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11.反撃

「……首輪……ではないようだが……いや、何だ、この感覚は……?」


「……首輪……?」


 何のことだらけの初音は使えないとでも思ったのか、ジークはぶつぶつと状況を整理しているようだった。


「……少し立てるか?」


「大丈夫」


 そう言って地面に降ろされるや否や、ガシリとその肩を抱かれて引き寄せられる。初音は色々な意味で、ギョッとして固まった。引き締まったその身体の存在感が、否応なしに初音の体温を上昇させる。


「……意味は全くわからないが、何でか使い方だけはわかるな……」


「ジ、ジーク?」


 先ほどから様子のおかしいジークが心配になってきて、初音はそっとその横顔を見上げる。


「……調子に乗ったなハイエナども。欲をかくからこうなるんだ」


 そう言うなりジークがニヤリとその端正な顔を歪めると、右腕を振り上げる。


 驚くべきは、その細い指先に燃えるような真紅の焔が集約して渦を巻いていたことだった。


「まさか獣人である俺が魔法を使えるようになるとはな……っ」


「え……?」


 呆ける初音を置いて、ジークが何かに耐えるように顔を歪めつつもその腕をハイエナへと向ければ、焔が四散して銃のごとく勢いでハイエナに襲いかかる。


 キャンキャンクーンと弱々しい声で逃げ回り、怯えたように小さくなるハイエナたちを初音は呆然と見つめた。


「……あいつらは馬鹿じゃない。この惨状をあのハイエナどもから聞けば、しばらくは手を出して来ないだろう」


 ふんと一つ鼻を鳴らし、ジークはそう言って岩山をひと睨みする。


「初音、移動するから掴まれ」


「あ、うん、ありがとう」


 事態が飲み込めないままに初音は再びその腕に抱かれ、ジークは風のように走り去る。


 そんな2人の姿を、岩山の中腹から眺め下ろしていた影が3つ。


「ちょっとあれ何なわけ、反則じゃない?」


「どう見ても魔法でしたよねぇ」


「マジパねぇ! マジカッケェ!! マジ羨まぁっ!!!」


 ごんと言う音と共に黙らされたマジマジ男ハイエナを無視して、女ハイエナと少しバツが悪そうに小さくなっている男ハイエナはその姿が見えなくなるまで追い続ける。


「よくわかんないけど、原因はあの人間の女かしらーー」


「どうなんですかねぇ。聞いたこともないですけどぉ……」


 頭を抱えて悶絶するマジ男ハイエナを無視して続けられる会話。ふぅんと突き出した唇を歪めて女ハイエナはニヤリと笑う。


「いぃもの見ちゃったわぁ」


 不穏に笑う邪悪なオーラに、男ハイエナどもは青い顔をしてガタガタと震えながら身を寄せ合った。






「お兄! お姉!」


「わっ」


 元の岩山からある程度離れた森の高い一本の木からガサガサと飛び降りたアイラは、突進する勢いでジークごと初音に抱きついた。


「お姉無茶だよっ! 命がいくつあっても足りないよ! 良かったよぉっ!!」


「心配かけてごめんね。心配してくれて、ありがとう」


 えへへと抱きついてくるアイラの柔らかい身体を抱きしめ返して、初音は幸せに包まれる。


「お姉ケガない? お兄は?」


「俺はついでか」


「そんな訳ないでしょっ! もうっ!」


 ぷりぷりと頬を膨らますアイラにふっと微笑むジークの姿を見て、危ない橋も渡ったけれど、2人に怪我がなくて本当に良かったと心から思う。


「でも、どうしよう。ハイエナたちしつこいから絶対諦めてないよね……。また移動する? あっ、て言うか、やっぱりお姉を送ってあげた方が、お姉にとってはいいのかな……っ」


 青くなったり落ち込んだりと忙しいアイラの表情に合わせて、黒くて丸い耳と尻尾が忙しく動く。


 そんな様を無言で眺めた初音はジークをチラリと横目で見る。ダークグレーの前髪を掻き上げたジークは、ハァとため息をついて口を開いた。


「ハイエナは……多分しばらくは大丈夫だ。こいつ……初音を送り届けるのも、少し保留になった」


「えっ!? どうしてっ!? 何かあったのっ!? って言うかお兄、お姉のこと名前で呼んでるのっ!? えっ! 何があったのっ!? 何なに何っ!? 教えて教えてっ!!」


「……す、少し落ちつけ……っ」


「えっ!? だってお兄だよっ!? うそーっ!! えっ!? アイラ嬉しいっ!!」


「いや、待て、何を考えてる。早まるな……っ……」


 ジークの静止も聞かずに、両手で頬を包んでいやーんと小躍りするアイラは、目をキラキラと煌かせて夢見心地のようだった。


 そんなアイラの圧に競り負けて、ジークは言葉を継げずに中途半端に停止する。


 そんな2人の様子に、初音は堪えていた笑いを堪えられずに吹き出して、吹き出してしまえば後は堪えられずにお腹を抱えて笑う。


 そんな初音に釣られて笑うアイラと、バツの悪そうなジークは大きなため息をついて、行くぞとぶっきらぼうに声をかけて歩き出した。






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