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奴隷商から逃げ出した動物好きなお人よしは、クロヒョウ獣人に溺愛されて、動物知識と魔法契約でその異世界を生きる。  作者: 月にひにけに
第一章 アニマルモンスターの世界へようこそ!

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18.パピーミル

「……どこに行くの?」


 詳細も伝えられずに、初音は「行くぞ」とジークに連れ出され、夜の闇を荷馬車に積まれて運ばれていた。


 ハンターたちを逃しはしたものの、馬を含めた荷馬車に持ち物などその身ぐるみを剥がしていたらしい。


 器用に馬を操るジークは、しばしの後に全く違うことを言う。


「……ネロから離れてどうだ」


「……前みたいなざわつく感じはないかな。待っててねって言ったから? ……でも、そんな簡単なことで……?」


「……恐らく主従契約の類なんだろう。どこまでの強制力があるかはわからないが、多少の制約の代わりに魔力を分け与える。……似たような魔法を、人間が使う」


「それなら、契約を解除する方法もすぐわかりそうかな?」


「…………だといいがな」


 いつになく口数の少ないジークに、初音は視線を揺らす。


「そう言えば、身体の上で寝ちゃってごめんね。重かったよね……」


「…………別に」


 だんだんと聞き慣れてきたジークの定番な返しに苦笑して、初音は落ち着かない心を隠すように尚も口を開く。


「ジーク、話したくないことなら……聞き流してくれたらいいんだけど、あの……2人のお父さんとお母さんは…………」

 

 ジークの上で皆と一緒に寝てしまった後、初音はアイラのうなされるような、か細い声で起こされた。


「…………ママ…………パパ……っ」


 夢の中で眉根を寄せる幼い顔。思わず呼びかけて、その髪に手を伸ばして撫でると再び寝入ったけれど、その目には涙が滲んでいた。


 その声をジークも聞いていたのか、初音の言葉にジークは無言で馬を走らせていたが、しばしの後に口を開く。


「……ハンターに捕まった」


 初音を振り返らずに発された低い声音に、初音の心臓が鳴った。


「……人間の流行りや好みで、狙われる種族にも差がでる。……ヒョウは昔から毛皮としてよく狙われたから、さほど敵もいないのに今ではかなり数も少なくなった。クロヒョウも多少珍しい分、追いかけ回される」


「……そう……なんだ……」


 そんな所まで一緒でなくていいのにと、頭に流れる情報に初音は無意識に眉をしかめて俯いた。


 思わず手をギュッと握りしめたところで、何の意味もない自身の無力さが歯がゆい。


「ーーごめん……」


「………………別に……初音が捕まえたわけではないだろ」


 素っ気なく返されて、初音は言葉を見失う。


 確かに初音が直接関わったことではないにしろ、無関係とはとても思えない。


 何かできることはないのだろうかと、初音が唇を噛んだ時、ジークが口を開く。


「…………ただ……捕まってる2人の場所は突き止めた」


「……えっ……!? 本当にっ!? だって……追跡できないって……っ!?」


「……追っていたハンターたちは執拗に生け取りに拘っていたから、ひとまずは毛皮でないとは踏んでいた。労働や戦闘奴隷では労力の価値が見合わない。物好きの愛玩用か、《《繁殖用》》だと目星をつけて、ダメ元で人間の領分を闇に紛れて探し回っていた」


「………………」


「幸か不幸か《《クロヒョウを産んだ実績》》があったから繁殖用に回されたんだろう。だが、見つけた所で俺にはどうにも出来なかった」


「……アイラちゃんは……? 知ってるの?」


「……知ったところで手も足も出ないのに、知らせてどうなるんだ。アイラの性格なら、みすみす捕まりに行くのが目に見えてる」


「…………2人は……どこにいるの……?」


 初音はごくりと喉を鳴らして、振り返らないジークの背中を見つめる。


「…………パピーミルーー金銭目的で、動物を繁殖させる工場だ」


 そう言って馬の足を緩めたジークの視線を追う。


 闇の中で浮かび上がる壁に囲まれたその大きな建物を、初音はごくりと喉を鳴らして見上げたーー。






 並び立つ鉄格子。不衛生であることが直ぐにわかるほど、そこに充満する空気はひどいものだった。


 ひどい糞尿や体臭、様々な鳴き声と気配が隣同士お構いなくひしめき合う。


 小さく区切られたその檻にはご丁寧に一つ一つ魔法陣がついており、その広さには不釣り合いな体格の多種多様な動物が詰め込まれ、満足に身じろぎもできずに身体を檻に擦った。


 そのどれもが痩せて、毛並みも悪く、生気もない。


 そんな数えきれない檻部屋の1番奥。檻だけに飽き足らずその周囲にまで、二重に魔法陣がつけられた、一際頑丈な風体の大きな檻。


 そこにぐったりと横たわるメスのクロヒョウと、寄り添うようにその身体を舐めるオスのヒョウがいた。


「こないだは3匹産んで1匹だけだが、まぁまずまずの確率だ。劣勢遺伝が強く出る組み合わせと言うのがあるんだろうな。大金叩いて捕らえさせた甲斐があったわぃ。惜しむらくは、一緒にいた子どもを捕らえ損なったことだが、まぁいいだろう」


 クロヒョウの檻の前で満足気にニマニマとアゴをさすり、でっぷりと太った腹を晒しながらいやらしい笑みを見せる1人の男。


 その服装はその姿には不釣り合いなほど華美に飾り立てられている。


「また探しに行かれたくなければ、その調子でせっせと子どもを産め。そうすれば生かしてやるし、産まれた子どもだって悪いようにはせん。ワシの雇うエリートな配下が、残したクロヒョウを探しに行くこともしないなら、お前らも安心だろう?」


 へっへっへっと下卑た笑いを浮かべて、男は檻の中へと一方的に話しかける。


 そんな男を檻の中からオスのヒョウがグルグルと喉を鳴らして威嚇するが、男は歯牙にもかけない。


「良かったじゃないか? 運良く(つがい)で捕まって。どこの誰ともわからんヤツと子を成すのも大変だろう。あぁ、お前らは発情期に相手など気にしないんだったか。まさしくケモノだな」


 はっはっはっと1人笑うその男は、上機嫌で檻に背を向ける。


 ぐったりと横たわったままに、薄く開いた金の瞳でその背中を見つめたメスのクロヒョウは、檻の中でゆっくりとその瞳を静かに閉じたーー。






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