階段
小学生の頃、通学路に古い団地があった。今は誰も住んでおらず取り壊し予定だと聞いていたが、近道になるからとよく敷地を通り抜けていた。
団地の中央には外階段がある。ある日、友達と遊んで帰るとき、その階段に妙なことに気づいた。最上段に、女の人が立っているのだ。ただ、動かずにこちらを見下ろしているだけ。顔は暗くて見えなかった。
友達も気づいていたが、なぜか誰も口にしなかった。通り過ぎようとした瞬間、その女が少しずつ階段を下りてきた。足音はしないのに、コンクリートの踊り場に靴の先だけが浮かんで見えた。
慌てて走って逃げたが、翌日もまた同じ場所にいた。女は毎日、少しずつ下りてきていた。最初は最上段、次は一段下、また次の日はさらに一段。俺たちは「階段の女」と呼び、なるべく目を合わせないようにしていた。
一週間ほど経ったころ、とうとう女は地面に降り立った。その日は友達と一緒じゃなく、一人で通り抜けてしまった。すれ違うとき、女は顔を上げた。長い髪の隙間からのぞいたのは、土でぐしゃぐしゃに汚れた、ただの白骨の顔だった。
恐怖で声も出せず走って帰った。それから一度も団地には近づかなかった。数か月後、団地は取り壊されて更地になった。
……なのに、だ。今でも夜道を歩いていると、ときどき足音がもう一つついてくる。振り向くと誰もいない。でも、決まって道端には古びたコンクリートの階段だけが置かれている。
そして、その最上段には、あの女が――また立っている。




