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奴隷商から逃げ出した動物好きなお人よしは、クロヒョウ獣人に溺愛されて、動物知識と魔法契約でその異世界を生きる。  作者: 月にひにけに
第三章 終わりの始まり

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80.契約の解除

「羨ましくて作った? うまくいかなくていやになった? お願いを聞いてあげたのに、争いばかりで面倒になった? 挙句の果てに、どうにもならなければリセットすれば良い? あなた、私たちを何だと思ってるのよ!!」


「え? え? え?」


 ありがとうございます、頑張りました。なんて和やかな会話を適当に予想していた神は、初音の突然の豹変具合にその目を瞬かせる。


「あなたは神じゃない。神様ごっこをしてる子どもよ!! その場の感情で欲しくなって、よくも調べずにさっさと飼い出して、いざ困難が訪れればこんなはずじゃなかったって大して調べもせず、人や環境のせいにして、打開策も解決も世話もしないで放置して、興味を失ってその存在すらも忘れ去る!!」


 まるで子どもがショッピングセンターの動物を、その場の勢いで欲しいとでも言うように。


「それで、いざ死んだら言うのよ、悲しいって!!! そうやって泣けば、許されるとでも思ってる!!」


「や、あの……っ」


「ふざけんな!! 私たちは、必死で生きてるんだよ!! その檻の中で、あなたの世界の中で、今だって必死に生きてる!! 今私がここにいられるのは、皆んなが皆んな、必死に生きたその中で、皆んなが持ち得た優しさが連なったその先が、今《《ここ》》なの!!」


 理恵が幼いジークを助けて、ジークをアイラたちの家族が助けて、その優しさに包まれたジークとアイラが初音を助けた。


 奴隷の身で長く辛い時を過ごし、奴隷に再び囚われるなんて考えたくもないであろう皆が、それでも自身を含めた他の人のために必死に動く。


 そんな小さな優しさと勇気が、少しずつ少しずつ、重なって連なって、そのどれが欠けても、きっと辿りつけなかったこの場所。


 それを、神とのたまう目の前の存在は何一つとしてわかっていないことが、初音は腹立たしかった。


「はじめたのは誰!? あなたでしょ!? つべこべと言い訳する前に、やれることを全部やって!! 今その目の前にある命が、無為に散ることがないように!!」


 この神が、あともう少しでもこの世界のことを真剣に考えてさえいれば。互いの関係性を調べて、環境を調べて、少しでも最良となるようにその心を砕いていれば。


 イタズラに苦しむことになった人たちがどれだけ減ったことか、そんな戻らない過去だけが口惜しい。


「最後の1人になるまで、その命が尽きるまで見届けて!! それが、《《はじめた人の責任だ》》!!」


 はぁはぁと肩を上下させる初音に、神は返す言葉も失ってその顔を見る。


「わかったら、私を蘇芳くんの所に連れて行きなさい!!!!」


「……は、はい……っ」


 神は小さく、返事をした。





「初音! 初音!! 初音!!」


「……ジーク……?」


「は……、よかった……っ!!」


 そう言って、ぎゅうと抱きしめられるその慣れた体温が幸せで、初音はその温もりに頬を寄せる。


 吹き抜けるような大空をジークの腕の中で見上げて、初音はぼっとする頭を叱咤する。


「私、寝てた……?」


「……少し、全く反応しなかったから、心配した……っ」


「……皆んなは、怪我は……っ!?」


 はっとしてその身体を起こせば、ジークが当たり前のようにそっと支えてくれる。


「大丈夫だ。アレックスやライラックと3人がかりで防壁を作っていたのもあったが、そもそも俺たちを避けでもするように、獣人や獣たちは全員無事だ」


 周囲は瓦礫の山と化していて、初音たちが無事であることが信じられないほど、周囲からは人間のものと思われるうめき声が聞こえてくる。


「あの人が守ったのか、蘇芳くんが避けたのか……」


「初音……?」


 ボソリと独り言のように呟く初音を心配そうに覗き見る金の瞳に、初音はその表情を和らげる。


 一息吐いて、初音は頬を擦り付けてくるネロをその肩に留めてその場を立ち上がると、フィオナを腕に抱いたままのライラックに近寄る。


「急なことなのに、手を貸して下さりありがとうございました。もう少し、お力を貸してもらうことはできますか?」


「無論だ。私の力が必要であるなら、好きに使うといい」


「ありがとう」


 そう言って、初音はにこりと笑うとその足を別に向けて、止めた。


「なんだ初音、起きたのか」


 瓦礫の山の一角で、女ライオンたちとその毛づくろいに勤しんでいたアレックスがその顔を上げる。


「アレックスさんたちは、大丈夫でしたか?」


「あぁ、奇跡的に、怪我人はいねぇな」


「良かったです。それで……」


 言葉を切った初音を、アレックスは無言で見上げる。


「力を貸して下さり、本当にありがとうございました。蘇芳くんを、連れ戻しに行って来ます。アレックスさん、私と、契約を解除して下さい」


「………………」


 そう言った初音を、アレックスは無言で見上げ、一息吐いて立ち上がると初音を見下ろした。


 そして、ふっとその口端を緩めると口を開く。


「この力、あれば王に相応しい力で、正直言えば惜しいことこの上ない。が、まぁ、あんな規格外のクソガキがいちゃぁこの程度の力、どうしようもねぇな」


 そう言って、初音の差し出した手をぎゅっと握ったアレックスに呼応するように、初音とアレックスの右手の甲に現れた契約印が霧散して消えた。


「……アレックスさん、本当に、ありがとうございました……っ!!」


 そう言って、その頭を深々と下げる初音に、アレックスは笑う。


「あのクソガキ、さっさと首根っこ捕まえて連れ戻して来な」


 ニッと笑ったアレックスに、初音は心からの笑顔を向けたーー。






「良かった。ここは無事だったぞ」


「なんて運がいいんだ」


 ガラガラと、衝撃波によって崩れた城壁をどかしながらも大したダメージがないことが奇跡のようで、アスラをはじめとした元奴隷の国の住人たちはぼんやりと周囲を見回す。


 攻めて来ていた人間たちの集団は衝撃波の直撃を受けたのか、もうこちらに攻め入るどころの騒ぎでもなさそうな現状であることをアスラは遠目に確かめる。


 そんな惨状を、壁上の高みから一周と見回したアスラは、はっとその顔色を変えて走り出した。


「アスラ様……っ!?」


 まだ落ち着かない事態の中、ヘレナはその見慣れた背を追ったーー。

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