消えた通学路
これは、俺が数年前に地方で聞いた話だ。
小さな山間の町で、地元では今も語り継がれている“通学路の怪異”について。
2000年代の初め頃、その町の中学校に通う女子生徒が行方不明になった。
夏休み前の夕暮れ、部活を終えて友人たちと別れ、いつも通りの通学路を一人で帰った。
家までは徒歩15分。だが、彼女は二度と帰らなかった。
警察や消防団が山や川沿いを探したが、リュックも靴も、何ひとつ見つからない。
事件性が疑われたものの、不審者の目撃もなく、結局「失踪」として処理された。
友人たちは「坂を下って行った」と証言した。
だが、同じ日の夜、別の生徒が奇妙なことを言い出した。
「彼女を見たんです。坂を……上っていってました」
本来なら学校に戻る方向だ。しかも、家に帰る時間をとっくに過ぎていた。
その生徒はさらにこう続けた。
「振り向いて笑ってました。でも、口は動いていなかったんです」
その通学路には古くから妙な噂がある。
夕暮れ時に一人で通ると、普段は一本道のはずが、知らない分かれ道が現れるという。
「入ったら二度と戻れない」――そう語られてきた。
昔も同じ場所で、子どもが何人か失踪していた記録が残っている。
そのうちの一件では、最後に目撃されたのもやはり“坂を上る姿”だったらしい。
数年後、その通学路に防犯カメラが設置された。
そして深夜二時過ぎ、不可解な映像が残った。
制服姿の少女が坂を下りてきて、カメラのすぐ前で立ち止まった。
暗くて顔ははっきり映らない。だが、確かに“笑って”いるように見えた。
次の瞬間、少女はふっと霧のようにかき消えた。
その映像はすぐ削除され、町の人間の間でも噂としてしか残っていない。
俺がその町を訪れたとき、地元の老人がこう言った。
「あの通学路は、今も夜は誰も通らん。……見えるんだよ、まだ。坂を上る子の後ろ姿が」
そう言って老人は目を伏せたが、しばらくしてぽつりと付け加えた。
「――いや、最近は“坂を下りてくる”ようになったらしい」
その言葉の意味を理解した瞬間、ぞっとした。
もし“坂を上る子”がまだ迷っているのだとしたら……
今、下ってきているのは 別の“誰か” なのかもしれない。
そして、通学路の映像を見た人は決まってこう言うのだ。
「カメラに映ったあの子、確かに笑ってた。でも……あれ、制服なんかじゃなかった」




