放課後の記録
高校三年の秋。受験勉強のため、藤井は毎日遅くまで教室に残っていた。
夕暮れを過ぎると校舎はがらんと静まり返り、廊下の蛍光灯が不安定に点滅する。その無人の空間が妙に落ち着き、藤井は勉強に集中できた。
ある夜、十時を回った頃だった。プリントを片付けようと机の中を探ると、奥に古いノートが一冊入っていた。ページの端は黄ばんでおり、日付は二十年前のものらしい。
最初は落書きのような走り書きばかりだったが、読み進めると内容が不気味に変わっていった。
――「また聞こえる。机の下で誰かが泣いている」
――「消灯後の廊下を、同じ足音が行ったり来たりしている」
――「気づけばクラスの半分が、黒い顔で座っている」
藤井は背筋を凍らせ、ノートを閉じた。だが翌晩も気になって、また続きを読んでしまう。
最後の数ページには、日ごとに名前が記されていた。
最初はクラスメイトのものらしいフルネームが、ひとつずつ。
そして「もう半分になった」と書かれた後、最後のページにこう書かれていた。
――「残るは一人。次はお前だ」
その瞬間、教室の後ろでガタリと音がした。振り返ると、最後尾の席に誰かが座っている。
見慣れぬ制服姿の男子生徒。顔は黒く塗りつぶされたように判別できない。
藤井は慌ててノートを閉じ、鞄に突っ込んだ。振り返ると席は空になっていた。
翌日、職員室で何気なく「この教室に昔誰か忘れ物をしたんですか」と尋ねてみた。
教師の一人が怪訝そうな顔をした。
「……まだ、あのノート残ってたのか」
教師によれば、二十年前、この学校ではある男子生徒が行方不明になっていた。自分の教室から忽然と姿を消し、今も見つかっていないという。
机の中には彼のノートだけが残されており、噂ではそこに「名を書かれた者が順に消えていく」と言われていたらしい。
その夜も藤井は勉強を続けた。だが集中できず、気がつくとまたノートを開いていた。
最終ページの下に、新しい文字が一行だけ増えていた。
――「藤井」
慌てて閉じたが、耳元で確かに囁き声がした。
「次は……お前だ」
机の下をのぞくと、真っ暗な闇の中で、誰かが膝を抱えてこちらを見上げていた。
翌朝、藤井は登校しなかった。
机の中を確認した教師は、そこに一冊のノートを見つけた。最後のページにはこう記されていた。
――「残るは、まだ一人」




