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奴隷商から逃げ出した動物好きなお人よしは、クロヒョウ獣人に溺愛されて、動物知識と魔法契約でその異世界を生きる。  作者: 月にひにけに
第三章 終わりの始まり

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61.執着

「いや」


 俺様の女になれ。と、それこそ世迷いごとをのたまうアレックスに半ば被せるように初音は拒否する。


「何でだ。お前からは小僧の強い匂いがするから、相手は小僧だろ? クロヒョウを好きになれるのなら、俺様のことも好きになるだろう?」


「どういう思考回路してるの!! そんなわけないでしょ! いい加減にして!!」


 アレックスの言葉はどうしてこうも脈絡がないのか。まるで宇宙人とでも話しているようで、初音は歯噛みした。


「自分が死んでもクロヒョウが好きだって? いいじゃないか。俺様もそんな女が欲しいんだ」


「勝手に探してよ!!」


 目をキラキラさせて初音の顔を覗き込んでくるアレックスに、初音は叫ぶ。


 未だかつてこんなに話の通じない相手と会ったことがあっただろうかと、初音は頭痛がしてきた。


「俺様たちのことを知っているか? ライオンは力が全てだ。プライドのリーダーになれない雄は長く生きられない。プライドを乗っ取り、前の雄の子どもをすべて殺し、残った雌に自分の子どもを産ませる。弱ければ今度は自分が乗っ取られる。そう言うものだ。そう言うものだが……」


 将来脅威になる子どもを殺し、子どもを殺すことで雌の発情期を誘う。生き残るために誰よりも強くあり、強い者につき従うことが生存本能であり、それが群れと、まだ見ぬ自分の子どもを守ることに繋がる。


 たとえ今さっきまでいた前リーダーと、今の我が子を失うことになったとしてもーー。


「寂しいとは思わないか」


 自然界では仕様がないこととは言え、頭の中に流れ込んでくる情報と、初めてその本心が垣間見えたようなアレックスの表情に、初音は思わずと後退った。


「俺様は俺様だけの女が欲しい。たとえ俺様が負けたとしても、力が衰えたとしても、より強い者が現れたとしても、断固として揺るがずにそばにいてくれる、安心を与えてくれる、初音みたいな女が」


「ちょっと、勝手に名前を呼ばないで!! それに、そんなの今のあなたの奥さんたちと愛情を深めればいいだけでしょ!?」


 勝手に呼ばれた名前に鳥肌が立って、初音は思わずと叫ぶ。


「そういう問題じゃない。これは本能の問題で、どうにもできない。だが初音は人間だから違うだろう。それに俺様は、初音を気に入った」


「だから名前を呼ばないでったら!! それに死んでもあり得ないけど、私が今心変わりをしたら、もう私はあなたの求める私ではないでしょう!? あなたが寂しく思う奥さんたちと一緒だって、どうしてわからないの!!」


「……《《たまたま今いる相手がいなくなって》》俺様を好きになれば、初音は俺様のことだけを見てくれるんじゃないか?」


「そんなわけ……っ……ちょっと待って、何を考えてるの!?」


 急激に不穏なことを言い出されたことに顔色を変えた初音に、何故か嬉しそうに頬を染めるアレックスは身を寄せる。


「プライドを乗っ取るときは、群れのリーダーを完膚なきまでに捻り潰す。今回は交渉もあって遠慮したが、不思議なことでもない」


「やめて、ジークに手を出したら絶対に許さないから!!」


「はは、いいな。そんな風に想ってもらえるとは。あんな小僧にはやはりもったいない」


ーーこの人なんでこんなに話が通じないの!?


 思わずとアレックスの襟首を握る青い顔の初音を、いっそ恍惚の表情で見下ろしてくる目の前の男が理解を超えていて恐ろしかった。


 ジークが負けるはずないと思っていながら、どんな手を使ってでもジークを消しそうなアレックスに初音の身体が震える。


「あの小僧を想ってするその表情を、今後は俺様のためだけにしてくれ」


 そう言って頬に触れて顔を近づけてくるアレックスに、初音は目を見開いてーー。


 思わずとその頬を力の限りに叩いてしまった。


「絶対にいや!!!!」


 目を見開いて固まっているアレックスを放置して岩山を降りようと下を覗けば、初音を見上げる女ライオンの獣人たちの視線に初音は唇を噛む。


 踵を返そうとした所で、目前にある大きな身体に初音はビクリとその動きを止めた。


「俺様に手をあげるとは、その気概もますますと気に入った。いいだろう、チャンスをやる。あの洞窟には出口がここを除いて3つある。俺様に捕まらずに出口まで逃げ切れば、俺様からあの小僧に手を出すのはやめてやろう。ただしーー」


 初音の肩に手を掛けて、言葉を切って初音の瞳を覗き込むその瞳が、常軌を逸していることが恐ろしい。


「俺様に捕まったら、その身体の赤い痕をすべて上書きして、俺様のものだとわからせてやる」


「な……何で私がそんな話に乗らないといけないの……っ!!」


 身の危険と嫌悪感からゾッと背筋を震え上がらせた初音は、ドッドッと鳴る心臓の音と緊張から、うまく動かない身体を無意識に自分自身で抱きしめた。


「この状況を分かってないのか? 力の弱いやつは、力の強いやつの言うことを聞くしかないんだ。なんなら、今すぐここで、寝取ってやっても俺様は構わないが?」


「……っ……離して!!」


 元より拘束をするつもりもなかったと見えるアレックスの手を逃れて、初音は洞窟へと一目散に走り出す。


 震えてうまく力の入らない身体を叱咤して、初音はジークの姿を思い出していたーー。




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