山中の旧トンネル
それは数年前、友人の体験として聞いた話だ。
夏の夜、友人の田村とその仲間三人は、車で肝試しに行くことになった。
目的地は山奥にある「旧〇〇トンネル」。
戦時中に掘られたまま放置され、事故死者が多いことで有名な心霊スポットだった。
トンネルはすでに通行止めになっていたが、徒歩なら入れる。
入口はコンクリートが崩れ、蔦に覆われていて、懐中電灯を照らさなければ闇の口に吸い込まれてしまいそうだった。
「マジで入るのかよ」
一人が怯むと、田村が笑った。
「ビビるなって。どうせただの噂だ」
四人は足を踏み入れた。
中はひんやりと湿っていて、コンクリートの壁には黒い染みが広がっていた。
天井からは水滴が落ち、足音が響くたびに反響して異様に大きく聞こえる。
「長いな……」
「もう半分くらい来たか?」
時計を見れば、五分以上歩いているのに出口の明かりが見えない。
まるで空間そのものが伸びているようだった。
そのとき、誰かが小声で言った。
「今、後ろで足音しなかったか?」
四人は同時に振り返る。
だが懐中電灯に照らされた後方には、何もいない。
それなのに確かに、遅れて「ペタ……ペタ……」と濡れた足音が続いていた。
緊張が走ったまま進むと、やっと遠くに出口らしき光が見えた。
安堵した瞬間だった。
壁の横穴から、顔が覗いていた。
青白く、目だけがぎょろりと光っている。
田村が思わず声を上げると、その顔はすっと壁に引っ込んだ。
「見たか今の!」
「やばい、出よう、急げ!」
全員が走り出した。
出口が近づくにつれ、後ろから「ペタ、ペタ」と足音が速くなる。
まるで追いかけられているかのように。
ようやく外へ飛び出したとき、四人は息を切らしながら振り返った。
だがトンネルの闇は静まり返っており、誰の姿もなかった。
「……マジで何だったんだよ」
額の汗を拭いながら田村が笑おうとしたとき、仲間の一人が不意に言った。
「五人で走ってなかったか?」
「は? 俺たち四人だろ」
「いや……確かに横で誰か走ってた。懐中電灯も持ってなかったけど」
笑い飛ばそうとしたが、誰も何も言えなかった。
それから数日後、田村のもとに集合写真が送られてきた。
心霊スポットへ行く前にコンビニで撮ったものだ。
そこには、確かに五人写っていた。
見知らぬ男が一人、端に立っている。
顔はぼやけ、笑っているように見えた。
気味が悪くなり、写真を削除しようとした。
だが不思議なことに、田村のスマホからはその一枚だけが消せなかった。
さらに奇妙なのは、その後だ。
グループで集まるとき、ふとした瞬間に「五人分」の靴が玄関に揃っているのだという。
だが誰のものか、最後までわからない。
田村は今も、あの夜一緒にトンネルを走った「五人目」の顔を思い出そうとする。
だがどうしても、はっきりとは思い出せないのだそうだ。
ただ――
夢の中でトンネルを走ると、すぐ横に「そいつ」が並走しているのだけは、毎回わかるのだという。




