それから1 初音とジーク ⭐︎
「初音、とりあえずここに座れ」
「え?」
おもむろに、真剣な顔で2人の自室のベッドをジークに指し示されて、初音はその空気に薄笑いを浮かべた。
「前々から思っていた。この際だから、しっかりと言っておく」
「は、はい……」
ふぅとお馴染みのシワを眉間に寄せて、ジークはその金の瞳でベッドに腰掛ける初音を腕を組んで見下ろした。
「初音は比較的普段はおとなしいのに、要所要所で無茶をし過ぎる上に、相手を無駄に信用し過ぎる!! ハイエナに追われた時は洞窟の水流に飛び込むは、挙句の果てにカバの群れに飛び込むなんて正気の沙汰じゃない!! アレックスが奇跡的に多少丸くなって、ライラックがフィオナ以外に関心がなかったからいいものの……っ!!」
「え、今更?」
あまりの事後感に思わずと目を瞬く初音に、ジークは頭痛のする頭に手をやった。
「頼むからこれ以上無茶をしないでくれ。心臓がいくつあっても足りない」
「ジーク……」
そう言って、ぎゅうと抱きしめられた初音は、ジークの頭を抱えて笑う。
「お風呂でも入って、しばらくゆっくりできるといいねぇ」
「いや、無理だろう」
「あ、やっぱり?」
まだまだと落ち着かない上に忙しない日々を予感して、2人ははぁと息を吐く。
生活レベルやその他諸々色々と充実している一方、いつまでも落ち着く気配を見せない日々には出会った頃の気ままさが懐かしい。
ベッドに座る初音を挟むように両腕をつくと、ジークは鼻先が触れる距離で甘えるようにその頬をすり付けて、少し角度をつけて初音の唇に自身のそれを押し付けた。
そんな甘い口付けを受け入れて、初音はぐいとジークの服を引っ張ってベッドへと一緒に転がる。
深く合わせた唇に、頬に添えられる手のひらに、熱の上がる息遣いに、幸せが静かに満たされていった。
両脇に腕をついて初音に覆い被さっているジークを見上げて、初音はその襟元を緩めるとその首筋へ唇を寄せる。
「……っ!」
ピクリとその表情を動かすジークに、少しのイタズラ心が芽生えながら、初音はその指先をジークの服の隙間からその肌に這わせる。
その手を、パシリと囚われた。
「誘ったな」
そう言ってその綺麗な顔をふっと歪めるジークを見上げて、初音は笑う。
「くっついて、離れられなくなればいいのにね」
そう言って、唇を重ねれば、ジークが何やら神妙そうな顔をして初音を見返している。
「くっついてひとつになるのは、困るな。初音にはずっと、触れていたいから」
「……ものの例えって、わかってるでしょう?」
「ものの例えでも、困る」
「ジークはいつからそんなに甘くなっちゃったの。最初は「別に……」が口ぐせだったのに、最近はすっかりと聞かないし」
出会った当初を思い出して、思わずと頬を緩める。ツンツンしているジークもジークで、可愛くはあったのだけれど。
「…………そんな口ぐせあったか?」
「あった! ぜったいあった!!」
はてと小首を傾げるジークに、初音はどこかムキになって騒ぐ。
「……最近は、譲れないものが増えすぎたんだろう」
そう言って首元に這わされる舌の感触と、もぞりと衣服の下に滑り込んでくるその指先に、初音は思わずと小さく呻く。
「愛してる」
そうそっと囁かれて、初音は思わずとその顔を見上げた。
文句があるかみたいな綺麗な顔で、耳まで真っ赤になって、少し生意気そうにこちらを見下ろしているその金の瞳。
「私も、愛してる」
そう溢して、飽きるほど重ねた唇を、また飽きもせずに2人は重ねたーー。




