プロローグ そして異世界へ。
1人、また1人と・・・いや10人、また100人と人間が倒れていく。遥か彼方へと飛んでいく。
突然閃光がきらめき雷が奔ったかと思うと、炎の柱が空高く突き上がり嵐が吹き荒れ真空の刃が飛び交うここは、まさに戦場だった。
・・・あくまで見た目は、だが。
実質この戦いは、戦いなどとは到底言えない一方的な『蹂躙』だった。
たった一人の少年がこの焦土と化した不毛地帯の中心に君臨し、全方位から迫り来る、最早軍勢と言っても差し支え無いほどの数の人間を何度も何度も薙ぎ払う。
この場所で発生している超常現象も全て彼によって引き起こされていた。
「先頭、構えろ!!」
リーダーらしき人間が声を張り上げた。
瞬間、少年を囲んでいた集団の最も前にいた者達が一斉に大型銃を構えた。
頭上を飛んでいる数機のヘリからもガシャガシャと音がする。
無線でヘリの操縦者にも伝えていたらしい。
「撃て!!!!!!」
少年に、おびただしい数の銃弾、ミサイルが殺到する。
だが彼自身は、どう考えてもこの場にふさわしくない、余裕ともとれる表情でそれらを一瞥すると、叫んだ。
「つまんねぇ・・・。この、ドロッドロな世界が! 嘘で満ちたこの世界が! 何もかもが、つまんねぇんだよ!!」
言って、両手を広げた。
すると、まるで見えない壁に突き刺さったかのように、少年から2~3m離れた所で全ての弾丸が停止した。
全てが止まる。
少年も、そして今まさに彼を殺さんとしていた人間も微動だにしない、いや、少年以外は身体を動かすという至極簡単なことさえも出来ない中、空中に静止していた弾丸がゆっくりと、音をたてて地面に落ちた。
「お前らみたいな、欲にまみれた人間がたまらなく鬱陶しい。どうしたらそこまで汚くなれるんだよ? もうどうせ何をしてもお前らは変われない、全てが無駄・・・だから俺はこの世界を・・・ぶち壊す」
少年のこの思いは、全ての日本人の心を代弁したものだったといっても過言ではない。
日本は、堕ちた。そして、これからもどこまでも。
少年も日本という怪物に両親を奪われている。
もうどうしようもない、救えない。
ならばいっそ。一度、全てを壊してしまおう。
だから少年は独りで日本に宣戦布告し、今、軍と向かい合っている。
「ふ、ふん。たた、たった一人で、我らが日本に、か、勝てると、ほ、本気でおおお思っているのかッ!?」
先のリーダーらしき人物だが、最後の方は声が半分裏返っていた。
この戦いが始まるまでは、一人の人間を殺すことなどすぐに終わると日本の上層部は思っていた。
だが現状、日本の全戦力である自衛隊全軍を総出動させるまでに追い込まれている。
この、桜を3つあしらった軍の制服をまとった、エリートである『陸将』も直々に戦場へ赴いているわけだが、流石に恐怖を隠せない。
「簡単だよ、お前らを殺すことくらいな。だが、俺はお前らとは違う。無闇に人間を殺したりはしない。たとえそれが、芯から腐りきったこの日本の飼い犬が相手でもだ」
「な、何を格好つけている! 貴様が一人でどうあがこうが、何も変わらん! 貴様が死に、それで終わりだ!」
そしてもう一度一斉射撃指令を出す。
「何度やっても無駄だということにも気付かない・・・終わるのはお前らだ、馬鹿」
再び、銃やミサイル、果てはロケットランチャーまで火を噴いたが、少年が少し手を振っただけで超高圧電流が迸り、彼に爆風も当たらない程の距離で全て爆発した。
煙が立ち込め、あまりに衝撃が大きすぎたためか、震度2弱程ではあるが地面が揺れる。
その煙が、不自然に発生した風に全て払われると、その中から無傷の少年が姿を現した。
「なんなんだ貴様は!? なぜ、なぜ無傷なんだ!!! そこまで馬鹿げた能力があってたまるか!!!」
「うるさい。『化物』、なんて言ってくれるなよ? 俺からしたらお前らのほうがよっぽど『化物』だ」
「貴様のような危険因子を放って置くわけにはいかん!!」
陸将はそう言い、またもや攻撃準備を始める。
「無視かよ。ってか、いい加減に、しろ!!」
少年は右手の平を上に向けたまま前に出し、一気に力を放出した。
一際大きな音が鳴り、電撃が一瞬だけ空に昇り、すぐ消える。
少年が、自身の電撃で天然の雷を無理やり引っ張り、すぐさま天空から特大の雷が彼の頭上に落ちてきた。
亜光速の雷でも少年はかわそうと思えばかわせるわけだが、それをせずにしっかりと受ける。
そして自分自身を中継し、周囲の地面に電流を流した。
その間は僅か1秒に届くかどうか。
たったそれだけの間に数万人いた軍の人間は一人残らず無力化された。
・・・終わってみれば、随分あっけなかった、と少年は溜息をついた。
「この戦いは、おそらく日本どころか全世界に中継されてたんだろうな・・・」
だとしたら、こんな桁外れな力を持つ俺に帰る場所はない、と呟き、思う。
ここまで大規模なことをしても、軍は一時的に無力になっただけであり、壊滅した訳ではない。
ようするに、日本それ自体は無傷。
・・・もし、全滅させられたなら。
この国は戦力を全て失い、人々に無理強いは出来なくなるのだろう。
それでも、少年には『皆殺し』を選択することが出来なかった。
「本当に俺は、甘いなぁ・・・結局、人の命も奪うことができなくて全てを壊すなんて、土台、無理な話だった、か」
ここまでやって何も変われないのなら、もう諦めるしかない。
俺の戦いは、終わりだ。
きっかけは作れたと思う。
だから次はこの国の皆が力を合わせて、救ってくれ。
「悪いな、どこかで見ている日本の皆。俺は一足先にこの国を捨てる。無責任なのは分かってるけど・・・後は、頼むよ」
そう言うと、少年は少しずつ力を解放していく。
空間が悲鳴を上げ始めた。
・・・『異世界』へと、少年は逃避する。
そして彼の姿は、消え失せた。
*****
「・・・? どうかした、フィーネ?」
一人の少女がフィーネに問いかけた。
茶色の髪と瞳を持つその少女は、短めの白いワンピースを着ていて、もう少しで呼び方が女性へと変わるかというくらい大人びた雰囲気を持っている。
「うーん・・・なんでもないよ、リィ。いつものことでしょ、気にしないで」
「でもさあ、いい加減教えてくれてもよくないかな~? たまにそうやって挙動不審な行動する理由!」
リィと呼ばれた少女は、見た目は大人でも本質的には全くの子供だった。
だがそれは長年の付き合いであるフィーネはとうに知っている。
ちなみに『リィ』とうのはフィーネだけが使う愛称で、他の人達は『リィラ』と呼ぶ。
「だぁからなんでもないって! ほら、ちゃっちゃと歩く、歩く!」
二人は今、Aランク、高難易度のクエストを受け、その目的地へと続く整備もされていない小さな道を歩いていた。
二人にとってはそう危険なクエストではないため、大した重装備はしていない。
「普通に歩いてるじゃんか~。そんな、歩いてたら急に『バッ!!!』てあらぬ方向を見たりするフィーネには言われたくないよ~」
「それだって一ヶ月に一回あるかどうかってくらいでしょ!? 毎日とかじゃないわよ! 人を『ちょっと危ない電波感じてる人』みたいに言うな!!」
そしてフィーネは身体から火花を放ち始めた。
それは彼女が怒りを表現しているからだが、ただのギャグだ。
こちらはリィラとは反対にボーイッシュな格好で、膝下ほどのジーンズに黒いTシャツを着ているが、その火花によって服に火がつくことは無く、ましてや炎が彼女を傷つけることなどありえない。
眼は少し紅くなっている。
「んもーすぐ怒らないの。でも、実際そうでしょ? 何か感じてることには変わりないんだから」
「いや、そうなんだけどさ・・・」
「それに私にも何も話してくれないし、こっちこそ怒りたい気分だよっ!」
「うー・・・」
「隠し事はよくない!」
フィーネには、何度も背中を預け合い助け合った、もはや親友さえ超えるほどの友人がいる。
それこそ陳腐な言い方だが『心友』という関係があるのならまさにそれだというくらいの仲だった。
その友人がリィラな訳だが、そのリィラにさえ話すことが出来ないでいた。
そう、誰にも話したことがない。
彼女が、
『世界の大きな変化や違和感を感じ取れる』
ということを。
物心ついたときにはすでにフィーネはこの不思議な能力を自らの一部として認識していた。
流石に小さい頃は何を感じているのかまでは分からなかったが、何十年も共に過ごしていたら色々なことが分かってくる。
まだ、『世界の大きな変化や違和感を感じ取れる』ということが本質なのかどうかは知るよしもないが、今のところは彼女自身それが一番しっくりきているため、自分でそう定義した。
だが、こんなこと他人に話したところで『危ないコ』とみなされてしまうのは目に見えているため、リィラにも同じ理由で話すことを躊躇っていた。
もうすでに『たまに脈絡もなく何かを感じる危ないコ』と思われていることにも薄々気付いてはいたが。
「・・・まあ、話したくないならいいけどね~? でも今更フィーネがどんな事情持ってたって友達やめたりしないよ?」
「・・・うん、ありがとね、リィ」
こういった気遣いは少し申し訳ない気もするが、ありがたかった。
やっぱりリィは良いやつだ、とフィーネは勝手に結論づける。
それにしても。と、同時に思う。
『今日のは、大きかったな・・・多分、今までで一番はっきりしてた。それに大きな反応は、だいたい大きな戦争とかが起きて世界に大きな変化をもたらすような時にしか無いのに、今回のは「変化」じゃなくて「違和感」だった・・・。こんなに大きな反応さえ初めてなのに、それが「違和感」だなんて、どういうことなんだろ・・・』
違和感は感じ取れてもその真意までは見抜けない自分自身に歯噛みしながら、長い息をはいた。
「ま、分からないもんをいつまで考えてても意味、ないよね!」
「ん~? どうした~フィーネ? またかあ?」
少しふざけ気味ではあるが、その顔を見ればフィーネを心配しているということがうかがえる。
「ううん、なんでもない。ってか、またかとはなんだまたかとは! そんなしょっちゅうじゃないでしょうが!!」
そしてまた二人はいつものように任務へ出かける。
生きていく為に仕方なくしていることではあるが、そんな毎日は二人にとって確かに充実していた。
*****
気づくと少年は森の中にいた。
星が、月が、その明かりが、僅かに見え隠れするだけの深い色合いの空間に呆然と立っている。
比較的風は凪いでいたが、時折ほんの僅かに木々が揺れる。
そんな小さな音さえも、少年には鮮明に聞こえていた。
辺りは暗く、静か。
まるで世界そのものが彼を拒絶しているかのように。
・・・だがそれもある意味では間違っていないのかもしれない。
少年はそっと目を開いた。
彼は暗闇の中においても、恐怖やその類の感情は微塵も感じていない。
恐怖というものが基本的に『死』に対するものだというのなら、彼がそんなものを感じることはないだろう。
いきなり深い森の中にいたということに、少し驚いたように目をしばたかせた後、短く息を吐き、呟いた。
「ここが、異世界か。多分間違ってはいないと思うけど・・・」
そして少年はゆっくりと歩きだす。
ただ漠然と、未だ見ぬ世界へと向かって。
*****
えっと、文才なくてすいませんw
批評受付ます。
評判がよかったら続けようと思いますw
感想、超待ってます!(批評含む)