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奴隷商から逃げ出した動物好きなお人よしは、クロヒョウ獣人に溺愛されて、動物知識と魔法契約でその異世界を生きる。  作者: 月にひにけに
第二章 キミと生きる

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36.接触

「ーーで? その反乱分子の詳細はまだわからないのか?」


 パサリと手元の資料を散らかっている机上へと放り投げて、その男は鋭い視線で目の前の者を流し見た。


「はい、ヴェーラのパピーミルはかなりの規模であるが故に魔法使いと護衛も多くありました。屋敷に空いていた大穴などを見れば獣人のしわざと見ても不思議ではありませんが、あそこを壊滅させるにはよほどの戦力が必要です。獣人だけでも、人間だけでも難しいのではないかと……」


「つまり、人間と獣人が協力したそれなりの規模の集団だと?」


「ーーそう考えるのが妥当かと……」


 気まずそうに上げられた報告に、その男は不機嫌そうにその眉間にシワを寄せた。


「……バイパーの報告にあった、逃げ出した異世界人の女の行方は?」


 ぱらりと散らばった資料をめくり、一枚の手配書を見下ろして手を止める。


「そちらも未だ情報はありません。ただヴェーラのパピーミル以外にも、その近辺でハンターが立て続けに襲撃される事件がいくつか聞かれています。襲撃されたハンターは足を洗い、元々素性も怪しい者だったために行方の判明にはもう少し時間が必要です。また先日に貴族のグラン男爵の息子が主催した獣狩りの一団も襲われたようで、グラン男爵が騒いでいるとの話しも出ています」


「……貴族か、めんどうだな……。ひとまず見舞いという名目で早急に生き残りから情報を引き出し、もし詳細を知る者がいれば適当に理由をこじつけて連れて来い。いいか、これ以上は待てないと皆に伝えろ。異世界人の女を取り逃がしてからどれだけの日が経っていると思っている。使えないヤツは奴隷にすると周知しろ……っ!!」


「は、はい……っ!! ま、マスターの御用命のままに……っ!!」


 びくりとその身体を震わせて、血の気が引いた顔で部屋を後にする男。その存在から既に興味を失ったマスターと呼ばれたその男は、手元の手配書を見下ろしてグシャリと憎々しげに力を込めたーー。






「お初にお目にかかります。私はフィオナ・ギルベルト。この近辺を統治しております、ギルベルト伯爵の長女です」


 まだあどけなさを残した風貌でしゃなりと優雅に礼をして、真昼の大自然で微笑む場違いなその美しい娘に、初音とジークは困惑した。


 フィオナの背後にはギドと、なぜか解放した後よりも遥かにボロボロになって手当てされているアスラ。そして明らかに血の気が引いた顔で警戒している身なりの良い若い護衛と歳を重ねた侍女が1人ずつ。


 いささかこちらが心配になるような顔ぶれで現れたフィオナは、ジークと初音をじっと見つめた後に、護衛と侍女の静止も聞かずにその金に輝く頭を下げた。


「お願いいたします。私の大切な人が……私の友人である獣人を……助けたいのです……っ! どうか、どうか、お力を貸して下さいませんでしょうか……っ!」


 その小さな身体の少女の必死な碧い瞳を見つめて、初音とジークはそっと顔を見合わせたーー。






 時は少し遡るーー。


「ご機嫌麗しゅうございます、グリネット様。おかげんはいかがですか?」


「おぉ、フィオナ令嬢!! まさか、フィオナ令嬢が見舞いに来てくれるだなんて!!」


 可能な限りに高価な調度品で飾り立てられている一方で、どことなく品のかけるグリネットの生家であるグラン男爵邸。


 その権力を誇示するかのような、ギラギラしい応接間に息せき切って飛び込んで来たグリネットに、金の巻き毛と碧い瞳が美しいフィオナは、にこりと優雅に微笑んだ。


「……ん? そいつは……」


「先日は力及ばず、高貴な御身を危険に晒すこととなり誠に申し訳ございませんでした」


 大袈裟では、と突っ込みたくなるほどに包帯やらガーゼやらに包まれているグリネットは、フィオナの側に控える2人の護衛のうち1人ーー頭を下げたギドの姿にその眉をひそめる。


「あぁ、この間の護衛か……」


 イヤな記憶でも蘇ったのか、グリネットはガーゼだらけのその顔と口を歪める。


「ギドさんには以前からうちとも懇意にしてもらっているんです。そうしましたら、グリネットさんのお話しを聞きまして….」


「心配して駆けつけてくれたんですね!?」


 ガバリと嬉しそうに身を乗り出すグリネットから最大限にその身を遠ざけて、フィオナはニコリと硬い笑みを浮かべた。


「獣人に襲われたと聞いて心配をしておりましたが、お元気そうで安心いたしましたわ。ーーそれで、少しお願いがあるんです」


「お願い……?」


 グリネットの前髪を掻き上げた最大限の流し目を華麗にスルーして、フィオナはグリネットから一歩、距離を取る。


「アスラと言う魔法使いを、契約の後もこの屋敷に留めているようですね。今回の襲撃事件、この地を統治する父も気にかけております。なので、襲撃犯と1番長く接触したその魔法使いから事情をお伺いしたく、その身柄をお引き渡し頂けませんか?」


「ーー……伯爵様のご用命でしたら別に構いませんが……」


 そう言いながら明らかにバツが悪そうなグリネットを見て、フィオナはそっと胸を撫で下ろす。


 獣人に手酷くやられていたのを療養させていたのだと、苦しい言い訳を嘘吹くグリネットが連れて来たボロ雑巾のようなアスラに、面々が顔色を変えたのは言うまでもなかったーー。

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