんと説明しておくべきだったわ。⋯⋯ふはっw
あー、ん"ん"っ! あの、ほんとにゴメンね? ものすごい熱かったよね、笑ってごめん。
そりゃそうだよね? そういう用途に使うものに見えちゃうよね?
私は自分の屋敷に前世と同じ仕組みの洗面台とか流し台とかを魔法で工夫して作ってあるからね。
ウチによく遊びに来るフィーナは蛇口という道具を理解しているわけだし、似たような形状の物なら勘違いしちゃうよね。
ましてや飲食店、それも素手で食べる場合もあるお寿司となると、手を洗う用途だと推測するのも自然だわ。
「⋯⋯ふ、ぶふっw」
「ねぇ、本当に熱かったんだからね? まだヒリヒリするし」
「ごーめんって、こっちに手出して。ほらほら、回復魔法っ」
フィーナの右手を包み、目立たないよう魔法を使う。
自身の手を涙目で見つめる彼女がとても愛らしくて、思わず笑みが零れた。




