写真立て
就職で一人暮らしを始めてしばらくした頃、母から小包が届いた。中には調味料や日用品と一緒に、家族写真が入った小さな写真立てがあった。「部屋が寂しいだろうから置いておきなさい」ってメモが添えてある。
写真は俺が高校生の頃に撮ったもので、両親と弟と俺が並んで写っている。見慣れた写真だ。けれどその夜、机に置いたまま眠っていると、ふと視線を感じて目が覚めた。暗がりの中で、写真の弟の顔がこちらをじっと見ている気がした。
気味が悪くなって、翌日には写真を机から棚の上へ移した。だがそれからというもの、どうしても気になる。仕事から帰ると、写真立ての角度が微妙に変わっていたり、弟の顔だけが少しぼやけて見えたりする。
ある晩、思い切って実家に電話をしてみた。母に「あの写真、覚えてる?」と聞くと、母は少し黙ってからこう言った。「……あの写真、弟は写ってないはずよ」
心臓が跳ねた。慌てて手元の写真を見直す。確かに弟が俺の隣に立って、笑っている。でも母の声は真剣だった。
「あなたの高校の卒業式の日、あの子はもう亡くなっていたでしょう?」
俺はその場で写真立てをひっくり返した。けれど次の日、帰宅すると、また机の上に置かれていた。今度は弟の顔が少し大きくなって、笑みを深めていた。
怖くなって写真を破り捨て、燃やして、灰まで処分した。もう二度と出てこないと思った。
――でも今、部屋の壁に飾ってある“会社の集合写真”をふと見ると。
端っこに、見覚えのある顔が写っている。あの時と同じ笑みで。俺のすぐ隣に。




