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留守番電話

会社員の高瀬は、祖母の死をきっかけに実家を整理していた。

 祖母は地方の古い一軒家に一人で暮らしていたが、九十を過ぎても気丈で、死ぬ前日まで普通に電話で話していたという。だが、その翌日、布団の中で静かに息を引き取っていた。


 家の片付けを進めていると、古い固定電話機が出てきた。留守番電話機能付きのもので、テープ式のタイプだ。液晶の小さな赤いランプが点滅していた。――まだメッセージが残っている。

 興味半分で再生ボタンを押した。


 最初の数件は、近所の人や親戚からの伝言。

 だが、最後の一件だけ、奇妙だった。

 ザザッ……というノイズの後、低い声が聞こえた。

「……タス……ケテ……」

 老人とも子どもともつかぬ声。くぐもり、苦しげで、しかも異様に近い距離で録音されている。思わず鳥肌が立った。

 父に確認すると、祖母が亡くなった夜、家には誰も来ていないという。


 それでも気味が悪くて、高瀬はテープを外し、処分しようとした。だが翌朝、電話機のランプがまた点滅していた。新しいメッセージが入っている。

 再生すると、昨日と同じ声が響いた。

「……オマエ……ダレダ……」

 誰かが悪質なイタズラをしているのかと思い、外線番号を確認した。だが液晶には「内部録音」と表示されていた。外部からの着信ではなく、電話機自体が勝手に録音しているということだった。


 数日後、親戚の集まりでこの話をすると、叔母が顔を青ざめさせた。

「……あの家、昔から“声”が聞こえるって噂があったのよ」

 さらに聞けば、祖母はよく「夜中に廊下で電話のベルが鳴る」と言っていたらしい。実際には鳴っていないのに、確かに受話器を取る仕草をすることもあったという。

 だが高瀬は幽霊話など信じなかった。

 むしろ確かめずにはいられず、その夜、わざと電話機を録音状態にして眠った。


 午前二時を過ぎた頃、目を覚ますと、留守電の赤ランプが点滅していた。再生すると、またあの声が聞こえる。

「……アケロ……アケロ……」

 同時に玄関の方から、誰かがドアノブを回すような音がした。慌てて見に行ったが、外には誰もいない。だが床に、裸足の小さな足跡が濡れたように残されていた。


 怖くなった高瀬は実家を早々に引き払い、都会に戻った。

 電話機も処分したはずだった。

 だが数日後、自分のスマホに留守番電話の通知が入っていた。

 心当たりのない非通知番号からの留守電。恐る恐る再生すると、ザザッ……というノイズの後に、あの声がした。

「……マタ、イナイ……マダ、サガス……」

 高瀬はすぐにスマホを投げ捨てた。だが、どの端末に変えても、数日後には必ず同じ声の通知が入るようになった。


 それから数か月が経った。

 今ではもう抵抗もせず、留守電が入っているたびに再生してしまう。

 ただ一つだけ、気づいたことがある。

 声は毎回、少しずつ近づいているのだ。最初はくぐもっていたのに、今ではすぐ耳元で囁かれているようにクリアに聞こえる。

 今朝の留守電は、たった一言だった。


「……ツギハ、オマエ」

 高瀬は再生を止め、ただ震えながら耳を塞いだ。

 ――しかし、耳元でまだ誰かが囁いている。


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