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奴隷商から逃げ出した動物好きなお人よしは、クロヒョウ獣人に溺愛されて、動物知識と魔法契約でその異世界を生きる。  作者: 月にひにけに
第三章 終わりの始まり

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70.はじまり

「……もう少し、周りを頼って下さい」


 むぅと、今度はむくれたような珍しい顔を見せるヘレナに、アスラは元より気配を消して2人を見守っていた自警団の面々の目が点になった。


「あと、謝って欲しい訳じゃありません」


「…………」


 ぷんと頬を膨らませてそっぽを向くヘレナに、アスラは視線を泳がせて言葉を失う。


「あー、えっと……っ」


 その視線で、周囲へと助けを求めるアスラに、無言でいけいけと何かをジェスチャーする面々を見て、アスラは再び視線を戻す。


「……心配……してくれて、ありがとう……」


 そう溢したアスラに、そうじゃねぇだろぉと顔を覆い、頭を抱える面々。


 え? と言う顔をするアスラを横目に見て、ヘレナはふっと口元を緩める。


「わかったなら、いいんです」


 そう言って微笑んだ美しい赤い瞳をしばし見上げて、アスラはそっとその頬にかかる白銀の長い髪を指先でよける。


「……傷、残らなくてよかったな」


 アレックス襲撃時につけられてしまった頬の傷が、見るたびに腹立たしかった。


「……ヘレナくらいいい女はそういないから、傷があっても問題にはならないだろうけど、ヘレナが傷つくのは見たくなかったから、良かった」


 ふっと無害そうに笑うアスラに、ヘレナを含めたその場の全員の目が点になる。


「……ヘレナ?」


 しばし時が止まったように静止した周囲に困惑したアスラが声を掛ければ、ヘレナはスッとその身を引いてくるりと身を翻す。


「わかったなら、いいんです……っ!」


 そう捨て台詞を吐いて、バタンと部屋を出て行ったヘレナにアスラは困惑する。


「……あ、やっぱ髪触ったらダメだったか!?」


 今更ながらにギョッとして青くなるアスラに、その耳まで真っ赤にしたヘレナを見ていた面々は、深く深くため息を吐いてやれやれと肩をすくめた。






「あの、来て頂いたばかりで、蘇芳くんのことや、貴重な知識も色々と教えて下さって、本当にありがとうございます。理恵さんが来てくれて、本当にすごく心強いんです」


 時折、理恵の元で薬草や治療の技術を教えてもらっていた初音は、深々とその頭を下げた。


「それは私の方ですよ。お恥ずかしながら、私は全てに見ないフリをして、今日までずっと逃げ回っていた臆病者なんです。初音さんみたいに、この力を使って行動しようなんてこれっぽちも考えられませんでした。それなのに、今更現れた不審者を快く迎えてくれたこと、心から感謝しているんです」


 そう言って顔を歪めると、ぺこりと頭を下げる理恵に、初音の背後の椅子で黙ってその話を聞いていたジークは、おもむろに立ち上がると初音に並んでその口を開く。


「……昔、黒いヒョウ……猫を、助けませんでしたか?」


「はい?」


 急に問われた内容に、理恵はその目を丸くしてジークを見る。


「黒い……ヒョウ……猫? あ、あぁ、確かに以前、この世界に来たばかりの頃……って、え?」


「……お礼が大変遅くなって申し訳ありませんでした。あの時助けられたのが、子どもだった俺です」


「え?」


 理解が追いつかないと見える理恵に目線を合わせたジークが、深々とその頭を下げるのを、理恵は呆然と見下ろす。


「あなたに助けられたから、今があるんです。本当に、ありがとうございました」


「え、え、えっ!?」


「……幼いジークを理恵さんが助けてくれたから、私はきっと、ジークに助けてもらえました。理恵さんが、きっとジークの中の【人間像】に幅を持たせて、和らげてくれたんだと思うんです」


 アレックスと接して、人間に対する根本的な敵意の底深さに気づいた。


 アイラを助けたことや、ジーク本来の人柄はあったとしても、出会った当初の、ジークとの違いを初音は感じ取る。


「人間にも、色々いるんだな、って。だから、そんなに自分に厳しくしないでください。理恵さんは、私たち2人の恩人で、この国にいる全ての人の始まりだと思うんです」


「………………っ」


 呆けたように固まっていた理恵は、しばしの後にその顔をぐしゃりと歪めて瞳を潤ませる。


「なんか子どもが急にできたみたいです……っ!!!」


「「え?」」


 ブワワと顔から出るものを全部出して初音とジークに抱きつく理恵は、声をあげて泣いた。


 急に知らない異世界に連れて来られて、なぜか奴隷商からは執拗に狙われて、偶然と自分の力を早くから知ったから、人里から逃れて獣や獣人に怯えつつも1人生き延びることができていた。


 10年間ずっと孤独で、生きる意味を考えて、それでも命を手放すこともできなくて、生きる希望も何もなかった時、初音の噂を知った。


 10年もの歳月を逃げ隠れしかしていなかった自分に比べて、初音の偉業はあまりにも信じがたいもので。


 それでも、それでもーー。


「私、生きてて、よかった……っ」


 うわーんと、年甲斐もなく声を上げて泣く理恵に抱きつかれたまま、初音とジークはそっとその背中へと手を回す。


 大きくなってぇ!!!!! なんて大号泣しながら崩れる理恵に、初音とジークは顔を見合わせて笑みをこぼしたーー。



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