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奴隷商から逃げ出した動物好きなお人よしは、クロヒョウ獣人に溺愛されて、動物知識と魔法契約でその異世界を生きる。  作者: 月にひにけに
第三章 終わりの始まり

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82.新たなはじまり【本編完結】

「蘇芳くん!!」


「……また、あなたですか」


 その暗く黒い、何もない空間で、ただ小さくなって膝を抱えていた蘇芳はピクリとその身体を震わせた。


「ほんとに、しつこいって言うか、どうやってこんなところまで来たんです? 俺だって、ここがどうなってるのか、わからないのに」


 自嘲するように笑う蘇芳に、初音は一歩たりとて、引く気はなかった。


 たとえ、その向けられる視線に、言いようのない憎悪が練り込まれていることに、気づいていたとしても。


「……なんで、ほっておいてくれないんですか。もう、俺1人いなくたって、別に困らないでしょう? あんなことをしたんだ。もう、いいんです」


 すべてを諦めたように、はぁとため息を吐いて再び自身の膝に顔を埋める蘇芳に、初音は近づく。


「私たちは、誰も傷つかなかったよ。蘇芳くんが、そうしてくれたんじゃないの?」


「……何もかもぶっ壊したかったのは本当ですよ」


 言いようのないぶつけどころが欲しかった。振り上げた拳を振り降ろす場所が、笑えるほど簡単になくなった。


「……帰ろう? 蘇芳くん」


 そっと、かけた初音の声と指先を、蘇芳は勢いよく払い上げる。


「あんたはいつもそうだ。虫唾が走るんだよ!!」


「…………」


「いつだって優しくて、大人で、悟ったように……っ!!」


 なりたかったよ。俺だって、なれるものなら。あんたみたいに、優しくて、かっこよくて、みんなの中心で頼られて、信頼される人に、なりたかった。


 なりたかった。なりたいに決まってる。なりたかった。なりたかった。なりたかった。なりたかった、のにーー。


「なれるよ」


 あれ、声に出していたっけと思いながら、蘇芳はギリと初音を睨む。


「そんな訳……っ」


「なれるよ。だって、全部壊したくなるくらいつらくて、苦しくて、壊れそうなのに、それでも、人に優しくできる蘇芳くんのこと、心配してる人が、こんなにいっぱいいるんだよ」


「は……っ」


「ほら、聞いて。私には、ずっと聞こえてたよ」


 ライラの風に乗る、皆の声。


 みんなの声、に混じる、アイラの必死な声。


『スオー!! スオーっ!! スオ……っげほっ! ぅっ、このっ、大馬鹿スオーっ!!!!』


「……っ……そんなの、みんな、命が惜しいだけで……っ」


 はじめて、その瞳にわずかな動揺と光が見て取れる。


「わかるよ。顔、出しにくいよね。でも、蘇芳くんが1番わかってるのも、わかってるよ。蘇芳くんは、そう言うのが、人の気持ちがちゃんとわかる、優しい子だって、みんなわかってる。わかってるから、みんな蘇芳くんにこれ以上苦しくなって欲しくないし、後悔して欲しくないし、遠くに行って欲しくないから、こんなに声が枯れそうなほど、蘇芳くんの名前を叫んでるんだよ」


「……そん……な、わけ……っ!」


「みんな、蘇芳くんと、一緒にいたいんだよ」


『大馬鹿スオーっ!! アイラの大事なもの、大事な人たちをこれ以上傷つけたら、アイラぜったいに許さない!! ぜったいっ、ぜったいに!! 許さないんだから!!』


「……っ!!」


『アイラのスオーをこれ以上傷つけたら、スオーでもぜったいに許さないんだから!!』


「…………は……?」


 その、涙が滲むような必死な声に、蘇芳はその瞳を静かに見開いた。


『だから、早く帰ってこんかーいっっ!!! 大馬鹿スオー!!!!』


 ぼろり。と、その光の灯った瞳から溢れた大粒の涙に、初音はどこかでそっと、胸を撫で下ろす。


「…………ごめ……なさ……っ」


「すごくすごく、つらかったよね……っ」


 ぎゅうと抱きしめた初音に縋るように、蘇芳は嗚咽を漏らしていつまでも泣き続けたーー。






 どこへともなく消えて、蘇芳を連れてどこからともなく再び現れた初音のその姿に、周りは飛びついた。


 ジークにぎゅうぎゅうと抱きしめられた初音は、アイラにぎゅうぎゅうと叱られて、なぜかアレックスと理恵に小突かれている蘇芳の姿にその瞳を緩める。


 そんな初音の視線に気づいたらしい蘇芳は、照れ臭そうにその瞳を伏せて唇を尖らせ、されるがままになっていた。


 その大半が衝撃波によって壊滅したに近い人間の領分に対し、その被害をほぼ出さずに終わった元奴隷の国の大勝。


 未曾有の大惨事はその事柄を人間と獣人の共栄の始まりの日として、歴史に刻むこととなるーー。






 甚大な被害を被った人間の残された王族と貴族は、怯えたように手と手を取り合って、差し出された初音の手をただ無言で見遣るしか出来なかった。


「街や国の再建に、私たち獣人や動物も協力をします。ですから、少しずつで構いません。人間と、獣人と、動物が共生できる未来を、その意識変革を、少しずつでいいので、手伝って下さい」


 そう言って、獣人を引き連れて訪れた元奴隷の国。現【はじまりの国】の代表と名乗る初音は、人の良い笑みをその顔に浮かべた。


「種族も、人種も、見た目も、上も下もありません。ただ1人の個体同士として、尊重し合うことができたらと、考えています」


「はぁ……」


 そんな気の抜けた返事しかできない王族と貴族の様子を見るや、初音はニコリとおもむろに続ける。


「ーーと、神が言ってます」


「か、神……?」


 身をすり寄せながらも、はぁ? とその目を丸くする王族と貴族たちをはじめとした人間に、初音はニコリと笑う。


「神です」


 言うが否や、突然とその姿を初音の横に現したその白く神々しい姿に、人間たちはひれ伏した。


「食料問題は、理恵さんとこの神様が何とかして頂けるそうです」


「り、理恵……? は、はぁ……?」


 全く話にはついていけないながら、話にはついていってますよと必死な人間たちに、初音は苦笑する。


 野菜類については、成長速度や栄養価を高めた野菜や穀物類を理恵がその力で改良、増殖させてくれており、当面困りそうなこともない。


 一方の肉類については、神がその責任を持って代替え案を作成するとその首を初音が縦に振らせた。


 食物連鎖の生態系と言う意味で、これが正しいとは思えない上に、そのうちどこかに歪みが生まれることも考えられたけれど、獣人と言う特殊な存在がいる世界で、その線引きはどこまでも容易でない。


 それこそ、ではこれでと。決められるような問題でも、決してないと、わかっている。


 それでも、元奴隷の国が、《《そう》》であったのだから、それが決して不可能でないことを、初音は感じ取っていた。


 今はそれが特殊でも、それが普通になって、浸透していく。そんな未来を、夢見て。


「あ、申し遅れました。私、異世界人で、獣人の夫がおります、神様のこと付け代理人の、初音と申します。どうぞ、今後とも長らくよろしくお願いいたします」


 そう言って、身なりの良い服に身を包んだ初音は、その傍らに佇む神を小突いて、ほら、一言。と囁く。


「……あー、えっと、私が望むことは、一つだけです。えーと、皆んな仲良く」


 そんなどっかの作戦名みたいな気の利かない一言を溢す神に初音はため息を吐くと、気を取り直してその顔に笑顔を再び貼り付ける。


「ほら、神様の言うことはぜったいですし、神様は仲良くできないなら《《気まぐれに》》天変地異を起こしてもいいと思っているみたいなんです。私たちもそれは困りますので、どうか皆んなで協力していきましょう」


 ジークとライラック、そして赤い瞳の白ミミズクをその背後に従えて、ニコリと人の良い笑みを浮かべる初音。


 そんな初音に、どことなく尻に引かれている雰囲気の神と名乗る者を引き連れたその変な集団に、王族と貴族は何とも言えぬ顔で見るしかない。


「みんなで悩んで考えて、少しでも良い未来になるように、まずは互いを偏見なく知るところから、はじめてみませんか?」







【本編完結】






ここまでお付き合い下さり誠にありがとうございます!!


もしよろしければ一言でもご意見、ご感想など頂けたら死ぬほど喜びます!!




皆んなのその後。ですが、

完結日時の都合により、1週間ほど時間が開いての更新となります。。。

もう少しお付き合い頂けたら更に嬉しいです。。


ここまで読んで下さり、本当にありがとうございました!! 感謝平伏!!m(_ _)m




ここまで読んで下さりありがとうございました!

ブクマ、評価、ご感想などもし頂けましたらとっても嬉しいです!!

皆のその後も、宜しければお付き合い頂げすと幸いです。

ありがとうございました!!

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