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奴隷商から逃げ出した動物好きなお人よしは、クロヒョウ獣人に溺愛されて、動物知識と魔法契約でその異世界を生きる。  作者: 月にひにけに
第三章 終わりの始まり

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68.クロヒョウ ⭐︎

「だから、あの、多分、そんな感じで、何が1番大切かを思い出して、目が覚めたんだと、思うん、だけど……っ!! ……っ!」


 初音が我が身に起こったことと、ネロ伝いに聞いた顛末を総合してまとめた初音は、ふぇと滲ませた涙をザラついた大きな舌先で舐め取られて更に泣いた。


ーーやはりアイツ燃やすか……っ!


「いや、もう関心が薄れたなら関わりたくもないし、ジークにも関わって欲しくないと言うか……っ!!」


 がぁと牙を剥く金の瞳のクロヒョウにまとわりつかれながら、初音はうぅっと顔を歪ませる。


「ジーク……っ!」


ーーもうすぐ終わる……。


「そう言って、さっきから全然終わんないんですけど……っ!」


 初音といるために、普段からよほどがなければ人型を崩さないジークが、今はクロヒョウの姿でベッドに横になる初音の上にのしかかっていた。


 母猫が子猫の毛繕いでもするように、そのザラリと大きな舌で初音の体表を執拗に舐め取っていく。


「ちょっ、ジークっ!」


ーー耳でも尻尾でも、好きにしていていい。


「いや、もふもふはこれ以上ないほど嬉しいですよ!? 嬉しいんですけどね!?」


 少し硬い、よく見れば模様の浮かぶ美しい黒い毛並みに埋もれながら、初音は赤い顔で打ち震える。


 とは言え、身体に対して少し太めの長い尻尾はその手にしっかりと握られていた。


「い、いつまで……っ」


ーーアイツの気配が消え去るまで。


「お風呂も入って散々舐められてるのにっ!?」


 もう無理と逃げ出そうとした初音は、爪を隠した太い獣の腕に子猫でも引き寄せるように捕らえられて連れ戻された。


「な、なんでクロヒョウの姿なの……っ」


ーー今日は疲れただろうから、初音に間違って手を出したくない。


「え、それで!?」


 時折りよくわからないタイミングでふにと身体に置かれる肉球に、ん? と思えば特に何もなくスッと引かれる意味がわかり、初音は顔を赤くする。


ーーあと、人型サイズの舌だと明日までかかりそうだ。


「そ、それは困るねっ!!」


 色々な意味でね!! と、ギョッとした顔でびくりと身体を震わせる初音に、クロヒョウ姿のジークが笑ったのがわかった。


 すりと顔に擦り付けられるクロヒョウの頭と息遣いに、そのまま食べられそうな錯覚からどきどきする。


ーーそろそろ、寝るか。


 ようやくと気が済んだらしいジークが、ペロリと初音の頬を舐め上げた。


「……人型には戻らないの?」


ーー今日はゆっくり休め。


「………………」


ーーどうした。


「…………こんな状態で寝られる訳ないでしょ……っ!」


ーー…………ぬ……。 


 赤い顔でもうっ! と叫ぶ初音に、ジークが目を丸くしているのがわかる。


 火照りきった初音の身体は、細胞の一つまでジークを求めているように切なく疼いていて、このまま寝るなんてそれこそ生き地獄だった。


 顔を真っ赤にして唇を噛む初音を見下ろしたジークは、少しの間を置いて人型へと変化する。


 薄明かりに照らされた端正な顔と、優しい金の瞳が美しい。


「……寝かせない自信しかないんだが……」


「そ、そこは少し加減を……っ!?」


 眉根を寄せて見下ろしてくるジークにギョッとしつつも、熱の籠った瞳で伺うように見上げる初音にジークが瞳を細める。


「……たぶん、加減……できない。今だって、傷つけないようにばかりで、どうにかなりそうだ……っ」


 合わせた唇の先で、ジークがぎゅうと眉根を寄せた。


「……加減……しなくていいから、もっとずっとそばにいて……っ」


 ジークの首に腕を回してその首元に唇を寄せると、優しく背中を支えられる。


 真っ赤な顔で眉をひそめるジークに、そんな感情を抱かせてしまったことが申し訳ないと共に、初音の身体がその嬉しさからひどくジークを求めていた。


「お願い、ジーク」


 ジークの首に腕を掛けたまま、見つめ合ってそっと唇を舐めて、重ねる。


「……は、ねだるのがうまくて困る……っ」


 がぶりと唇を噛まれて、ベッドへと沈められる。


 ジークの熱い息と舌が首元をくすぐって、その手に触れられた場所から痺れていく。


「……優しくしたいのに、できそうにない……っ」


 ガリと首元に走る痛みが、痛いけど嬉しくて、どきどきした。


「優しくしないで……っ」


 何でもいいから、ジークの存在を感じたくて、求めて欲しくてしかたない。


「初音……っ」


 耳元で掠れるように呼ばれる名前の幸福感に、初音は瞳を滲ませたーー。






「お姉、大丈夫!? すっごい心配したんだよ!?」


「ジークがすぐに助けに来てくれたから。アイラちゃんこそ、怪我はなかった?」


 昼も過ぎた頃、理恵の元へ顔を見せた初音とジークの姿を見るなり、その胸に飛び込んでくるアイラの頭と背中を初音は撫でさする。


「アイラも、スオーが助けてくれたから……っ、でも、スオー、全然起きなくて……っ、ずっとうなされてて……っ」


 うるるとその大きな金の瞳を潤ませて、ずっと堪えていた涙がボロボロとその頬を伝い落ちていく。


「彼が寝てるのは薬草が効いているからなので安心して下さい。ただ、見てわかる通り彼の容態はよくない。……彼の他にも奴隷の印を押された者がいるとは聞いているので、処置に使える薬草と道具を集めてはいますが、簡単ではない処置になると思います」


「……どうにかはできそうなんですか……?」


「……そうですね、正直、私が来るまで対処しなくて良かったと思います」


 そう言って、理恵は部屋に置かれた多種多様の植物が植えられた大量の鉢植えに視線を向ける。


 初音が動物に対する力を持つように、理恵は植物に対する力を持っていると、来て早々に実演をしてくれていた。


 生前より植物に興味があり、植物の囁きが聞こえ、その力で植物の成長を促進したり、時に植物たちを駆使して身を守り、隠れ生きていたと理恵は話した。


「……焼印は肌を深く傷つけるんです。その紋様が魔力を封じる効力を発すると言うのなら、刺青などで上書きする訳にもいかない。つまりは、焼印の箇所をより深くまで傷つけるほか、現状打つ手が思いつきません」


「それは……」


「……相当の苦痛を味わうことになると思います。生半可な対応で、結局意味がなかったとする訳にもいきません。とは言え、焼印の処置をどうしたいかは、きちんと説明をして本人に選択をしてもらうのがいいように、私は思います」


 未だ瞳を閉じる蘇芳を見て、初音はその全身に渡る古傷に心を痛めたーー。




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