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奴隷商から逃げ出した動物好きなお人よしは、クロヒョウ獣人に溺愛されて、動物知識と魔法契約でその異世界を生きる。  作者: 月にひにけに
第一章 アニマルモンスターの世界へようこそ!

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26.再会

 はぁはぁはぁと、月明かりに照らされた平原を灯りを持って駆ける人影の一団。


「ーーいいかっ! 絶対に離れるなよ!? ワシを囲め! おいっ! 貴様! 隊列が乱れとる! 減給するぞ! しっかりしろ!」


 ハヒハヒと苦しそうに喘ぐ息遣いの合間でぎゃぁぎゃぁと騒ぐ声が、静かな、けれど生き物の息遣いが見え隠れする夜の闇に響く。


 魔法の効かない獣人。ましてや魔法を使える獣人からみれば、人間など赤子同然であることは分かりきっていた。


ーーよくわからんが今のうちだ! アイツの目的はあくまでケモノ! 金は惜しいが命の方が大事! あれだけのケモノを逃すにはかなりの時間がかかるはず……っ!! 腹が立つのは馬車の類を壊されて、馬も逃がされたことだが、ワシにはまだ手練の魔法使いがいるんだ! あの完全体のクロヒョウさえ追いかけて来なければ! 他の獣人ならまだ何とかなる! このまま隣街まで逃げれば、ワシにはノウハウがあるんだ! あの施設を捨てた所で、命さえあればまたーー!!


「うがっ」


「なんだっ!?」


「じ、獣人です!!」


「たっ助けてっ!!」


 突如姿を闇に消した護衛が、月明かりに照らされた草葉の間で身体をバタつかせる。


「ギャウッ」


 直ぐさまに魔法を唱えだした魔法使いに反応して、護衛に覆い被さっていた狼の吠える声が響いた。


「はっ! 所詮はケモノか! 人間に敵わないこともわからんとは、アホどもがーー」


 勝ち誇ったように腹の突き出た男が言い終わるよりも早く、狼に向けて魔法を唱えていた魔法使いがその身体を大きくて白い影に攫われる。


「えーー?」


 そろりと残された皆で暗闇の様子を探れば、唸り声と共にその白い体躯を月明かりに照らした白虎が魔法使いを踏み倒してその瞳を光らせた。


「ひっ! まっ、魔法使い! 何とかしろ!!」


「うわっ」


「ぎゃぁっ」


「何しとるんだ! さっさとしろ!」


「むっ、無理です! 数がっ! 数が多すぎてっ!!」


 焦ったように怒鳴る男に返された言葉で、男はハッとして周りを見回す。


 気づけば数えきれない程の光る瞳と、大小様々な生き物の息遣いが男たちを取り囲んでいた。


 自身の血の気が引く音を聞きながら、男は目の前を掠めて落ちていく何かに気づいて視線を上げる。


「な……そんな……っ」


 そこには月を背後に背負った翼を持つ無数の生き物たちが、空を覆い尽くしていた。


「うっ、うわあぁぁぁっ!!」


 パニックを起こした警護や魔法使いが次々と攫われ、そばを離れていく様を男は目を見開いて見ているしかできない。


「かっ、金っ! 金をやる! 金ならやるからっ! 誰かワシを! 誰かワシをーーっ!!」


 男の悲痛な声は、月明かりの中で獣の唸り声に掻き消されたーー。






「ママ! パパ!」


「アイラ!!」


「大きくなって!」


 慌ただしかったあの騒動から一夜が明けて、初音とジークは道中で追いついたヒョウたちの一行と荷馬車に乗り合わせて戻って来ていた。


「はつねっ、るすばんっ、えらいっ?」


「ネロもお留守番ありがとうっ」


 パタパタとその愛らしい容姿で駆け寄ってくるネロにデレデレになりながら、初音はその小さな身体を抱き留める。


「お兄! お姉! どうして!? って言うか赤ちゃんっ!? えっ!? アイラお姉ちゃんになるのっ!?」


 追いつかない情報に翻弄されながらも、大粒の涙を浮かべて両親から離れないアイラ。


 そんな様子を見届けて、初音はネロを抱えて、ジークと共にその場をそっと後にした。


「……ジークは良かったの?」


 上から下までコスプレの上に、森の中でのスカートはどうにも不安で、屋敷を漁る最中に見つけた長ズボンとブーツを拝借した。


 上は着せられた学生服のままだったけれど、いくらか落ち着いた服装で森の中を初音は歩く。


 チラリと横を歩くジークを見上げれば、気のない素振りでクァとあくびを噛み殺しており、チラリと見える鋭い犬歯が少し可愛かった。


「俺との再会はもう済んだだろう」


「せっかくなんだし、もっとゆっくりすればいいのに」


 ボソリと言葉を重ねれば、ジークはじとりと初音を横目で見てしばし黙り込み、ハァと息を吐くと諦めたように口を開いた。


「俺の血縁は別にいる。俺は……1人でいた所をアイラの一家に拾われたんだ」


「……そうなんだ……」


 足を止める初音を振り返り、ジークはため息を吐いてポンと初音に抱えられたネロを撫でる。


「別に珍しいことじゃない。アルビノや白変種みたいな、通常と毛色が違うヤツは自然界だと目立つだろ。それはそのまま生存確率に直結するから、放棄されることは多いんだ。増してやあんな毛色の違う者ばかりを集める輩まで現れれば、《《そうなる》》のも致し方ない」


「そっか……」


 火の手が踊る屋敷で手分けして探した中には、多くの動物たちのデータや引き渡し先、顛末などがまとめられた書類が多く見つかった。


 気にはなっていたことだったが、毛色が違う動物たちの比率の多さには違和感を覚えていた。


「あいつもそこに目をつけたんだろうな。群れから外れ易くて捕まえ易い。珍しいから希少価値も上がるし、意識的に掛け合わせれば遺伝する確率も通常よりは高くなるんだろう。それこそ一石二鳥……いや、三鳥くらいか」


「本当に碌でもない…………でも、私たちは追いかけなくて良かったの……?魔法使いもいたみたいだし、一応白狼が報告には来てくれたけど、万一取り逃してたら……」


「……まぁ、多分大丈夫だろう。やられたって報告はなかったし、俺たちにしかできないことも多かった。何よりーー」


 そこで言葉を切るジークを見上げる。


「自分たちで、ある程度のケジメはつけたいだろうからなーー」


「ーー…………そっか……」


 失ったものが、戻ってきた者ばかりではない。


 子どもも、時間も、痛みも。死にゆく同胞の姿を明日は我が身と、あの狭い檻から見ることしかできなかったその心境を、軽く言葉にすることはできなかった。


 腕の中のネロを抱きしめて、グッと唇を噛み締める初音を、ジークは静かに見下ろしたーー。




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