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奴隷商から逃げ出した動物好きなお人よしは、クロヒョウ獣人に溺愛されて、動物知識と魔法契約でその異世界を生きる。  作者: 月にひにけに
第二章 キミと生きる

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47.変化

「なぜだ!! なぜあいつらは、互いに協力をしている!? なぜ統制が取れているんだ!!?」


 次々と街へ繰り出していく獣たちは、行手を塞ぐ魔法使いに度々その身を拘束されながら動きを止める。その度に、獣人や時には奴隷の人間がその身を解放し、また逆も起こり得た。


 互いに協力した先で自由を手にまた走り出す。そんな光景が見える範囲だけで幾度も繰り返されている現状に、バイパーは狼狽えた。


「何をした!? あり得ない!! 何でこんなことに……っ!? そんな時間も方法も、あるはずが……っ!!!」


 心底信じられないという顔でジークを見上げるバイパーがそこまで言いかけた所で、背後に現れた気配にジークがその顔を向けて、おもむろに踏みつけた背からその足が退かされた。


「つくづくと人気者なようだが、これ以上お前に付き合うつもりはない」


「は……?」


 ジークの言わんとしていることが理解できず、バイパーがその姿を追うのと同時に、屋根の上で唸り声と共に自らを囲む大量の瞳に気付かされてその息を止める。


 バイパーを見つめるその瞳のどれもに、強い負の感情が揺れ動いていることが嫌でも感じられ、その顔から血の気が引いた。


「ま、待て、取引をーーっ!!」


 そんな言葉を最後まで聞くことなく、ジークは初音の臭いと気配を辿って風のようにその姿を消したーー。






 同時進行で、パピーミルの一件から協力を申し出てくれた動物たちを主として、奴隷の国の下調べを依頼した。


 魔力が弱く獣人化できないほどの獣は知能や言語の汎用性が低いこともあり、同じ系統の種族同士でしか正確な意思疎通が難しい。


 かといって、奴隷の国で注目度の高い獣の協力者を送り込む訳にもいかず、人間に興味を示されないネズミや小鳥などに頼んで細々と奴隷の様子と居場所を把握する。


 戦力となりそうな奴隷がひと所に多くいる場所を初音と共に重点的に巡り、人間の協力者である初音の存在と臭いを印象付けながら、《《人間にはわからない獣の言葉》》でジークは数多の獣人や獣たちに声をかけて回った。


ーー反応を見せず聞け。夜空に上がる解放の狼煙は、支配者層を引き摺り降ろす合図だ。繋がれたお前たちを助けるのは共に解放される人間で、敵は人間ではなく《《他を虐げる者たち》》だ。


ーー《《到底許しがたい扱いを強いた者》》への感情にまで口出すつもりはないが、敵は見誤るな。手を貸してくれた者は、人間も、獣人も、誰1人として、見捨てないーー。


 その到底実現不可能で夢物語のような話しを、人間に紛れて一方的に話していった正体不明の獣人。


 半分が現実となりつつあるその言葉を思い出しながら、その自由を手に入れた多種多様の獣たちは月明かりの中で歓喜の咆哮をあげた。


 大部分の人間に目もくれずに走り出していく一方で、奴隷商然とした人間が猛然と襲われていく。


 路地裏で小さく震える少年を見つける度に獣人が足を止めるのに、その小さな体に牙や爪が掛けられることはない。


「違う! 悪かった!! お前の家族の行方も全て教えるからーーっっ!!」


 その一方で、全てを言い終える前に奴隷商だったその口は動かなくなった。


「たっ助けてくれ……っ!!」


 半泣きで、今し方興味半分に抱いたドレスを身に纏った獣人を拝み倒す男。そんな男を、へし折った奴隷商の首を片手に女の獣人は無言で見下ろした。


 ガタガタと震える男を眼下にしばし何事か考えた後、一つ息を履いたその姿は音もなくその場から消え失せる。


 決して乱暴を働かずに節度を弁えていた客は、しばし呆然とした後に街の出口へと逃げ失せた。


 容赦なく獣たちや解放された人間たちに飛びかかられる奴隷商や、奴隷と踏んで手酷く扱っていた者たち。


 その一方で、明らかにその存在を認知されながらも、数多の獣人や奴隷だった人間から見逃される者がいる異様さ。


 何かに操られているかのように、種族を超えてその統率を見せる獣人たちの理性さに人間たちは恐れ慄く。


 逃げ回る人間たちは、今までと明らかに何かが違うことをその身を持って、全身で感じていたーー。






「あらかた解放できましたかね!?」


 ふうと滲む汗を雑に拭った初音は、いい加減に檻や鍵を壊し過ぎて痺れが取れなくなった剣からようやくとその右手を離した。


 当初人と奴隷階級が入り乱れていた大きなホールは、今やほぼ空に近い状態となっていた。


 初音たちによって次々と解放される獣人と人間の奴隷たちを、当初はなんとかしようと奮闘していた施設の魔法使いと護衛は、次第に手に負えなくなっていく頭数にみるみるとその勢力を押されて早々に撤退していった。


「人間も、我々と解放された奴隷を除けばほとんど撤退したようだ」


 ふうと一息をついたギドが、剣を握ったままに額に滲む大粒の汗を袖口で拭って答えた。


「おい、まだこっちに何人かいるぞ!!」


「手伝います!!」


 ホールの端にある扉の影から、アスラが大手を振って2人を呼ぶ声に応える。


「いや、それにしても本当に成功するとは……っ! 助けたとは言え、獣人たちにあそこまで近距離で無視られるのも不思議なもんだったが……っ」


 ふうと大きく息を吐くアスラが、合流した2人と共に通路状に立ち並ぶ檻の鍵を手慣れた様子で壊していく。


 その檻の中で、小さく縮こまった黒髪の青年に初音の瞳が縫い留められる。


 ひどく痩せこけて、黒い髪は伸び切ってバサバサ。黒い爪先は元より明らかに不衛生で、その身体中がひどい傷跡だらけで目を背けたくなるような惨状に、初音は言葉を失った。

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