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奴隷商から逃げ出した動物好きなお人よしは、クロヒョウ獣人に溺愛されて、動物知識と魔法契約でその異世界を生きる。  作者: 月にひにけに
第三章 終わりの始まり

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68/90

67.痕 ⭐︎

「いぃ……っ!!」


 全身擦り傷だらけの初音は少しずつが逆につらいと踏んで、ざぶんと湯船に沈めた身体の激痛に目を見開いて声にならない悲鳴をあげた。


 しばしの間はその痛みに瞳を潤めて身体を震わせているも、だんだんと鈍くなる刺激にようやくと詰めていた息を吐き出せる。


「……代われるなら代わってやるのに……っ」


「ライオンって言うよりは、ハイエナのせいみたいなもんなんだけど……っ」


 やはり燃やしておくべきだったか。なんて物騒な顔をしているジークに、初音はアワアワとその手を振った。


 そんな初音の手を取って、手の平に唇を落とす水に濡れたジークを、今さらにまじまじと見た初音はその色気に当てられる。


「ぁっ、ジークっ!?」


 微かな痛みと共に、手のひらをペロリと舐められる感触に初音の身体がピクリと反応を返す。


「んっ」


 そのまま指先を這って、手首の内から二の腕までをなぞるように舐め上げられて変な気分になってきた。


 ぐいと引かれた腕に、ぱちゃりと響く水音がやけに響く。


「ふ……っ」


 ジークの胸板にぴたりと引っ付くように抱き抱えられて、合わされた唇から声が漏れた。


「ジーク……っ?」


「……もう少し……っ」


 はっと息を吐いて、深く合わさる2人の身体は行為のせいかお湯のせいか、高い体温と赤い頬に正気を失いそうだった。






「こんなものか……」


「あ、ありがとう……っ」


 タオルに包まれたままジークに抱え上げられて、ベッドの上であちこちの擦り傷を手当てされる。


「髪、乾かさないと……」


 ポタリポタリと水滴を落とす、色味が深くなったジークの髪に初音が触れる。


 手当てのために初音の足元に屈んでいたジークの、金の瞳がすっと向けられたことに初音の胸はドキリと鳴った。


「………………」


「……ジーク……?」


 何か言いたげで、でも口にできない様子のジークに、初音はそわりとする。


「ジーク、どうしたの? なんで黙ってるの?」


「………………」


「ジーク?」


 するりと、初音の手当てされたばかりの足にジークの指先が伝い、ひざの内側に唇が寄せられる感覚に初音の顔が赤くなる。


 ギシリとベッドを軋ませて、初音の足の間に自身の膝を割り込ませたジークが唇を重ねながらその上半身をベッドへと押し倒した。


「……おめおめと、攫わせて…………っ」


「……ジークがいたから、みんなも私も無事だったんだよ」


 ぎゅうとその腕に包まれることが、心地いい。


「見て触れるまで、生きた心地がしなかった……っ」


「私も」


 ぎゅうとその首に腕を回す。


「ジークに怪我がなくて本当に良かった……っ」


「……初音」


 ガブリと、首元を甘く強く噛まれる。


「初音」


 胸に触れられる感覚と、首元を中心に隙間なく落とされていく軽微な刺激と甘噛みが、愛しい。


「……ジーク、痕が……っ」


「……つけてる」


「ぁ……っ」


 ガリと首を噛まれて、声が出る。


「ジー……」


「……アイツに、何かされたか」


「……え?」


 突然に降ってくる様子の違う声音に、初音はその金の瞳を見る。


「……無理……には聞かないが、もし、何か、あったならーー……」


「……ジーク……?」


「今直ぐに燃やしてくる」


「ち、えっ!? ま、また襲ってくる感じはなかったって話しじゃなかったっけ!?」


 ネロの指示の元、初音を奪還した後も見張りとして様子を見てもらっていた鳥類の監視経由で、アレックスたちの様子は聞き届いていた。


「だ、大丈夫だよ!! 心配してくれたんだよね!? 何もなかったから、信じーーっ!?」


「……痕が……」


「へっ!?」


「痕が……増えてる」


「はっ!?」


 びくりとその肩を震わせてギョッとする初音は頬を染め、ジークはその金の瞳に物騒な色を加える。


ーーアト、あと、痕!?


 ひっと顔を引き攣らせてジークを見上げる初音は、洞窟でアレックスに押し倒された時を思い出す。


ーーあの俺様っ!! 本当にいらない事しかしないんですけどっ!!


 ひぃと、自ら後ろ暗いことをした訳でもないのに、変な汗をかいて口を引き攣らせる初音をジークは無言で見下ろす。


「えと、あの、し、信じて……もらえないかも知れないけど、ほんとに何もなくて、や、何もないってこともないんだけど、ほんとに、何もなかったから……っ」


「…………」


「ご、ごめん、ジークに、勘違い……して欲しくなくて……っ!」


「勘違いは多分してない」


 うっと瞳を潤ませた初音を、ジークがぎゅうと抱きしめる。


「違う、責めてるとか、そう言うことではなくて、ただ……」


「………………ただ……?」


「はらわたが煮えくり返ってる」


「ぜ、全然大丈夫そうじゃないんですけど……っ!?」


 未だかつてないジークの静かなブチ切れぶりに、初音は顔を引き攣らせた。


「……ベタベタと……初音に触れて、話しかけて、名前まで……っ!!」


「あ、あの、ジークさん……?」


 1人思い出して、ジークは眉間に更に深いしわを刻んでいく。


「……服は?」


「あ、ちょっとだけ引っかかって……」


「それもアイツか……っ!!」


ーーき、気づいてた!!


 初音の必死の誤魔化しは、きっとジークをモヤモヤさせただけに違いない。


「……痕は……?」


「え、えっと、あの、ですね……っ」


 無理には聞かないとか言ってた気がするのに、言わない空気は皆無だった。


「は、話せば長くなりそう、と言うか……っ」


 あうあうと視線を揺らす初音に、ジークはずいと身を乗り出すとその唇を重ねる。


「アイツに、一体何をされた」


「はっ、ち、ちょ、ちょっとひとまず一回落ちついて……っ!?」


 その金の瞳で間近にじっと見つめられ、変な汗をかきながら、初音は追い詰められたベッドの上で顔を引き攣らせる。


「……初音が言いたくないなら、聞かない。俺も聞きたくない……が……っ」


「や、あの……ごめん……っ、本当に、何もなかったんだけど、ジークが嫌な気持ちになるだけな気がすると思って……っ!」


「……初音が……いやでないなら、教えてくれ」


「……ぁ……っ」


 ガリとその喉元を甘噛みされて、初音は悟る。


 これは逃げられないやつだ、と。




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